【第7話:極論のストローマン】
完全にペースを掴んだヒロキの煽りは、もう誰にも止められなかった。
「さっきから人権、人権って綺麗な言葉で飾ってますけど……それって結局、先生のただの自己満足ですよね」
「なんだと! 命の尊厳を自己満足と呼ぶのか!」
「ええ。じゃあ聞きますけど」
ヒロキは首を傾げ、薄ら笑いを浮かべながら、弁護士に向かってビシッと指を突きつけた。
「先生の可愛い娘さんが、重い心臓病で移植待ちをしているとします。でもドナーが見つからず、明日にも死にそうになっている。そんな絶望的な時に、たまたま完全に適合する心臓を持った連続殺人鬼が現れたとしますよね」
「……ッ!」
「その時、先生はこう言うわけだ。『ダメだ! この連続殺人鬼様の尊い人権を守らなければ! 娘よ、お前は立派に死んでくれ!』……ってね」
ヒロキはわざとらしく両手を叩き、コロシアム中に響き渡る声で下劣に嘲笑した。
「へえー! さすが元人権派弁護士! 自分の家族を見殺しにしてまで犯罪者を守るなんて、本当に立派ですねぇ! 俺にはそんな偽善者みたいな真似、絶対に無理っすわ!」
極端な架空の状況を作り出し、強引に相手を「家族を見殺しにする冷酷な偽善者」に仕立て上げる。解説席のドグマがマイク越しに呟く。
「ストローマン論法……いわゆる藁人形論法だ。相手の主張を意図的に極端な形に歪め、それを攻撃することで、さも相手の理論全体が間違っているかのように見せかける悪魔のテクニック。卑劣だが、大衆の感情を操るには絶大な効果がある」
ドグマの言葉通り、観客席の支持率メーターは、ヒロキの作り出した「家族を救うべきだ」という強烈な感情論に引っ張られ、肯定派へと大きく傾き始めていた。
「ふ、ふざけるな! そんな極端な例はあり得ない! 現実の法案の話をしているのだぞ!」
顔を真っ赤にしてマイクに怒鳴りつける弁護士。その余裕のなさは、誰の目にも明らかだった。ヒロキは異常な速さで瞬きをしながら、トドメとばかりに首を傾げる。
「あの……あり得ないって、なんかそういうデータあるんですか?」
「なっ……!」
「データもないのに『あり得ない』って断言するの、ただの現実逃避ですよね。痛いところ突かれて感情的になるの、ディベートとして一番ダサいですよ」
ヒロキの冷徹な追撃に、エリート弁護士の理性が音を立てて崩れ去ろうとしていた。




