第99話 第20章 59秒目の旋律 2 交流
モチオ「なんでこの俺が、いつもお前らのボランティアに巻き込まれるんニャ!!」
モチオはモップを投げ出しそうになりながら毒づく。
がり勉猫「モチオさん! 私たちは地域の皆さまあっての研究所なんです。騒音や爆発の危険性も含めてご理解を頂いているのですから、たまの奉仕活動は当然です!」
コツ勉猫も清掃員スタイルで、テキパキと手を動かしながら答える。
コツ勉猫「モチオさん、口じゃなくて手を動かす! ほら、そこ拭き残し!」
モチオ「……あれ? そういえばネコロボはどこニャ?」
コツ勉猫「小児病棟の方ですよ。子供たちと遊んでます」
モチオ「何だと!? 俺もそっちの『子供と遊ぶ係』がいいニャ!」
がり勉猫「ダメです。モチオさんは教育上よろしくありませんから!!」
掃除が終わると全員で昼食。しかし、ネコロボだけはその日、一日中子供たちに付きっ切りであった。
子ども1「ネコロボ! こっちこっち! ヒーローごっこしよ!」
ネコロボ「了解しました。正義の鉄拳、食らわせます。ビビビ」
子ども2「ネコロボちゃん、おままごと! ネコロボちゃんは赤ちゃんね」
ネコロボ「オギャー。ミルクを要求します。ビビビ」
しかし、ネコロボには遊び以外にも重要な役割があった。
子供たちの隙を見て、彼は看護師にそっと耳打ちする。
ネコロボ「……アカネちゃん、容態が芳しくないようです。ご注意を。それからモトキ君の手術ですが、一週間様子を見た方が。元気そうに見えますが無理をしています。スズカちゃんは順調です、予定通り退院できるでしょう。カイト君は手術を不安がっています、メンタルケアを重点的に」
看護師は必死な形相で、ネコロボの超精密な観察結果をメモに取る。
子ども「ネコロボ!! 早くこっち来て! 看護師さんとお話ながーい!!」
ネコロボ「あ、失礼しました。ただいま参ります……」
またネコロボは、子供たちの笑顔を守るために遊びの輪へと戻っていく。この日のネコロボは、フル稼働であった。
モチオ「あああああ! やっと終わった――!! 腰が砕けるニャ!!」
がり勉猫「お疲れ様でしたね」
コツ勉猫「明日は西館の清掃ですよ!」
モチオ「ええええええええええええええええええ!!!」
崩れ落ちるモチオ。ふと、辺りを見回す。
モチオ「……あれ? まだネコロボは戻ってこないのか?」
掃除を終えた夕暮れ、モチオがふと呟く。
がり勉猫「お泊まりです。子供たちが離してくれないので、大抵は一泊するお約束をしています」
コツ勉猫「ま、事前にメンテナンスして、予備のバッテリーも持たせてありますから」
モチオ「そっか……」
ふと、モチオは窓越しに別棟の患者の姿を見た。
離れに設置されたピアノの前に座ったその人物が、静かに鍵盤を叩き始める。
がり勉猫「とても、美しいメロディーですね。オリジナルでしょうか」
コツ勉猫「……美しいですわ」
コツ勉猫の片目から、一筋の涙がこぼれる。
いつもなら難癖をつけるモチオも、この時ばかりは無口になり、三匹でしばらくその音色に聞き惚れていた。
演奏が終わると、男はこちらに気づいて席を立ち、暗闇の中へ消えていった。
深夜。
病院に用意された「ネコロボ専用の布団」から、ネコロボが音を立てずに起き上がる。
彼が寝たふりをしないと、子供たちが安心して眠れないからだ。
ネコロボは子供たち一人ひとりの布団をかけ直し、個室の患者も一通り見回る。
ネコロボ「……異常なし」
そのままナースステーションへ向かい、夜勤の看護師たちに声をかける。
ネコロボ「皆様もお休みください。私が見守っています。何かあれば即座にドクターと連携しますので」
感謝を告げて仮眠室へ向かう看護師たちを見送り、ネコロボは観察データをプリントアウトする。
ふと、自身のエネルギー残量が低下していることに気づいた。
リュックを開けると、そこにはお弁当箱が入っていた。
中には予備のバッテリーと、「お疲れ様」と書かれたコツ勉猫の手書きメモ。
ネコロボ「フフフ。コツ勉猫さんは、いい奥様になりますね」
静かな病室で一人、ネコロボは微笑むようにつぶやいた。
朝7時、子供が起きる前に布団に戻る。
子ども「ネコロボ、起きてーー!! 起きてーー!!!」
ネコロボ「ムニャムニャ……まだ眠いです……」
子ども「ダメ! 遊ぶの! 起きてーー!!!」
ネコロボは子供たちに急かされ、朝のルーチンを開始する。
朝食の時間、ネコロボは自身の体に潤滑油を流し込んだ。
流動食を食べるミスズちゃんが言った。
「一緒だね、ネコロボ」
ネコロボ「はい、一緒です」
普通食を食べる男の子が、少し悔しそうに混ぜ返す。
「ちぇ、ミスズちゃん羨ましい! ネコロボと同じじゃん! 俺も前はネコロボと同じ(流動食)だったんだよ!」
ネコロボ「それは羨ましいです。私はこれしか食べられませんので」
朝日が、温かな朝食の風景を優しく包み込んでいた。




