↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/22

第十五話 ゴンザレスの依頼と、足りない容量

扉の前に着くと、重たい木の扉が、ぎい、と開いていた。


洋館の中は、赤い絨毯が敷き詰められていた。


正面には大きな窓があり、その向こうには森が広がっている。なかなか立派な造りだ。これまでのマップと比べても、ずいぶん気合が入っている。というより、これはきっとデフォルトマップだな。


俺は、玄関ホールの大きな柱の陰に身を寄せた。


ほどなくして、梅太郎たちが、扉をくぐってきた。


そのとき、二階の手すりの向こうから、怒鳴り声が降ってきた。


「うぬぬ、きゃつらめ。どこ行きおった!」


……なんか、怒ってらっしゃる。


何があったのかは分からないが、相当ご立腹のようだ。


二階にいたのは、いかにも洋館の主人らしい、立派な身なりの人物だった。その人物は、梅太郎たちに気づくと、手すりから身を乗り出した。


「お? 客人か? よくぞ来てくれた。見たところ、旅のものとみた。話を聞いてくれんか?」


「いきなりだな」


梅太郎が、小声でつぶやいた。


見ず知らずの旅人に、いきなり依頼。よくある依頼クエストの始まりだ。


柱の陰で、俺は、うんうんとうなずいた。こういうところは、ちゃんとRPGらしい。


梅太郎、シャフト、兵士、未来人の四人は、主人に招かれて、別室へ移っていった。


俺は、編集画面を開いた。


移動先に、洋館の別室を指定する。対象は【自分】。


タッタッタッ。


視界が開けると、部屋の隅に、背の高い本棚が並んでいた。その後ろに、身をひそめる。


部屋の中央には、テーブルと椅子が並べられていた。


全員が席に着くと、主人が、さっそく話し始めた。


「私の名前は、ゴンザレス」


ゴンザレス。


……ずいぶん、覚えやすい名前だな。


「最近、私の土地にスライムが住み着いており、困っておる。いつ襲われるか分からず、落ち落ち寝ておれん」


なるほど。スライム退治か。RPGの依頼としては、実に王道だ。


「討伐を試みたのだが、今、護衛たちが別用で行けないのだ」


護衛が別用。それは、大変だ。


「そこで頼みです。スライムを討伐してくれんか? 褒美はたっぷりあげるぞ」


「はい、喜んで」


シャフトが、即答した。


……早い。


梅太郎も、兵士も、未来人も、驚いたようにシャフトを見ている。


「お前、もう少し、考えてから答えろよ」


梅太郎が、小声で突っ込んだ。


本棚の陰で、俺も、同じ気持ちだった。


依頼の内容も、報酬の具体的な額も、敵の強さも分かっていない。それなのに、シャフトは、迷いなく引き受けた。


「そうか! よくぞ言ってくれた。それでは、裏口から住処まで行けるはずだ」


ゴンザレスは、満足そうにうなずいた。


「頼んだぞ、旅のもの」


こうして、スライム討伐の依頼が決まった。


……あっさりしている。


もし、ここで「いいえ」を選んでいたら、どうなっていたんだろう。もう一度、依頼を受けるか聞かれるのか。それとも、無限に「頼んだぞ」と言われ続けるのか。


考えるだけで、面倒だ。


シャフトが即答してくれたおかげで、無駄なやり取りをせずに済んだ。


胸をなで下ろして、編集画面を開き、イベント設定を確認した。


すると、メモが見つかった。


【メモ更新日:25年前】


『ここのイベントは、アンソニーイベントに続いて、説明書に載っていたシーン。貴族が「うぬぬ、きゃつらめ」と言っているシーンをただ作りたかった。』


「……なるほど」


これも、ただやりたかったシリーズか。


アンソニーのときと同じだ。説明書に載っていたシーンを、自分のゲームで再現したかった。それだけ。


ただ、アンソニーのイベントよりは、意味がありそうだ。少なくとも、今回は、スライム討伐という目的につながっている。


なんとなく、制作者のことが、分かってきた気がした。


面白そうだから作る。かっこいい場面だから再現する。そして、できあがったイベントに、あとから理由をつけていく。


……いや、実際のところは、分からないけどな。


編集画面を閉じた。


梅太郎たちは、ゴンザレスの洋館を出て、スライムの住処だという洞窟へ向かった。


俺は、先回りして、洞窟の入口の岩陰へ移動した。


洞窟は、南の森にあったダンジョンと、同じくらいの広さだった。長すぎず、短すぎず。適度な数の敵が出現し、道中には、無駄な寄り道もない。


そして、今回の洞窟には、一つ違いがあった。


敵に、名前がついているのだ。


【スライム】


赤いスライム。


【スライム】


青いスライム。


【スライム】


緑のスライム。


【スライム】


黄色いスライム。


「……全種類使ったんだろうな」


岩陰から、画面を見ながら、つぶやいた。


色違いのスライムが、次から次へと出現する。赤、青、緑、黄色。せっかく四種類あるのだから、全部登場させたかったのだろう。


その気持ちは、分かる。


分かるんだが……。


「こいつら、やたら強くないか?」


梅太郎が、肩で息をしながら言った。


スライムの攻撃が、四人のHPを、どんどん削っていく。火炎を吐く青龍と紅龍ほどではないにしても、なかなかの強敵だ。


「スライムって、もっと序盤に出てくる、弱いモンスターじゃなかったか」


シャフトも、首をかしげている。


こっちは、ようやくスライム退治の依頼を受けたばかりだぞ。


……いや。


そうだった。


このRPGは、俺の常識を裏切ってくるゲームだった。


スライムだから、弱い。宝箱だから、お宝が入っている。仲間になるなら、それなりの理由がある。そんな常識は、ここでは通用しない。


もう、細かいことを考えるのは、やめた。


特に、修正する必要もなさそうだ。敵は強いが、梅太郎たちは、順調に進んでいる。


俺は、編集画面も開かず、ただ彼らの冒険を眺めていた。


……そういえば。


最近、忙しすぎて、ゆっくりしたことがなかったな。


仕事では問題を解決し、家では家のことをこなし、空いた時間には趣味をちょっと入れ込む。何かをやっていないと、落ち着かない。そんな毎日だった。


でも、今は違う。


目の前では、梅太郎たちが、勝手に冒険を進めている。俺が手を出さなくても、敵を倒し、道を進み、少しずつ目的地へ近づいている。


もちろん、何かあれば、修正する必要はある。それでも、今は、何もすることがない。


「……たまには、こういうのもいいか」


何も考えず、ただ眺めている。


それだけなのに、妙に気持ちが落ち着いた。


そのとき、ふと、思った。


この世界は、俺が編集できる。マップを作ることもできる。イベントを設定することもできる。敵の強さだって、変えられる。


だったら――。


「……俺が、オリジナルのイベントを作ることも、できるんじゃないか?」


梅太郎たちのために、何か新しい冒険を用意してやる。


今までのように、誰かが作ったイベントの不具合を、修正するだけじゃない。俺自身が考えたイベントで、梅太郎たちを冒険させる。


そう考えると、少し、ワクワクしてきた。


例えば、ダンジョンとダンジョンの間に、ちょっとした町を作る。そこでは、強力な武器が、格安で買える。あるいは、簡単にレベルを上げられる場所を用意する。そうすれば、梅太郎たちも、楽になるだろう。


今までの冒険は、何かと苦労が多かった。少しくらい、俺が助けてやってもいいんじゃないか。


「よし、試してみるか」


編集画面を開いた。


まずは、マップの新規作成。


操作を進め、作成ボタンを押す。


【容量が足りません】


「……え?」


もう一度、確認する。


やはり、同じ表示だった。


「じゃあ、イベントだけでも……」


今度は、イベントの新規作成を試してみる。


【容量が足りません】


「……は?」


何だ、それ。


設定画面を開き、データ容量について調べた。


すると、そこには、見慣れない表示があった。


【データ領域:1】


【使用ブロック数:15/15】


「……十五?」


データ領域は一つ。そして、ブロックという単位で管理されているらしい。その最大容量は、十五ブロック。


現在、すべて使い切っていた。


「プレステか!」


思わず、声が出そうになった。


俺自身、プレイステーションで遊んだ経験はない。ただ、レトロゲームの本で読んだことがあった。当時のメモリーカードは、十五ブロックが最大容量だったという話だ。


まさか、異世界に来てまで、容量不足に悩まされるとは思わなかった。


いや、そもそも、ここは異世界なのか。俺は、作りかけのRPGの中にいるだけなのかもしれない。だとしたら、この容量制限も、元のゲームの仕様なのだろう。


「……まあ、管理者にも悪いし、新しいイベントを作るのは、やめておくか」


勝手にデータを増やして、何か問題が起きても、困る。


それに、よく考えれば、強力な武器を格安で売ったり、簡単にレベルを上げられるようにしたりするのも、どうなんだろう。そんなことをしたら、冒険が、つまらなくなってしまうかもしれない。


苦労して、敵を倒す。迷いながら、先へ進む。ようやく手に入れた武器で、強敵を倒す。


そういう積み重ねがあるからこそ、冒険は、楽しいのだ。


「……コツコツ苦労して進んでいくから、楽しいんだよな」


自分で言って、少し、笑ってしまった。


なんだか、人生みたいだ。


何もかも簡単にできたら、きっと面白くない。苦労した先に何かがあるから、進んでいける。


……まあ、現実の苦労は、もう少し減らしてほしいけどな。


そんなことを考えているうちに、梅太郎たちは、洞窟の奥へと進んでいた。


そして、ついに、一番奥へ到着した。


いかにも、ボスが待ち構えていそうな場所だ。


梅太郎たちが、奥の扉の前で足を止める。


「……いるな、これ」


「いるっぺ」


シャフトが、静かに刀に手をかけた。


その背中が、扉をくぐった瞬間、タッタッタッ、と軽い効果音が鳴った。


その音に合わせて、端から順に、黒く塗りつぶされていく。


俺も、編集画面を開いた。


……さて。


今度は、何が出てくるんだ。


移動先は、洞窟の奥の部屋。対象は【自分】。


タッタッタッ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。