第90話 第18.章 5丁目のシンデレラ 3 迷子のお姫様
「今日は、限定品のバッグをゲット!」
「今日も娘とホテルでビュッフェ!」
「ここが私の住処で―――す……年収5000万以上の彼氏 募集中!」
モチオ:「おい、コツ勉猫……SNSってのはどうなってる。俺はな、温泉を調べてるんだ」
コツ勉猫:「あ、この前来たから『知り合いかも』に入ってるのかしら……」
モチオ:「迷惑な機能だな。知り合いでも関わりたくない知り合いもいる。空気よめーのかな、このSNSってのは……」
モチオ:「にしてもこれ……エントランス、あ、5丁目にできたタワマンじゃねーか。あの迷惑な!」
ネコロボ:「はい、一致しています。そのようです。真由美さんは5丁目のタワマンに住んでるようです」
モチオ:「はあ? あのタワマン、なんでこんな下町にドカッとつくるかな。あれだけ異常に目立つ、まるで町ごと支配している悪の巣窟にしか見えん」
ネコロボ:「しかも彼氏の年収5000万以上って、私のリサーチを無視……」
モチオ:「案ずるな。奴は自分の棚上げを、とうとうエベレストではなく、オリンパス山にしただけニャ。もう地球を超えて火星だ。誰も手出しできまい」
モチオたちは久しぶりに教会で昼食をとっていた。
だが、がり勉猫とコツ勉猫は困り果てている。
牧師:「このおいぼれからも一つ、頼まれてはくれんか……」
がり勉猫:「牧師様、頭を上げてください……しかし、どうかな、コツ勉猫」
コツ勉猫:「うーーーーん。できないお願いじゃないけど、やはり……」
シスター:「私からも頼むよ……ね!」
がり勉猫:「いや、そういうことじゃないんです。ね、コツ勉猫……」
コツ勉猫:「はい……」
何やらお祈りに来た人、牧師、シスターと、がり勉猫、コツ勉猫は話し込んでいる。かなり難しい相談のようだ。
モチオ:「おい! 悩んでる暇はねー。パパっとやって温泉行くか! それともズバッと断って温泉行くか、その二択にゃ!」
がり勉猫:「しかし、牧師……」
牧師:「私は神の遣いではなく、このおいぼれの爺のお願いだと思ってほしい……。がり勉猫君、お願いできないかな。やはり……」
がり勉猫はコツ勉猫に視線を向ける。
コツ勉猫:「お兄様、お受けしましょう!」
がり勉猫は、まだ少し躊躇しているようだ。
シスターが湯気の立つスープを運んでくる。
シスター:「今日は特製スープよ。がり勉猫さん、コツ勉猫ちゃん、よろしくね。おばさん、こんな事しかできないけど…」
モチオ:「やったニャ!! 国産牛のスープニャ!! ほれ見ろ! 俺が引き受けろと言ったからニャ!!!」
シスター:「誰も言ってない…」
モチオ:「じゃー 断れ! 今すぐ断れ! なんかよーわからんが断れニャ!!! ああああ、スープ持っていかないで…嘘です、嘘です!!!!」
いつもの漫才に笑いが起きる。
しかし、がり勉猫は視線を送る。本当に、受けても良いのだろうか。
牧師はただ優しく微笑んで、「お願いします」と深くうなずいている。
がり勉猫は、食堂の奥の祭壇に目をやった。
祭壇に立つ像は、相変わらずステンドグラスの光で七色に包まれている。
午後。
相談所には、小さな依頼者がやってきた。
モモ:「迷子になっちゃった…」
モチオ:「またお前か。コツ勉猫! お客さんだ!」
コツ勉猫:「ああ、モモちゃん。また迷子になったの?」
モモ:「うん」
コツ勉猫:「わかった。夕食の買い物に行くから、その時、家まで送ってあげるね」
家までモモを送り届けるコツ勉猫。
コツ勉猫:「モモちゃんに、かわいいワッペン作ったんだ。これ、科学者バッジ!使ってくれる?」
モモ:「ありがとう! コツ勉猫先生」
コツ勉猫:「モモちゃん、学校は楽しい? おうちは楽しい?」
モモ:「うん!!! 大きくなったらコツ勉猫先生みたいになるんだ!」
コツ勉猫:「あら? モモちゃん、素敵。先生、そうなるようにいっぱい応援するね」
二人の影は、午後の柔らかな日差しに溶けていった。




