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僕と彼女の猟奇的な日常 ――怪物が現れるようになった日常で、歪んだ俺の性格が武器になる? なぜか海外からも依頼が来るようになった――  作者: nnnkkk
第一章 僕と彼女の猟奇的な日常

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第34話 排熱

※本話はR15に調整しています。R18版はミッドナイトノベルズに掲載しています。


【R18】僕と彼女の猟奇的な日常 R18


https://novel18.syosetu.com/n6453lw/


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



ジェルはもうない。

カートリッジの重さが消えた槍は、ケースの中でただの長い刃物になっている。


茂はケースを持ったまま、町を歩いた。

意味がないのは分かっている。

分かっていても、足は止まらなかった。


小型なら。

条件が揃えば、倒せるかもしれない。


かもしれない、で歩く距離じゃないことも分かっている。

だが今日は、他にやることがなかった。


角を曲がる。

住宅と店舗が混じる通り。

通知は来ていない。

来ていないのに、空気だけが落ち着かない。


先に処理された痕跡は、すぐに見つかった。


道路脇に残る黒い染み。

散ったガラス。

タイヤ痕。

雑に踏み消された足跡。


回収は終わっている。

照合班もいない。

残っているのは終わった後だけ。


別の交差点。

ここも同じ。


店のシャッターに浅い傷。

電柱の根元に、何かを引きずった跡。

血の匂いはもう薄い。


誰かが先にやった。

早いか、近かったか、運が良かったか。

理由はどうでもいい。


獲物はいない。歩き続ける。


探す。

だが、見つからない。


小型は数が多い。

そのはずなのに、今日は一匹も引っかからない。


茂は足を止め、空を見上げた。

曇り空に低く垂れ込めた雲、街の音が、どこか鈍い。


世界は動いている。

自分の外側で、勝手に処理が進んでいる。


——今日は、自分の番じゃない。


そう理解した瞬間、肩の力が抜けた。

悔しさも焦りもない。


ケースは軽い。

中身の問題じゃない。選択肢が減っている、その事実が軽い。


この状態で無理をする理由はないか。

判断は早かった。


引き返す。

来た道を戻る。

足取りはさっきより遅い。







 帰宅。


鍵を開ける前に、一度だけ振り返った。

通りは何事もなかったように、普通の顔をしている。


獲物は、世界にいくらでもいる。

ただし、いつも手の届く場所にいるわけじゃない。


午後は何も取れなかった。

それだけだ。







ドアを開け、ケースを持ったまま中に入った。


ドアを閉めた衝撃で、室内の淀んだ空気がわずかに揺れた。


ユイはキッチンの前に立っていた。


妙に露出の多い部屋着。

薄い生地が身体の線を隠す気もなく張り付いている。

均衡の取れた曲線、細い腰。布地の奥で、女の形が浮き上がっていた。


それを見た瞬間、思考が消える。

理性ではない。

もっと手前の何かが、理性を塗り潰した。


「おかえ——」


言葉は口づけに遮られる。


数歩で距離を潰し、抱き寄せる。

ユイの背がキッチンカウンターに当たり、冷たい音が響いた。


茂の体はまだ異様な熱を帯びている。

汗と、かすかな甘さが混ざる。


腕は強すぎるほどに腰を抱え込んでいた。

逃がさないという意志ではない。

内側に溢れた圧を、どこかへ逃がすための衝動。


「……あ、茂」


最初の強張りは、やがて熱へ変わる。


ユイの指が背中を掴む。

服を脱ぐ手順さえ、もどかしい。


肌が触れ合った瞬間、体温がぶつかる。


茂は彼女を抱え上げ、カウンターへ座らせる。

食器が落ち、乾いた音が部屋に散る。


目の前の体温。

触れられる現実。

ユイの身体が、自分がまだこちら側にいると証明していた。


互いの鼓動が荒く重なり、呼吸が濃く絡み合う。


茂は衝動のまま、彼女に縋る。

今日失いかけた何かを、その熱で埋め戻すように。


薄暗いキッチンで、

二人の輪郭は溶け、

重い呼吸だけが夕方の空気を震わせていた。




呼吸が落ち着き、部屋に静けさが戻ったころ。


ユイは横になったまま、茂のほうを見た。

喉の奥で小さく笑い、視線だけを寄越す。表情は軽い。探るでも、責めるでもない。


「ねえ」


間を置いて、続ける。


「そんなに、あたしが魅力的だった?」


茂は短く、頷いた。

言葉はいらなかった。


ユイはそれを見て、声を立てずに笑う。


「そりゃそうか。だてに、三十八週連続ナンバーワンしてないよ」


冗談みたいな言い方。

自慢でも、試しでもない。


その数字が、茂の中に引っかかる。


三十八週。

その間、ユイは何度、

どれだけの男に抱かれてきたのか。


考えるつもりはなかった。

それでも、頭の中で回数が勝手に並び始める。


仕事として、慣れた動きで、何度も、何度も。

想像は、すぐに形を持った。


胸の奥が、別の熱を帯びる。

さっきの衝動とは違う。

もっと歪んだ、ざらついた興奮。


ユイが何か言おうとした、その前に、

茂の気配が近づく。


「……また?」


ユイはそう言いながら、本気で止めようとはしなかった。


空気が、再び張りつめる。

さっきよりも、息苦しい向きに。


しばらくして、ユイは小さく息を吐いた。

そのまま、茂のほうを向く。


「……そんな顔して」


声は、からかうみたいに軽い。

でも、嫌がってはいない。


ユイは口元を緩めて、笑った。


「ほんと、単純」


そう言いながら、どこか嬉しそうだった。

求められたことを、ちゃんと受け取っている笑い方だ。


茂は答えない。

衝動は一度、静まっていた。


一度目のそれは、

身体に流れ込んだ何かが引き起こした反応だった。

制御できない熱。

排出されるべきもの。


だが今は違う。


静まったはずの内側で、別の反応が、ドロリと形を変えて生まれた。

嫌悪と見分けのつかない、濁った興奮。


自分で、想像で、選び取ってしまった興奮。


ぬるかったそれが、急速を超えて硬さと熱を取り戻し始めていた。

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