3-1 受け入れがたい役割
俺はまだ、団長の模型を拝んだことがない。
興味がないわけじゃない。むしろ溢れんばかりだ。かつては王家親衛隊に所属し、今なお幻創協会からも最高クラスの実力と評される創作家(クリエイター)の作品を見てみたいと願うのは、駆け出しの新人として至極真っ当な感情だろう?
しかし、その機会は中々訪れない。己の手の内をメンバーに公開する義務を負うのは平団員だけだからだ。実際俺は、副団長の模型に至っては名前すら知らない。
となれば現場で実際に拝むしかないのだが――。
団長の仕事とは将棋の指し手のようなもの。メンバーの力量と模型の能力を理解し、最も相応しい場所に配置する。現場に出るのは不測の事態が起こった時のみ。そして全くありがたいことに、俺が入団してからの一年、不測の事態とやらは一度も起きていない。
優秀な駒が揃っているせいもあるだろう。
追跡に優れるクライセン。
純粋に高い武力を持つシュレン。
素人の世話を任されても苦にしないリヒト。
生け捕りに最適の能力を持ち、常にチェックメイト用の駒として使われるリーフィ。
お陰で『霧雨の陣』は様々な依頼主から厚い信頼を寄せられている。特に誘拐・人質が絡んだ事件に関しては無二の解決率を誇っていた。
ちなみに、特筆すべき長所を持たない俺は、身の軽さを活かして攪乱諜報といった役どころ。入団後、予想外に使いやすい駒だったという団長の呟きを副団長が聞いたらしい。喜んでいいのかどうか判らない。
とにかく、俺は団長の能力や指揮を信頼しているし、他のメンバーだって同じだろう。
だが俺は今日、初めてその采配に異を唱えようとした。
何故なら、今回俺に課されたのは――。
クライセンの護衛、だったからだ。