第93話 第19章 未来の財産 1 リケジョ塾
「な、、、な、、、なんだこりゃあ!!」
モチオは某名作刑事ドラマの殉職シーンばりの絶叫を上げた。
視線の先には、事務所の壁一面に貼られたピンク色のド派手なポスター。
『集まれリケジョ! 完全無料・ガチ勢専用私塾開講!』
気がつくと、事務所には最新鋭のPCがズラリと並び、怪しげなサーバーが重低音を響かせている。
「対象:3歳〜18歳。完全無料、3食付き、もぐもぐタイム(糖分補給)無制限……だと!」
モチオが戦慄していると、がり勉猫が死んだ魚のような目で歩み寄ってきた。
がり勉猫「……どうも。コツ勉猫さんが『この国には圧倒的にリケジョが足りない』
とブチギレまして。場所がないから、この事務所を強制接収すると」
モチオ「誰の許可取ってんだニャ! 俺のシマだぞ!」
コツ勉猫「あら 誰の許可? この土地の権利書、私の名前になってますけれど?」
モチオ、沈黙。
コツ勉猫「50坪もあるんだから、半分に割れば十分でしょ。はい、ここから先は『聖域』につき男子禁制。あっちの隅っこで丸まってなさいな」
この「リケジョ塾」、どうやら大手企業との共同研究予算で運営されており、企業の宣伝を請け負う代わりに運営費はタダ。
ただし、入塾には「コツ勉猫の思想」に染まれるかどうかの厳しい適性検査があるという。
モチオは机に置かれたアンケート用紙を手に取った
【問1】素敵な異性に告白されました。あなたはどっちを選ぶ?
A:物理
B:生物学
C:その両方
モチオ「……ただの高校の選択科目じゃねーかニャ」
モチタ「でも、コツ勉猫的には『C』以外は正解じゃないよね」
【問2】あなたの将来の夢は?
A:宇宙物理学者
モチオ「選択肢が一個しかないじゃん!!」
モチクロ「もはや強制」
【問3】もぐもぐタイムで食べたいスイーツは?(記述式)
※最低30個記入すること。カロリー計算式も考慮せよ。
モチオ「食わせる気があるのか、計算させる気なのかどっちだニャ!」
モチクロ「カロリー気にするなら30個の食べなきゃいいのに、、?」
【問4】休み時間は主に何をして過ごしますか?
A:数学A B:数学B C:数学C
モチオ「休み時間じゃねえ! 演習の時間だニャ!」
モチタ「もぐもぐタイム以外、脳を休ませる気がない……」
そして、最後に出てきたのが「幼稚園児向け・入塾テスト」だ。
モチオ「ふん、これなら俺でも解けるニャ。イージーだニャ!」
モチタ「さすがに幼稚園児向けなら、僕らでもいけるよね!」
そう言って問題を開いた一行の表情が、一瞬で凍りついた。
Q:とある瓶に細菌を1つ入れます。細菌は1秒で倍に増えます。1分で瓶がいっぱいになった時、中身が「半分」だったのは何秒後?
モチオ「……これ、幼稚園児に解かせる気かニャ? 嫌がらせだろ!」
モチタ「半分なんだから、30秒に決まってるじゃん! カンタン、カンタン!」
モチクロ「59秒後だね。1秒で倍になるなら、満杯の1秒前が半分。これ、3歳児に聞く内容じゃないよ……」
コツ勉猫「あら? 我が校の『基礎の基礎』ですわ。」
Q:地下からツボを見つけました。1300年前のものだと言い切れる根拠を述べよ。
モチオ「見た目だろ! 1300年分のアレだよ、雰囲気だよ!」
モチクロ「……地層の堆積状況と、炭素14年代測定法による同位体比の分析結果かな。これ、大学入試レベルだよ……」
現場は大混乱。
しかし、入塾テストに集まったのは、3歳から18歳までの女子、女子、女子!
殺到する親子の目的は、「完全無料」「3食付き」「無限もぐもぐタイム」、そして何より「コツ勉猫のカリスマ性」。
コツ勉猫「これでも少ない方ですわ。さあ、テストの前に……」
なぜか試験開始のチャイムの代わりに、「アフタヌーンティー」のゴングが鳴り響く。
子供たちはコツ勉猫特製のピンクのドレスに着替え、スコーンを頬張りながらはしゃぎ始めた。もはや試験会場というより、ただの高級サロンである。
モチタ「……これ、いつテスト始まるの?」
モチオ「知らん。てか、さっきから『がり勉猫』の姿が見えねえニャ」
あいつ、このカオスを予見して真っ先にバックレやがったな!?
【結果:全員合格!】
モチオ「えええええええ!! あの鬼畜な問題、全員解けたのかニャ!?
」
ネコロボ「……いえ、正答率は0.02%です。ですが、コツ勉猫さんの判定は『合格』。つまり、入り口のハードルを異常に上げることで、『それでも勉強したい、お菓子を食べたい』という強欲なまでのやる気をスクリーニングしていたわけです」
コツ勉猫「これぞ真のリケジョですわ! 知識なんて後から叩き込めばいい! 重要なのは『貪欲な女子パワー』ですの!」
気がつくと、事務所の主導権は完全にコツ勉猫へ。
コツ勉猫「そこのダメンズ3匹! ケーキが足りませんわ、さっさと運んで! 紅茶の温度は80度キープよ!」
モチオ、モチタ、モチクロの3匹は、気づけばエプロン姿の給仕係に。
一方、その頃……。
がり勉猫は遠く離れた喫茶店で、一人静かにブラックコーヒーを飲み、嵐が過ぎるのを待っていた。




