第5話 天使、サポート装備を選びすぎる
「…………え?」
ケースの中に入っていたのは、剣ではなかった。
銃でもない。
黒を基調にした、薄手のベストだった。
肩から腰までを覆う軽量装備。
腰には複数のホルダー。
背中には小型ユニット。
同じ色のグローブと、通信イヤーカフも収められている。
派手ではない。
けれど、妙に格好いい。
「……服?」
「サポート装備よ」
マリーが当然のように言った。
「あなた専用」
「俺専用?」
「そう」
徹はもう一度、ケースの中を見た。
昨日まで荷物持ち。
今日から専属サポート。
そして、今日は専用装備。
人生の展開が、ここ数日でだいぶ雑に加速している。
「俺、戦わないぞ」
「知ってるわ」
「火も出ない」
「知ってる」
「剣も光らない」
「知ってる」
「じゃあ、何でこれ?」
「だから」
マリーは少し胸を張った。
「サポート装備」
それだけだった。
戦えないことなど、最初から問題ではない。
そう言われた気がして、徹は少しだけ言葉に詰まった。
「……そっか」
「そうよ」
「俺用か」
「あなた用よ」
マリーは迷いなく答える。
その「あなた用」が、妙に強かった。
◇
店内は、ずっと静かではなかった。
最初にケースが開いた瞬間、近くの攻略者たちが息を呑んだ。
「……サポート装備?」
「あれ、本物か?」
「マリー様が?」
「新人に?」
小さな声が重なる。
それでも誰も大声は出さない。
騒がしいのに、妙に距離がある。
徹は少し不思議に思った。
マリーの周りだけ、人が自然に一歩引いている。
店員も、他の攻略者も、まるで最初からそこに見えない線があるみたいに、彼女の立つ場所を空けている。
大型ビジョンの中の有名人が、いきなり現実の店内に立っている。
たぶん、それに近い。
「……すごいな」
「何が?」
「いや、みんなマリーの邪魔しないんだなって」
「当然でしょう」
マリーはさらりと言った。
「仕事中だもの」
そういうことだろうか。
たぶん違う気がする。
しかし徹は、そこで深く考えなかった。
店長がにこにこしながら近づいてきたからだ。
「では、こちらもご確認ください」
店長がカウンターの下から一冊のカタログを取り出した。
分厚い。
そして、ひどかった。
「……付箋、多くない?」
赤。
青。
黄色。
ページというページに付箋が貼られている。
しかも、ただ貼ってあるだけではない。
角が折られ、丸がつけられ、赤ペンの文字がびっしり書き込まれていた。
『重い』
『肩が擦れる』
『収納不足』
『救助向き』
『候補』
『軽い』
『動ける?』
徹はページをめくる。
また付箋。
次のページも付箋。
その次も付箋。
途中から、装備カタログというより受験生の参考書に見えてきた。
「これ、全部?」
「はい」
店長はとても楽しそうだった。
「昨日、マリー様が閉店までご覧になっていました」
「店長」
マリーの声が一段低くなった。
「はい」
「閉店まで、は要らない」
「しかし事実ですので」
「そこも要らない」
店長はまったく怯まなかった。
たぶん、怒られる覚悟を決めている顔だった。
近くにいた攻略者が、小さく呟く。
「天使が閉店まで……」
「専属サポートのために?」
「本気じゃん……」
店内の空気がまた少し変わった。
ただ有名人を見ている空気ではない。
《天使》マリーが本気で誰かを選んだ。
そのことに、周囲が驚いている。
徹はそれを見て、素直に感心した。
「マリーって、ちゃんとしてるんだな」
「……何が」
「部下の装備をここまで調べる上司、なかなかいないだろ」
店内が止まった。
「……部下?」
誰かが小さく言った。
マリーも止まった。
徹だけが真面目だった。
「いや、俺って今、雇われてる立場だし」
「…………」
「いい雇用主だなって」
店員が口元を押さえた。
攻略者の一人が天井を見た。
店長は、笑ってはいけない場面で笑いそうになっている顔をしていた。
マリーは一度だけ目を閉じる。
「……当然でしょう」
「うん」
「私のサポートなんだから」
その「私の」だけ、少し強かった。
徹は頷いた。
「ありがたいな」
「ありがたいと思いなさい」
「思ってる」
「ならいいわ」
マリーはそっぽを向いた。
カタログの端が、彼女の指先でとん、とん、と叩かれている。
少し速い。
店長が、さらにページを開いた。
あるページの隅に、小さな文字があった。
『徹』
「…………」
「…………」
徹は黙った。
マリーも黙った。
「マリー」
「違うわ」
「まだ何も言ってない」
「色々違うの」
「便利な言葉だな」
店員が肩を震わせた。
攻略者たちも、もう完全に見守る顔になっていた。
《天使》マリー。
配信では無敵。
店内ではスター。
そして今、専属サポートの装備カタログに、本人の名前を書いていたことがバレている。
徹は思った。
責任感が強い人なんだな。
たぶん、かなりいい上司だ。
周囲の視線が、なぜか一斉に徹へ向いた。
「……何だ?」
誰も答えなかった。
◇
「では、こちらも」
店長が、さらに一枚の紙を出した。
「……サイズ表?」
徹が受け取る。
肩幅。
胸囲。
腕の長さ。
腰回り。
赤丸。
二重丸。
矢印。
『動き優先』
『救助しやすい』
『肩、少し余裕』
そして、右下に小さく。
『トオル』
「…………」
「…………」
徹は紙を見た。
マリーを見た。
もう一度、紙を見た。
「マリー」
「違うわ」
「まだ何も言ってない」
「違うの」
「何が?」
「色々」
「便利な言葉だな」
マリーは横を向いた。
耳が少し赤い。
店長は笑顔を崩さない。
「昨日、最も時間をかけて確認されていた項目です」
「店長」
「はい」
「要らない情報よ」
「必要な情報かと」
「違うわ」
近くの攻略者が、口元を押さえた。
徹はサイズ表を眺めながら、素直に感心する。
「でも、助かるな」
「……何が」
「俺、戦えないし。動きやすい装備にしてくれるのは普通にありがたい」
「当然でしょう」
マリーは少しだけ視線を戻した。
「危なくなったら、すぐ下がりなさい」
「分かった」
「勝手に前へ出ない」
「出ない」
「無理そうなら言う」
「言う」
「本当に?」
「本当に」
「ならいいわ」
それだけ言って、マリーは黙った。
言葉は少ない。
けれど、徹には十分だった。
自分が戦えないことを、笑われているのではない。
それを前提に、必要なものを用意されている。
「……ちゃんとしてるな」
「何が?」
「いや、仕事道具」
「そう」
マリーはそっけなく答えた。
ただ、指先がカタログの端をとん、と叩いた。
◇
「では、実際に合わせてみましょう」
店長がケースの中からグローブを取り出した。
「まずはこちらを」
徹は受け取って、指を通す。
「おお」
「きつくない?」
「大丈夫」
「指、動く?」
「動く」
「手首は?」
「回る」
「痛くない?」
「ない」
「ならいいわ」
確認が細かい。
けれど、無駄ではない。
徹は少し笑った。
「新人研修みたいだな」
「ダンジョンの装備確認よ」
「でも助かる」
「……そう」
ほんの少しだけ、マリーの声が柔らかくなった。
店長が何か言いたそうに口を開く。
マリーが先に睨んだ。
「何も言わないで」
「まだ何も」
「顔が言ってる」
「失礼しました」
店長は静かに一礼した。
肩は震えていた。
「次、ベスト」
徹がベストを受け取る。
思ったより軽い。
薄いのに頼りなくない。
「これ、すごいな」
「まだ着てないでしょう」
「持っただけで分かる」
「なら、早く着なさい」
「はいはい」
「はいは一回」
「はい」
徹はベストを持って、試着室へ向かった。
カーテンの前で、ふと振り返る。
「マリー」
「何?」
「ありがとうな」
マリーの動きが止まった。
ほんの一瞬。
「……早く着なさい」
「はい」
徹は試着室に入った。
カーテンが閉まる。
数秒後。
「なあ、これ、どっちが前?」
マリーは目を閉じた。
「……そこから?」
店内が、こらえきれずに笑った。
◇
「どっちが前って、あなた……」
マリーは試着室のカーテンを見つめたまま、深く息を吐いた。
「タグが内側。小型ユニットが背中」
「なるほど」
中から、がさごそと布の擦れる音がする。
「これ、腕どこ通すんだ?」
「普通に通しなさい」
「普通が分からない時ってあるだろ」
「ないわ」
「あるんだよ」
店員が口元を押さえた。
店長は笑顔でカウンターの端を拭いている。
同じ場所を、ずっと。
「マリー様」
「何」
「楽しそうですね」
「楽しそうじゃないわ」
「失礼しました」
「笑いながら言わないで」
数分後。
カーテンが開いた。
「……どう?」
徹が少し照れくさそうに出てくる。
黒いベストは、思った以上に馴染んでいた。
派手ではない。
主役の装備ではない。
けれど、荷物を持ち、救助し、後方から動くための機能が、体に沿うようにまとまっている。
徹が腕を回す。
「軽い」
しゃがむ。
「邪魔にならない」
立ち上がる。
「これ、かなり動きやすいな」
「……そう」
マリーは短く答えた。
短く答えたのに、視線は徹から離れない。
「肩は?」
「平気」
「腰は?」
「平気」
「きつくない?」
「ない」
「緩くない?」
「ない」
「走れそう?」
「走れそう」
「転びそう?」
「それは俺次第」
「転ばないで」
「努力する」
「努力じゃなくて実行して」
「はい」
店内が少しだけ和む。
徹はベストの胸元を軽く叩いた。
「でも、本当にいいな。気に入った」
「!」
マリーの目が、ほんの少しだけ丸くなる。
それから、すぐに戻った。
「……当然よ」
横を向く。
横を向いたまま、口元だけが少し緩んでいる。
近くの攻略者が小声で囁いた。
「今の見たか?」
「見た」
「天使、褒められてる時の顔だった」
「レアすぎる」
マリーは聞こえなかったふりをした。
たぶん、聞こえていた。
◇
「似合ってる」
マリーが小さく言った。
「ん?」
「装備」
「ああ、ありがとう」
「……装備が、よ」
「うん。装備が似合ってるって意味だろ?」
「そうよ」
「分かってるって」
「ならいいわ」
マリーは満足そうに頷いた。
徹はもう一度、腕を回す。
腰のホルダーに手を伸ばし、軽く触れた。
「ここ、道具入れるんだよな」
「そう」
「包帯とか、予備バッテリーとか」
「そう」
「メモ帳も入る?」
「入るわ」
「発注端末も入りそうだな」
「…………」
マリーの動きが止まった。
店長の手も止まった。
店員が、すでに笑う準備をしている。
「……何に使うつもり?」
「バイト」
「ダンジョン用よ」
「いや、店の棚卸しって意外と動くんだよ」
「ダンジョン用」
「品出しの時、両手空くの便利だろ」
「ダンジョン用」
「レジ横の補充にも」
「ダンジョン用!」
「発注端末、ここに入れたら絶対楽だって」
「ダ・ン・ジョ・ン・用!」
店員が吹き出した。
「マリー様、今のはかなり必死でした」
「必死じゃないわ」
「語尾が強かったです」
「強くないわ」
「ダ・ン・ジョ・ン・用」
「真似しない!」
徹は首をかしげる。
「そんなにダンジョン専用か?」
「当然でしょう!」
「いや、でも便利なら普段使いしても」
「駄目」
「何で?」
「私が選んだんだから!」
店内が静まり返った。
「…………」
マリーも固まった。
徹も一瞬だけ止まる。
そして、真面目な顔で頷いた。
「なるほど」
「……何が?」
「仕事道具に誇りを持ってるんだな」
攻略者たちが、そっと天井を見上げた。
店員が小さく呟く。
「違うだろ……」
店長は穏やかに微笑んでいた。
たぶん、全部分かっている顔だった。
◇
「とにかく」
マリーは咳払いした。
「それはダンジョン用」
「分かった」
「バイトに持っていかない」
「分かった」
「レジでも使わない」
「分かった」
「棚卸しにも使わない」
「分かった」
「発注端末も入れない」
「分かったって」
徹は苦笑した。
「大事なんだな、この装備」
「……そうよ」
マリーは少しだけ目を伏せた。
「大事よ」
その声だけ、少し違った。
徹は何かを言いかけて、やめた。
代わりに、ベストの肩紐を軽く直す。
「じゃあ、大事に使う」
「……うん」
マリーは小さく頷いた。
その返事は、いつもの「当然」ではなかった。
店内の空気が少しだけ柔らかくなる。
笑いのあとに残った、妙な静けさ。
徹はそれを、装備へのこだわりだと思った。
たぶん、半分くらいは合っている。
もう半分は、まったく分かっていない。
店長が、頃合いを見て口を開いた。
「では、問題なければ会計へ」
「会計?」
徹はようやく現実に戻った。
そういえば、これは商品である。
しかも、どう見ても高い。
徹はベストを見た。
グローブを見た。
通信イヤーカフを見た。
小型ユニットを見た。
最後に、マリーを見た。
「……これ、いくら?」
店長はにこりと笑った。
マリーはすっと視線を逸らした。
徹は、その時点で嫌な予感がした。
◇
「……これ、いくら?」
徹の問いに、店長はにこりと笑った。
マリーは視線を逸らした。
その時点で、徹は察した。
聞いてはいけないやつだ。
「お支払いは、すでにマリー様より」
「待て」
徹は即座に止めた。
「今、すでにって言ったか?」
「はい」
「いつ?」
「昨日です」
「昨日」
「カタログをご覧になった後、そのままご注文を」
徹はマリーを見る。
マリーは見ない。
明後日の方向を見ている。
「マリー」
「何」
「これ、いくら?」
「知らなくていいわ」
「俺の装備だろ?」
「だから知らなくていいの」
「理屈が逆じゃないか?」
「逆じゃないわ」
店長がそっと伝票を差し出した。
マリーが、ものすごい速さでそれを押さえる。
「店長」
「はい」
「出さないで」
「失礼しました」
伝票を押さえる速度が、完全に攻略者のそれだった。
「……高いんだな?」
「普通よ」
「普通の顔じゃない」
「普通の顔よ」
「今、伝票を殺す速度だったぞ」
「殺してないわ」
「殺意はあった」
「なかった」
店員が小さく吹き出した。
マリーが睨む。
店員は一瞬で真顔になった。
「後で報酬から引いてくれ」
「嫌」
「いや、高いなら」
「嫌」
「俺用なんだし」
「嫌」
三連続だった。
徹は困ったように頭をかく。
「さすがに全部出してもらうのは悪いだろ」
「悪くないわ」
「何で?」
「私が用意したかったから」
店内が、少しだけ静かになった。
マリーはそっぽを向いたまま続ける。
「私のサポートが、危ない装備で後ろにいるのは嫌」
その声は小さい。
けれど、強かった。
「あなたが怪我をしたら、面倒だもの」
「面倒って」
「面倒よ」
「そこは言い方」
「面倒なの」
徹は苦笑した。
でも、笑いきれなかった。
これは、ただの高い買い物ではない。
たぶん、マリーなりの守り方なのだ。
「……そっか」
徹はベストに触れた。
「じゃあ、ちゃんと使う」
「当然よ」
「大事にする」
「当然」
「無駄にしない」
「……当然」
マリーの返事が、少しだけ遅れた。
徹は笑う。
「いい上司だなあ」
店内の空気が止まった。
「…………」
マリーも止まった。
店員が小声で言う。
「最後にそこへ戻るんですね……」
徹は真面目だった。
「部下への投資を惜しまないタイプだろ?」
「……そういうことにしておく」
マリーは小さく息を吐いた。
それでも最後に、隠しきれない声で聞いた。
「……気に入った?」
徹は即答した。
「うん。すごくいい」
「……そう」
マリーはそれだけ言って横を向く。
口元が少しだけ緩んでいた。
誰も指摘しなかった。
◇
店を出た瞬間だった。
「マリー様!」
「天使だ!」
「新装備?」
「トオルさんもいる!」
人だかりが一気に膨らむ。
けれど、押し寄せてはこない。
誰に言われるでもなく、人の流れが左右に分かれた。
マリーが歩く場所だけ、自然に道ができる。
「あっ、天使!」
小さな男の子が手を振る。
マリーは小さく手を振り返した。
男の子の顔が、ぱっと明るくなる。
「すごいな」
「何が?」
「今の子、めちゃくちゃ喜んでたぞ」
「……そう」
マリーは前を向いたまま言う。
少しだけ、機嫌が良さそうだった。
店の外壁に設置された大型ビジョンでは、昨日の配信切り抜きが流れている。
《天使》マリー、鎧虫を一閃。
その後ろに、荷物を背負った徹が一瞬だけ映る。
「あ」
徹が足を止めた。
「俺、映ってる」
「映ってるわね」
「なんか変な感じだな」
「慣れなさい」
「命令なんだ」
マリーは答えなかった。
代わりに、徹のベストを一瞥する。
「明日」
マリーが周囲に聞こえる声で言った。
「16時。浅層攻略配信を行うわ」
ざわめきが止まる。
「専属サポート・トオルの新装備、《バックアップ》初投入よ」
次の瞬間、周囲が一気に沸いた。
「配信!?」
「明日16時!」
「通知入れた!」
「新装備回か!」
「切り抜き班、準備!」
徹は苦笑する。
「……寝られるかな、これ」
「寝なさい」
「いや、プレッシャーが」
「寝なさい」
「はい」
マリーは満足そうに歩き出した。
◇
その日の夜。
配信告知が投稿された。
『明日16時。浅層攻略配信。
専属サポート・トオルの新装備初投入』
投稿から三分。
コメント欄は、あっという間に流れ始めた。
『新装備!?』
『サポート装備って何!?』
『マリー様が選んだってマジ?』
『トオル君うらやましい(笑)』
『通知入れた』
『明日絶対見る』
『バックアップって名前かっこよ』
徹は自室のベッドに腰かけ、スマホを見ながら苦笑した。
「……本当に寝られるかな、これ」
ベッド脇には、黒いベスト。
自分専用の装備。
マリーが選んだ装備。
「……ちゃんとやらないとな」
徹はそう呟いて、スマホを伏せた。
◇
同じ頃。
綾瀬茉莉は、自室のベッドの上でスマホを見つめていた。
学校では、誰にも話しかけられない陰キャ女子。
けれど画面の向こうでは、《天使》マリーの配信を何万人もの人が待っている。
コメント欄は、まだ勢いよく流れ続けていた。
『マリー様、今日めっちゃ機嫌よかった』
『店前の目撃情報多すぎ』
『トオル君の装備、マリー様が選んだんだろ?』
『それはもう専属っていうか』
『いや言うな』
『言うな(笑)』
茉莉の指が止まる。
『トオル君が装備褒めた瞬間、マリー様笑ってたらしい』
「…………」
『見たかった』
『切り抜きないの?』
『現地勢、仕事して』
『天使の笑顔助かる』
「…………」
次のコメントが流れる。
『装備褒められて嬉しかったんだろうな』
ばふっ。
茉莉は枕へ顔を埋めた。
足だけが、ばたばたばたばたと暴れる。
「違うし……」
画面は止まらない。
『かわいい』
『天使なのに分かりやすすぎる(笑)』
『全部顔に出てる』
「~~~~っ!」
ぽすっ。
ぽすぽすっ。
ぽすぽすぽすぽす。
枕だけが、理不尽な攻撃を受けた。




