第7話 謎汁
(できた……!!)
ペットボトルではなく皮袋なあたりは、この世界の文明度に合わせてのことなのか。
部屋に誰もいないのを確認して、恐る恐る、その皮袋を開いてみる。
「……んっ!?」
(真緑!?)
なんだこれ。
いや、例えるならそう……これはあれだ。
ものすごく濃い、青汁。
(なんで青汁だよ!!)
脳内でズバーンと突っ込みつつも、しかし飲めないものでは無いのだろう、とも思う。
うん。青汁はれっきとした飲み物だし……。
というか青汁を極粗悪って、青汁業者の人に失礼だろう。
……うん。
(本当に飲めるのか、一応確認、しないとだよな……)
……。
結論から言うと、意を決してペロリと舐めた瞬間、本能的に大泣きした。
筆舌に尽くし難い味だった。というか青汁ではない謎の味がした。
ほぼパニックになった。
ナールさんが慌てふためいてやってきて、二時間くらいあの手この手であやしてくれても泣きやめなかった。
さらに慌てた様子で母、ニルリーナさんがやってきてあやしてくれたが、それでも半狂乱で泣き続けて、迷惑をかけたせいかAPが5ポイント増えた。
ごめん母、ごめんナールさん。
◇
(はぁ、酷い目にあった)
次の日、気を取り直して携帯食料(極粗悪)も試してみた。
こちらは恐怖の謎汁に比べるとかなりソフトだったが、まるで土を食べている感じがした。
おおよそ、人の食べるものでは無い。
(でもお腹壊してないし、本当に食べ物ではあるんだな……。栄養価も多少はあるんだろうし)
ちなみに、謎汁の残りと携帯食料の半分は、アイテムボックスに入れ直してある。
これは「収納」と念じれば簡単に出来た。
(アイテムボックス内で時間が経過するのか確認しないと。賞味期限わからないけど……)
もしアイテムボックス内に時間の概念がないのなら、有用度はかなり上がる。
熱々のお茶をいつでも飲めるとか、キンキンに冷えたアイスをいつでも食べられるとか、今はそういうおバカな利用法しか思いつかないが……。
◇
そんなことを考えながらあれこれ試している間に、更に数週間が過ぎた。
謎汁で大騒ぎして以来、昼間でも、心配した様子の母が時々様子を見に来てくれるようになった。
それを純粋に喜びつつ、スキルの実験はできないなぁ、と頭を悩ませる。
そんなに急ぐ必要はまだないのだが、いつ何があるか分からない。
うーむ、と考え事をしていると、母が「お散歩する?」と声をかけてくれた。
(お散歩……!!)
一歳半を過ぎて、初のお散歩だ。
抱っこされて部屋の近くをウロウロしたことはあるが、自分の足で歩いての外出は禁じられていた。
うんうんと頷くと、「では準備しなければね。ナール、ナール」と母がナールさんを呼ぶ。
控えの間から出てきたナールさんがニコニコしながら準備をしてくれて、私は寝巻きのような服から、少しキレイめな部屋着に着替えた。
「では、行きましょうか」
母は相変わらず疲れた顔をしているが、優しく微笑んでくれた。
無理はさせたくないが、今は少しの時間だけ甘えてしまおう。
手を握り、連れ出してもらう。
抱っこでは無い視線の廊下は新鮮で、ワクワクした。
(あ……! そ、外が見える!!)
背が低いため、子供部屋の窓からは空しか見えなかった。
しかし、廊下の窓からは尖塔のようなものがチラリと見えた。
「あれ、あれ!」
「お外が見たいの?」
「ん!」
喋りすぎても不審なので、母の手をクイクイ引っ張って外を指さす。
すると、母が抱き上げてくれた。
「ふぁあ……!!」
異世界だ。ハッキリとそう思った。
この屋敷はやや小高い場所にあるようだ。
近くの建物の隙間や屋根の向こうに、ちらほらと遠くの風景が見える。
白い尖塔は、遠くに見える、壮大な城から伸びていた。
(真っ白なお城だ……。み、見たことないくらい大きい)
白亜の城は太陽光を反射して眩しく光っている。
少なくとも、世界史の授業だとか、テレビのお城特集なんかでは見たことがない城だ。
その周囲に見える街並みも美しい。
城の近くは、屋根瓦の色がほとんど深いオレンジに統一されている。
これだけなら海外の街並みだな~と思うだけなのだが、明確に違う点がまたあった。
(あれ、馬車だよね。馬車に知らない生き物が繋がれてるよ~!!)
思わず身を乗り出してよく見ようとしたが、母が「危ないわ」と言って私を降ろした。
視界が窓の下の壁でいっぱいになる。
うう、ごめんよマミー。でもあれ、どう見ても馬に翼が生えていた。
さらに、なんかオオトカゲみたいなシッポが生えているように見えた。
どういう生き物なのあれ!?
ちらりと見えた道行く人の姿も、ザ・異世界だった。
肩当をしている人や、鎧を着ている人、ローブを着ている人、中世から近世くらいの服装の一般庶民的な人まで様々だった。
(流石に空を飛んでる人はいなかったけど、魔法があるなら有り得るよね……!)
ハフハフしすぎて知恵熱がでそうだ。
母もそう思ったのか、私に「そろそろ戻る?」と聞いてくる。
しかし、答えは否である。
もうちょっとだけ、せめてお屋敷の中のことを知りたい。
廊下の向こうを指さして目をウルウルさせると、母は苦笑して頷いてくれた。
(……目、見てくれるようになったなぁ)
そこにもちょっと感動した。




