【第4話:鳴り響くアラートと絶体絶命】
弁護士の演説は、まるで用意周到な舞台芸術のように淀みがなかった。
「さらに申し上げたい! この法案における最大の欠陥は『冤罪』のリスクです!」
弁護士は法廷で証人を追い詰めるかのように、ビシッとヒロキを指差した。
「現在の司法システムにおいて、冤罪を100パーセント防ぐことは不可能です。もし無実の罪を着せられた人間の臓器を強制的に奪い、その後に冤罪が発覚した場合どうなるか? それはもはや刑罰などではない。取り返しのつかない『国家による無実の市民の虐殺』に他ならないのです!」
正義と倫理を盾にした、ぐうの音も出ない完璧な正論。観客席からは、弁護士の主張に賛同するどよめきと拍手が巻き起こった。富裕層たちは残酷なショーを楽しみに来ているとはいえ、ディベートの論理的な勝敗判定においては極めてシビアだった。
会場の巨大モニターに映し出された陪審員の支持率メーターが、無慈悲に「否定派(弁護士)92%」「肯定派8%」という絶望的な数値を叩き出す。
『ピッ……ピッ……ピッ……!』
ヒロキの首に巻かれた重厚な金属ベルトから、警告の電子音が鳴り始めた。支持率が一定を下回ると鳴る、死へのカウントダウンだ。
「あ、あの……いや、だから……」
ヒロキの喉はカラカラに干からびていた。ネットの掲示板なら、顔も見えない相手の言葉尻を捕まえて、いくらでも長文で煽り散らすことができる。だが、ここは違う。何百人もの観客の冷酷な視線、弁護士の放つ圧倒的な威圧感、そして何より「論破されれば首が吹き飛ぶ」という物理的な死の恐怖が、ヒロキの思考を泥のように濁らせていた。
「反論すらできないようだな、若者よ。命の重さをネットのゲーム感覚で語るなど、浅薄にも程がある!」
「ちが……俺は、別に……」
首の爆弾のアラートが『ピピピピピ!』と限界に近いテンポで鳴り響き始める。あと数パーセント支持率が下がれば、その時点で論理的敗北が確定する。ヒロキが恐怖で目をギュッと瞑り、死を覚悟したその瞬間だった。
『ブォォォォォン!!』
闘技場に、重々しい終了ブザーの音が鳴り響いた。
「オーケー、オーケー! 前半戦はそこまでだ!」
司会者のレオンが、大げさに両手を広げてステージの中央に割って入る。
「これより10分間のハーフタイムに入る! いやあ、弁護士先生の素晴らしい正論のラッシュ! ヒロキ選手、もはや風前の灯火! 後半戦で彼が爆散する美しい瞬間を、皆様どうぞお楽しみに!」
観客の嘲笑と歓声が渦巻く中、ヒロキは膝から崩れ落ち、ぜぇぜぇと荒い息を吐いた。首の爆弾の警告音が一時的に鳴り止む。首の皮一枚で繋がった命。ヒロキは震える足で立ち上がり、逃げるように自分の控室へと駆け込んだ。




