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僕と彼女の猟奇的な日常 ――怪物が現れるようになった日常で、歪んだ俺の性格が武器になる? なぜか海外からも依頼が来るようになった――  作者: nnnkkk
第一章 僕と彼女の猟奇的な日常

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第2話 欲しい

リサイクルショップの朝は妙に忙しい。

忙しいと言っても、客が多いわけじゃない。


夜に持ち込まれた品物の仕分けがある。

平和ならゲーム機。景気が良けりゃブランドバッグ。崩れてきたら、防護具と刃物が増える。


棚は嘘をつかない。この店の棚は、町の今をそのまま写す鏡だ。


駅前の雑居ビル二階。

階段を上がると、両開きのガラスドアに買取の札が貼ってある。

以前はスマホと腕時計の店だった


この1年弱で冗談が現実になった。


害獣が出る。警報が鳴る。

外出が減り防災用品が棚に並ぶ。そういう変化が静かに積もった。


タイムカードを刺しながら声をかける。

「おはようございます」


店長は顔を上げずに手だけ振った。

経理ソフトが出す数字が気に入らないんだろう。たぶん。


午前中、客は少ないくせに落ち着かない時間が続く。


危険は害獣だけじゃない。

状況が悪ければ、まともな顔をした泥棒も出る。らしい。見たことはないけど。


世界が派手に終わるわけじゃない。

ただみんなの表情が少しずつ擦り切れてるのはわかる。コロナの時みたいに。


昼前、ガラスドアが開いた。

反射で立ち上がる。店長は首から上だけ入り口に動かした。


入ってきたのは、見覚えのある男だった。

店長の知り合い?友達か。

頬に古い裂傷の痕。目つきが悪い。

男は挨拶もなく、カウンターに黒いケースを置いた。


釣竿ケースに見えるが、全体の作りがいい。手が込んでいる風に見える。

高額商品かもしれない。


店長が眉を上げる。

「……釣りでも始めたか?」


男は苦笑いしながら金具のロックを外した。

カチ、カチと乾いた金属音が響く。


型抜きのスポンジから現れたのは、二分割された黒いシャフト。


艶のないカーボン素材が光を吸い込んでいる。

刃体が見えた瞬間、店長が顔をしかめた。


「……刃物か」


槍だった。

武器というより、繊細な何か。芸術品みたいな雰囲気。


「売りたいんだ。急ぎで」


店長は槍を見ただけで首を振る。


「高い物は面倒なんだ。うちの店はそれを寝かせておく余裕はねえんだよ」

「お前も知ってるだろ」


男は眉をひそめながら槍を軽く持ち上げ角度を変えた。

俺の目が勝手に細くなる。


鋭利に研ぎ澄まされた切っ先のすぐ後ろ。

テフロンの皮膜を穿つように点穴のような四つの細孔――


「うちは武器屋じゃねえぞ」


店長が突き放した。

男は肩を落として槍をカウンターに寝かせた。


俺の口が勝手に動いた。

シャフトに刻まれた文字が、目に入っていた。


「……Interdiction?」

日本に?


声が漏れた。これを知っている、と言ったのと同じだ。

視線が、店長から俺に移る。


「触っていいですか?」


男は頷いた。


作業台の縁からそっと持ち上げる。


軽い。硬い?

手作業では作れないエッジの立った金属。

くそ高いNCか何かが削り出した芸術品。


非合理的すぎて、目眩がする。


必要かどうかじゃない。

こういうのは、触れた瞬間に欲しくなる。

病気だ。


「知ってるの?」


「……名前だけ」


「おい、茂」


店長が睨むが、男は気にしていない。

「君、買う?」


「……買える金額ですか?」


「現金で百《百万》」


安い。

めっちゃ安い。


今のドルなら定価が円で二百八十万くらいのはず。

男が今日中に現金を必要としているからの価格だ。


「V-Gelは?」

「無し」


V-Gelはこの槍の中身だ。


体内で反応して破壊を起こす膨張反応ジェル。

刃は入口に過ぎない。


それが無いなら、この槍はただの高いカーボンの棒って見方も出来る。

ある意味。


欲しい。


でもV-Gelがないと使えないかもしれない。

いや。使えない。たぶん。

それでも、これは欲しい。

かっこいい。

まずい。顔に出る。


「店でやるなって」


店長が机を軽く叩いた。


男は肩をすくめ、槍をケースに収め始めた。帰り支度が早い。


俺を見て仕方ない風に言う。


「……三本だけ」


「え」


「V-Gel。三本だけなら用意出来る。込みで百。どう?」


一本五万。三本で十五万。

ボーナスみたいなサービスだ。


店長が眉を寄せて言う。


「………そのうち、この店も武器屋になりそうだな」


男は笑いながら、俺の方へ名刺を差し出した。

坂口。三和通商。


「現金以外は受け付けないから」


それだけ言って、出口に向かう。


ドアが閉まる音がした。

手には名刺が残った。


百。V-Gel三本。

欲しい。


必要じゃない。でも欲しい。

欲しい物が手に入るかどうかは、結局、金次第だ。


金がいる。どうしても。

どうしても?

またか。


「忘れろ。必要ないだろ」


店長が、俺を見ずに言った。



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