第72話 第15章 父親が守りたかったもの 1 悪夢
勉強などやめてしまえ!!
「はっ……!!」
……夢か。
薄暗い実験室。
がり勉猫は、机に突っ伏したまま肩で息をしていた。
ネコロボ「がり勉猫さん。急な心拍数の上昇を確認しました。異常事態ですか?」
がり勉猫「……いえ、なんでもありません。ただの、……そうですね。あなたをスリープモードにするのも忘れて、つい」
ネコロボ「お気になさらず。充電にはまだ余裕がありますから」
がり勉猫はそれには答えず、ただ、ペンを握りしめたまま虚空を見つめていた。その瞳には、今も消えない過去の残像が張り付いている。
ネコロボ「連日の徹夜です。……少しはお布団で寝られた方が」
がり勉猫「……ふふ、そうですね。疲れるといつも、あの嫌な夢を見ますから」
一週間ぶり。彼は吸い込まれるように寝室のベッドへ身を沈めた。
――父上! 見てください、今回も全国模試1位です! 500点中494点……!
父親は夢の中で不機嫌な顔をする。
「父上、どうして 僕を認めてくれないのですか・・・・」
翌朝。
「本人の自由だ! 以上だ、帰れ!!」
リビングを抜け事務所の裏口へ向かうと、モチオの怒鳴り声が響いていた。
がり勉猫「モチオさんは朝から元気ですね……こっちはまだ、夢見が悪いというのに」
モチオ「親父も息子に会いたくない、息子も親父に会いたくないと言ってるんだ! それを無理やり合わせろだと? お前にそんな権利はない!」
依頼者「で、でも……親子なんです……! きっと、お互い素直になれないだけなんですっ」
モチオ「うるせー! 知ったことか! 本人が拒絶してる以上、他人に土足で踏み込む権利はねーんだよ!」
ネコロボ「モチオさん、少し冷静に……」
困り果てたネコロボが背後の気配に気づく。
がり勉猫は、影を帯びた声で囁いた。
「ネコロボ……あなたは、この依頼を受けるべきだと思いますか? それとも、モチオさんの言う通り、断るべきでしょうか」
ネコロボ「……依頼人の想いを汲むならば、話だけでも聞いて差し上げてはと」
がり勉猫は一つ深く呼吸を置いた。
瞬時に、いつもの理性的で少しお節介な自分へと「スイッチ」を切り替え、怒号の中へ割り込む。
がり勉猫「はい! モチオさんそこまで! ご婦人が困っているじゃないですか!」
モチオ「あぁ!? これは俺の仕事ニャ! お前には関係ねぇ!」
がり勉猫「関係大有りですよ! 滞納している食費を払ってから言ってください。依頼を受けなければ、あなたは今日のご飯も食べられないんですよ!」
モチオ「るせー! 俺は仕事を選ぶ猫なんだよ! 崇高なポリシーで、内容を吟味して……」
がり勉猫「では、ご婦人。詳細をこちらへ」
モチオ「がり勉猫! 人の話を聞けぇーー!!」
その騒ぎを、ネコロボとコツ勉猫が遠巻きに眺めていた。
ネコロボ「あの二人は、いつになったら『平行線』から交わるんでしょうか……」
コツ勉猫「あら、そう? お兄様、モチオさんと喧嘩している時が一番、楽しそうに見えるわよ」
ネコロボ「……そうでしょうか」
モチオ「ここは俺の会社ニャ! お前に指図される筋合いはねえ!」
がり勉猫「指図? 結構! じゃあ、この前の『サンバ』の衣装代20万円を今すぐ返してください。あなたの無駄遣いのせいで、家計は火の車なんです!」
モチオ「……っ! そのトラウマを掘り返すんじゃねえニャーー!!」




