第6話 一万円と登録
※本話はR15に調整しています。R18版はミッドナイトノベルズに掲載しています。
【R18】僕と彼女の猟奇的な日常 R18
https://novel18.syosetu.com/n6453lw/
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
冷えた光がカーテンの隙間から滲むように差し込んでいた。
白い筋が、部屋の端まで伸びている。
茂はまだ眠っている。横向きで片腕を枕に巻きつけたまま。
布団がわずかに沈んだ。
次に、熱。
夢ではない、現実の温度がそれを包んだ。
「……っ」
眉が動く。呼吸が止まり喉が乾く。
腹のあたりで、ユイが動いている。
「起きろ」
くぐもった声。
茂は目を開けない。逃げるように息を吐く。
「……まだ」
「まだじゃない」
ユイが短く笑う。
淡々と続ける仕草は、露骨なはずなのに生活の延長みたいに迷いがない。
身体の方が先に反応しているのが、自分でも腹立たしい。
「……やめろ」
「やめない」
即答。
布団が軋む。
茂の手が無意識にユイの髪へ触れる。
一瞬、何かを言いかけて飲み込む。
ユイは視線を上げ、茂の様子を測る。
熱が一気に駆け上がり、数秒、茂は動けない。
「……元気だったから」
説明にもならない一言。
ユイは肩をすくめる。口元を拭い茂の上へ跨った。
まるで何もなかったような顔。
「……はい。起きた?」
茂は息を整えるだけで精一杯だった。
ユイは口角を少し上げる。
「また秒じゃん」
それから、ふと視線を落とす。
「昨日、なんか買ったでしょ」
その一言で現実が戻る。
茂は答えない。
ユイも追わない。
ただ確認だけを残して、布団がめくられた。
茂が服を着て玄関へ向かうと、部屋の奥でユイの足音が止まった。
「今日バイト?」
「……うん」
本当は休みだ。それでも店へ向かう。昨日のやつを登録に通すために。
ユイはそれ以上は聞かなかった。
彼女は財布を開け、迷いなく一万円札を一枚抜いた。
茂の胸元に指で押し付けるように渡す。
「はい。昼代。ちゃんと食べな」
茂は一瞬だけ躊躇し、それを受け取った。
紙の感触だけが妙にリアルだった。
外気が冷たい。肺の奥が冷える。
途中、ローカルチェーンの小さなコーヒーショップに寄った。
足を止めると自動ドアが反応し、焙煎したコーヒー豆の匂いが押し出されてくる。
レジカウンターのメニュー表。並んでいる数字は、どれも先月より少し高い。
時給が変わる速度より、値段が変わる速度の方が遥かに早い。
「ブレンドをSで」
支払い端末にスマホをかざす。電子音が鳴り、紙カップを受け取った。
熱が指先に伝わり、少しだけ落ち着く。
外に出ると朝の街が動き出していた。通学路の制服、現場へ向かう軽トラ。
変わらなく見える朝。
コーヒーを一口飲んだ。苦さは昨日と同じだ。
駅前の雑居ビル二階。両開きのガラス扉に買取の札が貼ってある。
中に入ると店の空気はいつも通りだった。
スマホやゲーム機の棚は残っているが、今は別の棚が主役だ。
防刃ベスト。念のための道具。用途別に分けられた並びが、生活の必需品になっていた。
レジの奥で、店長が顔を上げた。驚きはない。最初から分かっていたような目だ。
「おはようございます」
「茂、今日は休みだろ」
店長が短く息を吐く。
「昨日のアレだな」
茂は頷き、レジ横の事務机に目を向けた。
店の数字を管理するパソコン。
茂は店長に向き直る。
「はい。あれ、登録だけ通したいんでパソコン、借りていいですか?」




