第8話 所持承認
点滅していた『審査中』の文字が不意に消えた。次の瞬間、緑色のバーが横に伸びる。
『承認』
茂は瞬きをせずその二文字を凝視した。
画面右上にシステム通知が並ぶ。
『登録完了』
『許可番号発行』
表示された許可番号は、視認性を拒絶する長さだった。
茂はメールソフトを更新した。少しの遅延。
受信箱に一件の通知。
件名:『特定害獣駆除用具 登録許可通知』
添付されたPDFを開くと、許可番号と登録内容が記されていた。
静かに、印刷をクリックした。
プリンターが音を立てて、一枚のA4用紙をトレイに吐き出した。
紙を手に取り、記載内容を確認する。
そこには『特定害獣駆除用具』という事務的な名称と、自らの氏名、そしてVespa Systems / Interdiction-04のシリアルが並んでいた。
紙を折りたたみ財布の奥――マイナンバーカードの裏側に差し込んだ。
椅子を戻しバックヤードへ向かった。
ロッカー室の空気は相変わらず湿った埃の匂いがする。
自分のロッカーを開け、奥に斜めに差し込んであったキャリングケースを引き出した。
昨日男から受け取った時は、ただの非合法な高い槍だった。
今はシステムに適合した、合法の駆除用具だ。
ケースのハンドルを持ち、事務室を抜けて売り場へと戻る。
レジの奥では、店長が相変わらず気だるそうに伝票を整理していた。
茂がケースを提げて出てくると、店長は一度だけ手を止めた。
「……通ったか」
「はい。通りました」
「そうか」
店長はそれ以上何も言わなかった。
引き止めるわけでも、祝福するわけでもない。
茂が武器を持とうが、この店での仕事が変わるわけではない。
明後日になればまたいつも通りシフトに入り、いつも通りの仕事をするだけだ。
「お疲れ様です。お先に失礼します」
「ああ、気をつけろよ」
店長は茂を見ずに、また伝票に視線を戻した。
ガラスドアを抜け、階段を下りる。
足だけが少し速くなった。
駅近くの雑居ビル前は、まだ人が溢れていた。
皆、足早に歩いている。
遠くでサイレンが鳴った。
ケースのハンドルを握り直す。
重さがぶれる。指に力を足した。
内ポケットにはV-Gelが三本。
スマホが一度、短く震えた。
『警報:K市中央区。大型害獣の目撃情報。付近の住民は――』
周囲の歩調が一気に速くなる。
悲鳴はない。
何人かはスマホを握ったまま立ち止まり、何人かは店の軒先へ逃げ込み、何人かは走る。
静かな波のように、人の流れだけが変わった。
茂はその流れに逆らった。
音のする方向。駅前広場の北側を見て一歩を踏み出す。
ユイに黙って金を奪ったことも、嘘をついてバイト先に来たことも、今は一旦忘れる。
あるのは認可されたばかりの道具と、それを試したいという欲だけ。
肺いっぱいに空気を吸い込み、吐き出す。
その余韻が消える前に、茂は歩き始めた。




