【第2話】完璧な女の嘘
東京の夜は、どれだけネオンが煌びやかでも、一人きりの部屋までは照らしてくれない。
午前二時。
六畳のワンルームマンションで、結城紬(28歳・Webデザイナー)はベッドに寝転がったまま、スマートフォンの青白い光に顔を照らされていた。画面に映っているのは、今日紬自身がSNSに投稿した写真だ。
「#週末のご褒美」「#最高の仲間と」
お洒落なビストロの料理写真に、そんなハッシュタグが添えられている。もちろん、嘘だ。
写真は数年前の使い回しで、今日の夕食はコンビニの冷やし中華だった。
投稿にいくつか「いいね」がつくものの、親指を動かすたびに、自分の人生がひどく薄っぺらで、誰からも必要とされていない透明な存在であるという事実が、胃の腑に重くのしかかってくる。
今日、職場でミスをした。
同じチームの先輩である篠原が不器用に庇ってくれたものの、ひどく惨めな気分だった。誰かに愚痴を聞いてほしかった。
ただ「頑張ってるね」「あなたは悪くないよ」と、私のすべてを無条件に肯定してほしかっただけだった。
しかし、メッセージアプリの履歴を開いても、並んでいるのは業務上の連絡か、企業の公式アカウントからの広告だけだ。
学生時代には親友と呼べる存在もいたが、いじめられ始め、次は自分がいじめの標的にされるのを恐れて、彼女を見捨ててしまった過去がある。
今さら誰かにすがる資格など、自分にはない。
「……誰か、いないの」
ぽつりとこぼした呟きは、誰の耳にも届くことなく、冷えた部屋の空気に溶けて消えた。
孤独が物理的な重さを持って胸を圧迫し始めた、その時だった。
『ポンッ』
静寂を切り裂くように、軽快な通知音が鳴った。
画面の上部に表示されたポップアップを見て、紬は怪訝に眉をひそめる。
【桐谷美咲さんから、完全招待制コミュニティ『Haven』への招待状が届いています】
「……桐谷さん?」
半年前まで同じ職場で働いていた、大人しい同僚だ。
寿退社したと聞いていたが、それ以来まったく連絡を取っていなかった。
なぜ、こんな夜更けに彼女から?




