↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/10

第9話 先生、ありがとう


 母とのお散歩後。

 一ヶ月ほど経って、私はあるものの前で仁王立ちしていた。

 

「やっぱり……」

 

 目の前にあるのは、初代様の肖像画だ。

 

 無理を言ってオネダリし、自分の部屋に飾ってもらったのである。

 一応家宝とはいえ、ただの絵画だ。

 申し訳ないと思いつつ、恥を忍んで「欲しい! これ欲しい~!」と大騒ぎしてみると、お疲れの母は「はいはい、じゃあ後で飾ってもらいましょうね」とすぐに折れてくれた。

 (ちなみにAPが10増えた。)

 

 幼児がイタズラしないようにと、壁の一番高い場所に飾られている。

 可愛らしい壁紙と、ほかの可愛らしい絵画に混じったいかめしい甲冑のおじさんは、浮いていることこの上ない。

 

 ワガママ言ってごめんね、ニルリーナママン。

 でも、あなたの為なんです。

 

 ……最近、母の訪問ががくんと減った。

 たまにやってくる母のやつれ方は酷いものがある。

 きっと、押し付けられた仕事が更に増えたのだろう。

 

 でも、それももう、終わらせてみせる。

 

「う……、う、うわぁぁぁあーん!!」

「お嬢様!?」

 

 こっそり、謎汁の残りを全部飲んだ。

 皮袋が手の中でパッと消える。

 

 (ちなみに、謎汁は喜ばしいことに劣化していなかった。)

 

 とにかく泣いた。

 全力で泣いた。

 耳が痛くなるほど泣いた。

 だって知っているのだ。

 

 今日、この屋敷には、久しぶりにクソ親父が帰ってきていることを。

 

「お嬢様っ、ど、どうされたのですか!? どこか痛いですか!?」

 

 必死に泣き止ませようとしてくれるナールさんに良心が痛む。

 ピコンピコンとAPが増える音が鳴り止まない。

 人生初の企み事に、まるで悪役令嬢スキルが喜んでいるかのようだ。

 

「ぅ、うわぁぁぁあ!うわぁぁん!」

「五月蝿いぞ!! おいお前、早く黙らせろッ!」

 

 バンと扉を開けてクソ親父がやって来た。

 母の髪を引っ掴んでいる。

 私の怒りと共にAPがピピピピピピと増えていく。

 

「痛……っ。痛い! 止めてアナタ! う、ああ、アナスタシア。ど、どうしたの!?」

 

 放り出されるようにやって来た母がしゃがんで抱きしめてくれる。

 

「ウーッ。う、うう。ははうえっ。うーっ」

 

 謎汁の効果が凄すぎてなかなか泣きやめない。

 それでも私は、指さした。

 

 ──色の戻った、初代様の肖像画を。

 

「なに、どう、した、の……」

 

 母が、肖像画を見上げて黙った。

 そして、肖像画の存在に気づいた父が、顔を真っ青にした。

 

「うわぁぁん! ち、ちちうっえ、ちちうえ、嘘つき! うわぁぁん!」

 

 “もしも油絵が黄色くなってしまった場合は、明るい場所に飾ってあげてくださいね。ものによっては色が戻ることがありますから”

 

 美術の先生、ありがとう。

 

 ──私たち親子とナールさんの前には、青空のように真っ青な瞳をした初代様の姿があった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。