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僕と彼女の猟奇的な日常 ――怪物が現れるようになった日常で、歪んだ俺の性格が武器になる? なぜか海外からも依頼が来るようになった――  作者: nnnkkk
第一章 僕と彼女の猟奇的な日常

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第49話 規制線の手前

茂はもう着替えを終えていた。

デニムにニット帽。上着はラムレザーのジャケット。

無言のままベルトを通し、最後に黒いホルスターを腰へ滑らせる。


ユイは鏡も見ずに髪をまとめ、そのまま振り返った。


「……それ、何」


ユイの視線が茂の腰へ落ちた。

黒いホルスターに収まったスプレーを見てわずかに目が細くなる。


「護身用?」


「……一応」


ユイは小さく鼻で笑った。


「似合わない」


短く、からかうような言い方。そのまま茂のデニムへ視線を落とす。


「そのデニムなら」


ユイは奥の収納を開けた。迷いのない手つきで取り出したのは黒いライダース。

真新しいルイスレザー。


茂の胸へ押し当てる。


「こっち」


「……なんで」


「こっちがいい、欲しいって言うから買ったのに。茂全然着てない」


それで会話は終わる。

茂は何も言わずラムレザーを脱ぎ、ルイスに腕を通した。


馴染んでないから妙に硬い。

肘の位置が落ち着かない。


ユイはその様子を一度だけ見てから視線を戻す。


「で、そのスプレー」

「どこで使う気」


「使わない」


「使わないのに付けるんだ」

声は軽い。目は笑っていない。


茂はホルスターに収まるスプレーを触り、緩みがないことだけを確かめた。


玄関の横には長いケースが立てかけてある。

楽器にも見えるし、武器とも断言できない形。


茂は迷わずそれを持ち上げた。

ユイの目がケースへ移る。


「それも?」


「……うん」


ユイはそれ以上言わず、代わりに自分の上着を取った。

丈の短い暗い青色のソフトシェルジャケット。


足元はスニーカー。ヒールは履かない。


「私も行くからね」


確認ではない。

最初から決まっていたことを言い直しただけ。


茂はニット帽を深く被り直す。


「行く」


ユイは鍵を取り先にドアへ向かう。すぐに振り返った。


「……それ、私に向けないでよ」


茂は小さく頷いた。


アパートのドアが閉まり、廊下の空気が肌へ触れる。室内よりわずかに冷たい。

足音が硬く響く。


茂はケースを持ったまま階段を下り、ユイは半歩後ろを歩く。

追い越さず、遅れもしない。


外へ出る。街灯は少ない。すぐに大きめの通りへ抜ける。


茂はスマホを開いた。

センターからのメールには、場所、建物名、必要事項が短く並んでいた。

ユイは覗かない。聞かない。ただ茂の顔だけを見る。


赤信号で止まったタクシーに茂は手を上げた。運転手が視線で応じ車を寄せる。


ドアが開く。

茂が先に乗りケースを膝の横へ立てる。

ユイが隣へ滑り込んだ。


「どちらまで」


「ここに」

茂は画面を見せ、メール表示をそのまま差し出す。

運転手が目を落とし頷いた。


「はい。分かりました」


ドアが閉まり車が流れへ戻る。


ネオンが窓を滑っていく。

看板と信号とコンビニの白い灯りが重なり窓の外で流れる。


茂は前を見ていない。

何も考えていない顔をしている。


ユイの手が伸びた。指先が茂の手を探り掴む。

強くない。逃がさないだけ。


「……ねえ」


静かな声。


「こそこそしてたのってこれ?」


茂の視線は動かない。


「最近ずっと変だったじゃん」


指先の力がわずかに増す。

茂は握り返さない。振りほどきもしない。


「……別に」


ユイは一瞬黙りそれから小さく笑った。


「……なにそれ」



約20分。

街の明るさが徐々に薄れていく。


「着きました」


モール外周の指定された場所。


メーター。¥4,870。


茂はスマホで決済した。音だけが短く鳴る。


「ありがとうございました」


二人は夜の空気へ出た。

ケースの重さが腕へ戻る。


そこから先は別の領域だった。

規制線の白いテープが張られ、外周は完全に封鎖されている。


茂は真っ直ぐ歩きユイは隣へ並ぶ。


「止まってください」


茂はスマホを見せる。


「センターから言われて来ました」

「才能 茂です。案件ID、28-KSC-0533」


無線が短い雑音を混ぜながら、断続的に照会を繰り返している。


警官がユイを見る。

「同行者は入れません」


「なんで」


「危険区域です」


ユイの指が袖を掴む。


「中には入れなくていいです」

「入口外で待たせてください」


無線が鳴る。


『入口前まで通せ』


警官が頷いた。






ガラスの向こうに、モールの内部が見える。

野外に置かれた机の上ではノートPCが開かれ、内部映像が映し出されている。


ユイの手が茂の手を握る。


「……これ、やばいね」


茂は画面を見る。


「誰に名乗ればいいです?」


「中にいます。指揮の警部補へ」


警官が無線を取った。


『候補、通す』


茂はケースの取っ手を握り直す。


ユイは袖を離さない。

「私、ここね」


茂は一度だけユイを見る。


「動くな」


「言われなくても」

口元だけがわずかに緩む。




自動ドアが開く。

室内の明るさと漂う匂い。張り詰めた空気が異様な違和感を作っていた。


規制線の内側。


もう一つの領域。

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