第二十三話 未来のはじまりの町と、棺を守る濁竜
【場所移動:はじまりの町(未来)】
移動先の欄に、その名前を入れて、保存を押した。
タッタッタッ。
視界が開けると、見覚えのある町並みが、目の前に広がっていた。
踏み固められた土の道。同じ高さ、同じ形で並ぶ家々。北へ向かう道の先には、遠く、山の稜線が見える。
はじまりの町だった。
「……あれ?」
足を止めた。
過去のおじいさんとおばあさんのところに行くんじゃなかったのか。
念のため、編集画面を開いてみる。
【移動先:はじまりの町(未来)】
「……やっぱり未来って、書いてあるな」
レフト兄弟は、たしかに「過去」と言っていた。しかし、編集画面には、はっきりと「未来」と表示されている。
「言ってることが違うじゃないか……」
気にはなったが、今すぐ確かめる方法もない。とりあえず、梅太郎たちの様子を見ることにした。
俺は、近くの民家の壁際に身を寄せた。
ほどなくして、町の入口に、四つの影が現れた。梅太郎、シャフト、スライム大統領、ナカシマ。全員、少し目を白黒させている。
「……戻ってきたのか?」
「いや、何かが違う。空気が」
ナカシマが、あたりを見回した。
町を歩いていくと、村長が、道の真ん中に立っていた。
いつものように、大根の話でもするのかと思ったが、今日は、様子が違う。肩を落とし、すっかり元気をなくしていた。
「おお、梅太郎か……。最近、大根が取れなくてのう。悲しみでどん底じゃ」
「いや未来に来ても、大根なのか……」
梅太郎が、ぼそりとつぶやいた。
この村長にとって、大根は、時代を超えた問題らしい。
すると、シャフトが、おもむろに何かを取り出した。
「元気出せよ、村長。これ、あげるからさ」
それは、以前、村長からもらった、切り干し大根だった。
シャフトは、それを、村長の手のひらに乗せた。
「おおっ! これは……見事な大根おろしじゃ!」
「いや、切り干し大根だけどな」
梅太郎が、小声で訂正した。
村長は、目を輝かせている。
「だ、誰が作ったんじゃ?」
梅太郎とシャフトは、顔を見合わせた。
「えっと……」
「まあ、そこはいいじゃねえか!」
本当のことを言えば、あなたが渡したものですよ、と伝えることになる。だが、今の村長が、それを知って、どうなるのか。
二人は、うまく話をはぐらかした。
「そうか……。また教えてくれ」
村長は、切り干し大根を、大事そうに抱えた。
「……なんか、不憫だな」
壁際で、静かにそうつぶやいた。
未来に来たというのに、村長は、相変わらず、大根に振り回されていた。
一行は、北の浜辺へ向かった。
以前は、枯れ木のグラフィックが、道を塞いでいた場所だ。しかし、今は、枯れ木がなくなっている。
「お、通れるようになってる」
シャフトが、道の先を指さした。
俺は、編集画面を開いて、確認した。特に、何かを直したわけではない。時間が進んだからなのか、それとも、誰かが変更したのか。今のところ、分からなかった。
浜辺に出ると、そこには、例の緑色の光が、ぽつんと浮かんでいた。
「……まだ、いたのか、お前」
梅太郎が、近づいて話しかける。
すると、画面に、選択肢が表示された。
【鬼ヶ島に行きますか?】
はい
いいえ
「……なんか、すごく事務的になったな」
以前は、もっと、何かこう、カメ感はあった雰囲気があった気がする。今は、ただの移動イベントである。
「まあ、いいか。行こう」
梅太郎が「はい」を選ぶと、画面が、切り替わった。
大穴に架かる橋を渡り、鬼ヶ島の入口に立つ。
俺は、橋のたもとの岩陰に、身をひそめた。
そのとき、どこからか、声が響いた。
「ヨクキタナ、ウメタロウ! キサマヲセイバイシテヤル!」
聞き覚えがあるような無いような声であった。
「ユケ! クチャドック! クチャバード! クチャモンキー!」
「「「ギョイ……」」」
橋の向こうから、三体のアンデッドが、這い出してきた。
犬、猿、キジ。
かつて梅太郎を裏切った、あの三匹だった。
「おいおい、こいつら、倒したはずだろ!」
梅太郎が、叫んだ。
しかし、三匹は、問答無用で襲いかかってきた。
戦闘開始。
……そして、あっさり勝利した。
「弱っ!」
梅太郎が、拍子抜けした声を出した。
いや、正確には、弱いわけではない。地獄で散々戦闘をこなした結果、梅太郎たちのレベルが、上がりすぎていたのだ。敵の攻撃が、ほとんど通らない。
「……ゲームバランス、完全に崩壊してるな」
岩陰で、苦笑した。
一行は、洞窟の中へ進んだ。
かつて、道中にあった宝箱は、すべて空になっていた。
「まあ、そりゃそうか」
ナカシマが、空の宝箱をのぞき込んだ。
一度回収したものが、時間を移動したからといって、復活するわけではないらしい。
……いや、そもそも、本当に未来なのかどうかも、分からないのだが。
考えるのは、やめた。
洞窟の奥まで進むと、一つの棺が、置かれていた。その前には、大きなドラゴンが、立ちはだかっている。
「ギェェェェ!」
ドラゴンが、咆哮し、襲いかかってきた。
【棺を守る濁竜】
「……濁竜?」
梅太郎が、首をかしげた。
どこか、カードゲームに出てきそうな名前である。
戦闘が、始まった。
濁竜は、大きな翼を広げ、鋭い爪で攻撃してくる。だが、梅太郎たちは、動じなかった。これまでの冒険で鍛えられた彼らにとって、もはや、この程度の敵は、相手にならない。
あっさりと、濁竜を倒した。
一行は、棺に近づいた。
ギギギ……。
蓋が、ゆっくりと開く。
中から現れたのは――
アンデッド化した、エンマだった。
「クソ……! ドコマデモワタシヲオチョクルトイウノカ……カクゴシロウメタロウ……」
「……またお前か」
梅太郎が、うんざりした顔でつぶやいた。
かつて鬼ヶ島で倒したエンマが、今度は、アンデッドになって復活している。一体、何度戦わせるつもりなのか。
そのときだった。
「ナーハッハッハッハ! ナーハッハッハッハ!」
別の声が、洞窟中に響き渡った。
「貴様はもう用無しだ!!!」
邪悪な光が、アンデッドエンマを包み込んだ。
光は、どんどん強くなり、エンマの姿が、見えなくなっていく。
「ク、クナイキャウサマ……!」
最後に、何かを言い残し、エンマは、完全に光の中へ消えた。
「……誰だ、今の?」
シャフトが、あたりを見回した。
岩陰で、俺は、その笑い声に、聞き覚えがあるような気がしていた。洞窟で、梅太郎たちを取り囲んだ、あのジジイの、高笑いだ。
ファーン。
ファーン。
またしても、あの神々しい効果音が、鳴り響いた。
光の中から現れたのは、レフト兄弟だった。
「ナンデコンナトコロニイルンダ?」
「サキホドノクナイキャウトイウオトコガ、ドコカニニゲテイッタゾ!」
「テンソウシテヤル!」
「いや、説明してくれよ!」
梅太郎の叫びも、むなしく、画面が、光に包まれた。
四人は、頼んでもいないのに、転送された。
「…………」
洞窟には、俺だけが、残された。
編集画面を開いて、イベントの内容を確認する。
しかし、メモは、残っていなかった。
「……このくだり、当初からあったのかな?」
二十五年前の制作者が、最初から、この展開を考えていたのか。それとも、あとから、何となく追加したのか。
今となっては、分からない。
「メモがないなら、仕方ないか……」
編集画面を、一度閉じた。
「一つわかったことは、ラスボスはおそらく、"くないきゃう"という男。次に行くか」
梅太郎たちが転送された先を、移動先の欄に入れる。対象は【自分】。
保存を押す。
タッタッタッ。




