【第9話:決着と処刑、そして1000万】
「あ……が……ッ……!」
弁護士は痙攣したように唇をわななかせ、喉の奥から空気が漏れるような掠れた音を立てるだけだった。かつて法廷で数々の強敵を論破してきた明晰な頭脳は、ヒロキの放った理不尽な極論と悪意によって完全に破壊されていた。
「勝負あり!! 否定派、論理崩壊により敗北判定が確定しましたァッ!!」
司会者レオンの狂喜に満ちた絶叫が闘技場に響き渡った瞬間、弁護士の首に巻かれた爆弾ベルトが、鼓膜を突き破るような甲高い警告音を発した。
『ピーーーーーーーッ!!』
そして、一切の慈悲もなく。
ドォン!という腹に響く鈍い爆発音とともに、強烈な閃光が走った。
観客の熱狂的な歓声と悲鳴が入り混じる中、弁護士だったものの肉体が崩れ落ちる。首から上が無残に弾け飛び、血の雨を降らせながら、重力に従って冷たい床へとどさりと倒れ込んだ。
凄惨な光景だった。普通の人間なら、目の前で人が破裂して死んだ現実に耐えきれず、狂乱して嘔吐するだろう。
だが、顔に生暖かい血飛沫を浴びたヒロキの心にあったのは、恐怖でも罪悪感でもなかった。
「……ははっ」
ヒロキは、自分の口から漏れた歓喜の笑いを止められなかった。
勝った。完全に言い負かしてやった。自分のような社会の底辺のクズが、立派な肩書きを持ったエリートを「言葉」だけで徹底的に屈服させ、その命すらも奪い取ったのだ。全身の毛穴が開くような、全能感にも似た圧倒的な快感が脳髄を駆け巡る。
「ヒャハハハ! 素晴らしい! これぞ『しゃべらすな』の醍醐味! では勝者であるヒロキ選手に、至高の報酬を!」
レオンが芝居がかった手つきで指を鳴らすと、屈強な黒服がジュラルミン製のアタッシュケースを持って現れた。ヒロキは足元に広がる弁護士の血溜まりを「うわ、靴汚れるじゃん」と露骨に避けるようにステップを踏み、そのケースを受け取る。
カチャリ、と留め具を外して蓋を開けた。
そこには、新札の帯封で束ねられた一千万円の現金が、隙間なくぎっしりと敷き詰められていた。
「マジかよ……本当に、一千万……!」
紙幣のインクの匂いが、ヒロキの鼻腔をくすぐる。
たった数十分、得意な口喧嘩で屁理屈を並べ立てただけで、これまでの借金をすべてチャラにして余りある大金が手に入ったのだ。
パチンコ屋で小銭を追いかけていた惨めな日常が、過去のものとして消え去っていく。この金があれば何でもできる。そして何より、控室で待っている極上の美女、ルルとの約束。
「今夜は……最高に忙しくなりそうだわ」
血の匂いと札束の感触、そして下劣な欲望。すべてを己の力で勝ち取ったという勝利の余韻に深く酔いしれながら、ヒロキはアタッシュケースを抱え込み、狂気に満ちたコロシアムの中心で高らかに嗤った。




