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僕と彼女の猟奇的な日常 ――怪物が現れるようになった日常で、歪んだ俺の性格が武器になる? なぜか海外からも依頼が来るようになった――  作者: nnnkkk
第一章 僕と彼女の猟奇的な日常

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第45話 暫定基準

規制線を抜けた。さっきまで張り付いていた緊張が急になくなる。


音が戻ってきた。

エンジン音と信号機の電子音、遠くで誰かの笑い声。


世界は何事もなく動いている。

茂は速度を変えず歩き続け、振り返らない。


背中に言葉は来ない。追いかける足音もない。


さっきまで、あそこに全員いた。

警察、登録、アジャスター、そして倒れてたやつ。


今はいない。


歩道の端を、買い物袋を下げた人間が通り過ぎる。

店のシャッターが半分だけ開いている。看板の明かりが昼間でも消えていない。


日常。

ポケットの中で、スマホは沈黙している。


現場では即時の判断が求められる。動きも結果も。


ここから先は違う。

処理は後ろへ送られる。

分解され、切り分けられ、誰の手にも触れていない場所へ。


頭の中に残っているのは、距離とタイミング。

あの時、踏み込んだら……


たらればに意味はない。

さっきの駆除は間違いなく成功だった。


違う状況で刺していれば、失敗していた。ジェルが減るだけじゃない。

怪我をしていたのは自分かもしれない。

結果が全てだ。誰も保障してくれない。感情で動くと損しかしない。


結果はもう変わらない。

残るのは、金額だけ。






コンビニのイートインは、昼の穴場だった。

少しの人。空間はほぼ無音。話す人はいない。


カウンターのコーヒーマシンから、カップを取り出し蓋を閉めた。

窓際の席に座る。椅子を引く音が少しだけ響いた。


座り、蓋を開ける。

意味のない行動をしていることに気が付き唇の端が上がった。


スマホが短く震えた。画面を見る。通知は一件。

差出人は、回収業者だった。


件名は事務的だ。

【回収精算】買取金額(暫定)のご連絡


本文は、すぐ数字に入る。


対象:中型

駆除報奨金総額:¥410,000(暫定)

(ベース¥90,000+市街地補正¥320,000)


貢献割合:30%

暫定取り分:¥123,000


その下。


回収・運搬・処理費用(按分):▲¥36,000


暫定精算額:¥87,000


茂はコーヒーを一口飲む。

苦い。


市街地補正は乗っている。アパートの横、人がいる場所。


数字としては悪くない。四十一万。

ただ三割。引かれて、八万七千。


ジェル代を引くと残るのは三万七千。


ジェルは無駄にしていない。余計な消費はない。それでもこの額だ。


茂は画面を閉じる。

暫定。それでも基準になる数字だった。


カップを置く。底が軽く鳴った。


——この配分は、誰の判断だ?システムじゃない。計算式でもない。


あの場にいた端末を見ていた男の、あのアジャスターの線引きだ。


同じ現場。

同じ証拠。

同じ結果。


恐らく別のアジャスターなら数字は変わる。

七割、八割でも成立するはずだ。今回は違った。ただそれだけの話。


最初に倒した時は違った。

あの時は迷いがなかった。数字も判断もまっすぐだった。


今回は違う。人が変われば条件も変わる。

すでに理解している。だから怒らないし驚かない。


ただ、覚える。


クソだな。


茂はカップの残りを飲み干し、席を立った。


数字は、もう頭に入っている。

暫定、八万七千。


修正される可能性はある。けど大きくは変わらないだろ。


登録は三人いた。だが、最後に止めたのは茂だった。


―――三割。


制度上、説明はつく?

ボディカメラは動いてたはずだ。


アジャスターが登録に傾く理由はいくらでもある。

それが無難だと判断する理由も。責任を避ける線の引き方も。


それが、悪だとは思わない。


ただ割に合わない。

危険を引き受けた者と、距離を取った者の差が数字で十分に離れていない。


この制度は早く終わらせた判断より、失敗しない判断を評価する?

それもありそうだ。


信号を渡り人の流れに混じる。


次に同じ状況が来て同じアジャスターが立っていたら、同じ結果になる。

なら選択肢は二つしかない。


——場を変えるか。

——分ける人間を減らす。


ポケットの中で、スマホの位置を確かめる。

この数字は消えない。

忘れない。


次に刺す時、次に距離を詰める時、次にジェルを使うか迷う時、必ずここに戻ってくる。


問題はない。


覚えたからだ。

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