【第6話:最強論破王の反撃】
「さあさあ、地獄の後半戦のスタートだ! ヒロキ選手、ここで反論できなければ即座に頭部が吹き飛びます!」
司会者レオンの狂気に満ちたマイクパフォーマンスとともに、再びコロシアムに照明が点灯する。観客の誰もが、ヒロキが泣き叫びながら命乞いをする無様な姿を期待していた。しかし、ステージの中央に立ったヒロキの表情を見て、会場がざわついた。
恐怖で青ざめていたはずのヒロキの顔には、薄気味悪い半笑いが張り付いていた。
恐怖を完全に凌駕する下劣な欲望。ルルの太ももと甘い囁きの余韻が、彼の脳内でアドレナリンを異常分泌させている。ヒロキは異常な速さでパチパチと瞬きを繰り返しながら、だるそうにマイクを握った。
「あのー……さっきから、冤罪で無実の人が死ぬとか熱弁してますけど」
静まり返った会場に、人を小馬鹿にしたような、気の抜けた声が響く。
「それって、警察とか裁判所が間違えちゃうっていう『今の司法システムの欠陥』の話ですよね?」
「……なに?」
眉間に皺を寄せる弁護士に対し、ヒロキは首を傾げ、冷たく言い放つ。
「もし警察が100パーセント間違えない完璧な組織だったら、犯罪者から臓器取ってもいいってことですか? もしそうなら、先生の主張って『冤罪が怖いから反対』なだけで、重犯罪者の臓器を取ること自体には賛成してることになっちゃいますよ?」
「き、貴様……詭弁を弄するな! 私は命をモノのように扱う制度そのものを……!」
「いやいや、詭弁って言いますけど。僕たち今、臓器移植の是非についてディベートしてるんですけど。裁判所のポンコツ具合に論点すり替えるの、マジでやめてもらえます?」
ヒロキが鼻で笑いながら肩をすくめた瞬間、圧倒的だった弁護士側の支持率メーターが、ピクリとヒロキ側へと引き戻された。首の爆弾から鳴り響いていた死の警告音が、フッと止む。
会場の空気が変わったのを察知し、解説席のドグマがモノクルを光らせてマイクを取った。
「素晴らしい。見事な論点ずらしだ」
「論点ずらし、ですか? ドグマ先生!」
「ああ。弁護士の『冤罪リスク』という強力な現実的デメリットを、ヒロキは『それは司法の問題であって、法案そのものの倫理的問題ではない』と切り離した。これにより、弁護士の最も説得力のある武器が、このディベートにおいては『お門違いのクレーム』にすり替えられてしまったわけだ」
ドグマの淡々とした解説に、観客席の富裕層たちが「なるほど」と感心の声を漏らす。
「な……馬鹿な。現実問題として冤罪は起こり得るのだ! それを無視して法案を語るなど、机上の空論に過ぎない!」
弁護士が声を荒らげる。だが、その声には前半戦のような絶対的な余裕はなくなっていた。ヒロキの想定外のカウンターに、エリート特有のプライドが揺さぶられ始めているのだ。
「あの、机上の空論って言いますけど」
ヒロキはパチパチと瞬きをしながら、さらに一歩、弁護士へと歩み寄った。半笑いの奥にある眼が、獲物をいたぶる蛇のように細められる。
「じゃあ、もっと現実的な話をしましょうか」
最強論破王による、情け容赦ない極論のラッシュが始まろうとしていた。




