第8話 肖像画
お散歩は続く。
(さぁ、御屋敷探索だ!)
フンスフンスと鼻息荒く出発すると、すれ違うメイド達から意外そうな顔をされた。
恐らく、母が私を連れているのに驚いたのだろう。
慌てて礼をとり、顔を伏せているが、隠しきれていない。
(本当ならメイドの教育って、お母さんの仕事だよね。……お母さん、マナーには厳しそうだけど、たぶん押し付けられた仕事が忙しくて奥向きのことに手が回らないんだろうなぁ)
優しい人だが、その完璧な立ち振る舞いや雰囲気から、礼儀作法に厳しそうなのは伝わってくる。
やはり不甲斐ないと思っているのか、メイドたちを見る目は複雑だ。
(なんとかしてあげたいけど、どうすればいいのかなぁ)
目線で屋敷の中を探索しつつも、考え込む。
そもそも母が忙しいのは、あのクソ親父が仕事を押し付けているからだ。
その理由は私の目の色のせい……ということになっている。
遺伝子検査なんて無いだろうし、魔法か何かで分かるのなら、とっくに母がやっているだろう。
(他に、母の無実を証明する方法……)
そう考えながら歩き、気づけば抱っこされ、二回ほど階段を下っていた。
(なんか、壁紙とか調度品の雰囲気が変わったな。ちょっとだけ高そう?)
恐らく上階は居住スペースで、下の階は来賓も入れるスペースなのだろう。
少し歩くと、長い廊下に出た。
そこから大きな扉をくぐる。
「ここが食堂よ」
「わぁ……」
思わず声が出る。
食堂には、長い大テーブルがあった。
しかしそれより目を引くのは、ずらりと壁にかけられた、油彩の肖像画達だ。
「あれはグウィネス家の歴代ご当主様よ。ほら、これがあなたのお父様」
そう言われて見やると、一番手前側にあのクソ親父らしき肖像画があった。
金髪に緑の目で微笑んでいる。
(ちなみに私は母譲りの桜色の髪だ。)
……うーん。
父の肖像画……ツラは良いので見栄えはいいが、どこか嫌な奴オーラを感じるのは考えすぎだろうか。
というか、無駄にでかい。
先代の二倍はあるのではないか?
母も微妙な顔でそれを一瞥し、それからほかの説明を始めた。
一代遡るだけでもずいぶん服装が違い、面白い。
父は前世で言うところのヴィクトリア朝くらいの燕尾服を着ているが、その前の人はもろに中世風だ。
中には甲冑や装飾のついたローブを着ている人もいて、そこはかとなく異世界を感じる。
「これが魔法が得意だったという十代目様、これが本好きだったという九代目様で……。ふふ、興味があるのね」
解説を受けながら進んだところで、あれ?と思った。
(五代目より前がない。突き当たりに来ちゃった)
不思議に思って母を見上げると、「ああ」と言われる。
「初代様から五代目様までは、家宝として仕舞ったそうよ。……まぁ、実際はあの人の分を入れたら並べきれなくなったから、仕舞ったのだと思うけれど」
「ふぇ……!」
見たい。
初代というと、きっと時の王様か皇帝に認められて家を開いた人ということだろう。
ムキムキの騎士だろうか。それとも魔法使い?
この世界の自分のルーツだ。かなり気になる。
それが顔に出ていたのか、「じゃあ、それだけ見たら今日のお散歩は終わりにしましょうね」と微笑んでくれた。
抱っこされて階段を上がる。
家宝を納めた部屋は、居住スペースの方にあるらしい。
いくつかの重厚な扉の中から、どことなく蔵のような扉の前に立ち、母が鍵を開けた。
真っ暗な部屋の燭台に、母が火をつける。
真っ暗な部屋に、ポッと光が灯った。
(ふぉぉぉ……!!)
家宝の部屋は、十六畳ほどの大きさだった。
思った通り、中流家庭だからか、明らかな金銀財宝なんかは無いようだ。
というより……かなりガランとしている。
しかし魔法の杖らしきものや、鎖で繋がれた本といった、異世界感抜群のものがキラリと光って見えた。
その奥に、五枚の肖像画があった。母がそれらを丁寧に壁にもたれさせ、見せてくれる。
……残念ながら、全員、緑の目をしている。
少々ガッカリしながらも、壁にかけられたそれらを見て、私は、またまた「あれ?」と思った。
(……黄ばんでない?明らかに)
古いからだろうか。
しかし、六代目まではもう少し普通の色だったように思う。
魔法があるくらいだし、前世の「油彩絵の具」とこちらの絵の具は、多分違うものだろうが……。
六代目の時に、絵の具の革命でも起きたんだろうか。
(なんか、気になるな……)
「……うーん?」
母も首を傾げる。
「う?」
「ああ、うーん。ええと……。実はお母さんも、まじまじ見るのは初めてなの」
そうなんだ。
しかしまぁ、それもそうか。
父が当主になった時にあのバカでかい肖像画が描かれ、これらはお蔵入りになったんだもんな。
結婚はその後か、同時くらいなんだろう。
長男のフリードリオを育てている間も、たぶんあのクソ親父はワンオペパワハラを強要していただろう。
必要がある時以外、この家宝部屋に入るような余裕は無かったに違いない。
「これが、多分初代様ね。魔法剣士だったそうだから」
そう言って指し示されたのは、黒い鎧の上に長いマントを羽織った壮年の男性の絵だった。
やや小ぶりで、私の身長程度しかない絵だ。
魔法剣士らしく剣を携え、腰のベルトに杖がぶら下げている。
初代様は黒髪で、他と比べると、やけに濃い緑色の目をしていた。
(……そういえば)
その初代様を二人でまじまじと見ていて、私は思い出したことがあった。
(学生の頃に、美術の授業で油絵を描いたことがあった)
──その時、先生が言っていたのだ。
“油絵が完成したら、ぜひ、額に入れてお部屋に飾って下さいね。暗所に置いておくとすぐ黄変してしまうから、保管には注意が必要ですよ”
そうだ、黄変。
油絵具は、真っ暗な場所で保管すると、急速に黄色く劣化してしまうのだ。
使うオイルや絵の具にもよるらしいが、それは避けられない。
そして……。
先生がその後に続けた言葉を思い出した私は、ぶわりと高揚した。
◇作者からのお願い◇
この小説を読んで、もし少しでも「続きが気になる」「面白い」と思っていただけたら、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けますと、とても嬉しいです……!
「つまらない」「もっと頑張れ」と思ったお方も、☆一つでいいので評価頂けると、作者としては大変励みになります。
なにとぞ、ご協力をお願いいたします<(_ _*)>




