【第5話:ハーフタイムの密室(発情と覚醒)】
薄暗い控室に逃げ込んだヒロキは、備え付けの革張りソファーに崩れ落ち、両手で頭を抱え込んだ。
「ふざけんな……ふざけんなよ! あんなクソテーマ、肯定派で勝てるわけねえだろ!」
震える手で自身の髪を掻き毟る。首に巻き付いた冷たい金属の感触が、迫り来る「死」をリアルに突きつけてくる。あと数十分後には、自分の首から上が吹き飛んで肉片に変わるのだ。恐怖で歯の根が合わず、ガチガチと情けない音を立てていた。
「どうしたんですか、ヒロキさん。掲示板でのあの無敵の姿はどこへ行ってしまったんです?」
ヒールの音を響かせながら、案内人のルルが近づいてきた。怯えきったヒロキを見下ろす彼女の瞳には、一瞬だけ氷のような冷ややかさが宿ったが、すぐに発情を促すような蠱惑的な光へと変わる。
次の瞬間、ルルはヒロキの肩を強く突き飛ばし、ソファーへと乱暴に押し倒した。
「えっ……ちょ、ルルちゃん!?」
驚くヒロキの腰の上に、彼女は大胆に跨った。深くスリットの入ったドレスの裾が完全にめくれ上がり、剥き出しになった滑らかな素肌の太ももが、ヒロキの腰の横にピタリと密着する。
ルルは逃げ場を塞ぐように両手でソファーの背もたれを掴むと、ヒロキの顔の真正面まで身を乗り出してきた。豊満な双丘がドレスの胸元からこぼれ落ちんばかりに押し付けられ、ヒロキの胸板の上でむっちりと柔らかな形を変える。
「あと少しですよ、ヒロキさん。あの弁護士を言い負かせば、一千万円が手に入るんです」
そう言いながら、ルルはわざとらしく腰を擦り付けた。薄い布越しに伝わってくる、生々しいほどの女性の熱と柔らかな弾力。そして、脳髄を麻痺させるような濃厚で甘い香水と雌の匂いが、ヒロキの鼻腔を容赦なく満たす。
「で、でも……あんな正論、どうやって……」
「ヒロキさんならできます。……それに」
ルルはヒロキの首に両腕を絡めると、その耳たぶを小さく甘噛みし、ねっとりと濡れた声で囁いた。
「勝ってくれたら……今夜、私の全部を、ヒロキさんの好きにしていいですよ? どんなに激しく、めちゃくちゃに汚しても……朝まで全部、受け入れてあげますから」
彼女の指先が、ヒロキの胸元から下腹部へと、わざとらしく、ゆっくりと這い下がっていく。
その瞬間、ヒロキの脳天を強烈な電流が貫いた。
至近距離で見つめてくる熱量の高い瞳、耳を舐める湿った舌の感触、そして下半身に直接訴えかけてくる圧倒的な肉感。もし勝てば、一千万円という大金に加えて、この極上の牝が自分のものになる。
恐怖で縮み上がっていた全身の血流が、爆発的な勢いで一箇所へと集中し、下半身が熱く張り詰めていく。死への恐怖など、下劣で底知れない性欲と強欲の前に一瞬で蒸発してしまった。
「……マジで、朝まで何してもいいの?」
「ええ。だから、あんなお爺ちゃん、サクッと泣かせてきてくださいね」
ヒロキの顔から怯えが完全に消え失せた。代わりに浮かび上がったのは、ネット掲示板で相手を追い詰める時に見せる、あの薄気味悪い半笑いだった。まばたきの回数が異常に増え、眼球に狂気じみた光がギラギラと宿り始める。ルルの滑らかな太ももをガシッと掴み、ヒロキは歪んだ笑みを深めた。
「あのクソ弁護士……絶対に泣かす」
ヒロキの中の完全論破王のスイッチが、最悪の形で完全に切り替わったのだ。




