表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
71/105

第71話 第14章 水槽の金魚 完 5 水槽の入れ替え

マサシは母親に連れられ、再び事務所に来ていた。


母親:「あれから……これは『叩いたんじゃない、手当てだ』って言い張って。それからまた……不登校に…」


マサシは、ただじっと下を向いている。


モチオ:「あれから3日も行ったんだってな。すげーな、お前。尊敬するわ。わざわざ殴られに、無視されるために行く馬鹿はいないよな。……マジですげーわ」


マサシが驚いたように顔を上げた。


がり勉猫もコツ勉猫も、今はモチオを止めなかった。


しばらく彼に任せようと決めたのだ。


モチオ:「そもそも、俺は『学校に行くな』と言ったはずだ。違うか? なのにお前は行った。分かってる、親が心配するからだろ。ちいせーのに親思いか。お前は将来、立派な大人になる。……おいマサシの母! 心配するな、こいつは最高の親孝行者だ」


モチオの声が鋭くなる。

「おい、母!! マサシはここまで頑張った。……次はお前の番だ」


ネコロボが静かに動き出し、がり勉猫たちもモチオの意図を察した。


モチオ:「おい、母。これがいじめの真実だ」


そう言って、学校での一部始終を収めたメモリーカードを突き出す。


モチオ:「学校を変えろ!」


「ええ!!!」と母親が絶句する。マサシは必死に首を横に振った。


モチオ:「なんだ? 逃げるのが嫌か? 負けるのが嫌か? ……そうか。お前、かの有名な『金魚の話』を知ってるか?」


マサシは戸惑いながらも、小さく首を縦に振った。


モチオ:「あれの道徳は素晴らしい! でも、事実じゃないんだ。そもそも、俺はお前をあの学校に戻らせるつもりなんて一切ない。どうでもいいんだよ」


ネコロボが初めて口を挟む。


「では、なぜあんな授業をしたんでしょうか?」


モチオ:「まあ、一応な! 教師だって道徳は教えてる。だが事実として、いじめはなくならない。話し合って通じるなんて、俺はこれっぽっちも思っちゃいない。俺は最初から、この『証拠』を撮りたかっただけだ」


がり勉猫:「つまり……証拠を突きつけて、教育委員会や学校に『越境入学』を認めさせることが目的ですか?」


モチオ:「そういうことだ。いじめをなくす? あほらしい、それを発明した人間はノーベル平和賞確定ニャ。だが、証拠を突きつけりゃお役所様は逃げられまい。穏便に済ませたいから、越境くらい目をつぶってくれる。これが大人のやり方ニャ」


戸惑う親子。マサシは再び視線を落とす。


モチオはマサシを連れ出し、三つ並んだ金魚の水槽の前へ立った。


モチオ:「マサシ、これを見ろ。……なぜ、水槽が3つあると思う?」


マサシが首を振る。


モチオ:「金魚はな、水槽の大きさで成長が変わる。そして、縄張り争いをして小さいのをいじめるんだ。解決策はただ一つ……『隔離』だ。隔離先でまた成長してぶつかったら、また別の場所へ隔離する」


マサシは黙って水槽を見つめている。


モチオ:「これは逃げじゃない。生存戦略だ! お前は、小さい金魚を無理やり大きい金魚の水槽に戻すか? 金魚に向かって『いじめるな!』って説教するか? ……いくら言ったって、あいつらは死ぬまでやる。隔離された金魚が、『逃げて恥ずかしい、本当はあそこで頑張りたかった』なんて思ってると思うか?」


モチオが水槽を指差す。


「いいや……こう思ってるはずだ。『ああ、違う水槽でよかった』ってな」


がり勉猫も、そっとマサシに寄り添う。


がり勉猫;「マサシさん。学校は小さな水槽に過ぎません。でも、地球を、宇宙を見てください! もっと視野を大きく! そうすれば、今の狭い水槽にどれほどの価値があるでしょうか? 学校にそもそも水槽の大きい小さいもないし、 誰も現状が大きい水槽だと証明できない。 つまり、次の水槽がマサシ君にとって大きい水槽かもしれません、、、、『もっと大きな水槽へ自分は行くんだ!』という気持ちを持ってください」


コツ勉猫は母親の手を取った。


コツ勉猫:「お母さん。誰にだって居場所はあります。お母さんだって転職を考えるでしょう? それを失敗と呼びますか? いいえ、キャリアアップです。どうかマサシ君に、大きく羽ばたけるキャリアアップを。今の行政は、真剣に動く親を無下にはしません。私たちがついています。……転校を考えましょう」



「……はい」


マサシは、転校を決意した。


行政と学校への交渉は、がり勉猫とコツ勉猫による「地獄の理詰め」によって、驚くほど迅速に進んだ。


モチオ:「あの二人の地獄の理攻めにかかったら、一言の反論も無理だニャ……」


ネコロボ:「まさに理詰め地獄。一言発すれば、百の正論が返ってきますから」



数日後。新しい学校のホームページには、笑顔でピースサインをする新しい友達と、手で作った「Cサイン」を掲げるマサシの姿があった。


一方、事務所の水槽では――。


モチオ:「おいおい、今度は大きな金魚同士が喧嘩してるニャ!」


コツ勉猫:「いくら水槽があっても足りませんね。まあ、用意しますか。放っておくと、死んじゃいますし、、、そうすれば、モチクロが怒りますから」


その頃、がり勉猫は一人、かつての先生へ言葉を送っていた。


「先生! どうか力不足なんて自分を責めないでください。自信を持って、子供の将来はあなたに……。どうか初心を貫いてください。応援しています!」



小さな金魚の水槽。


そこでは今日も、金魚たちが元気に仲良く泳いでいる。


小さな水槽でも、いずれまた争いは起きるだろう。


その時は、また別の水槽を用意すればいい。


それが、金魚のすべてが生き残るための「生存戦略」だ。


これを「逃げ」や「負け」だと断じることができる人間が、果たしてこの世にいるだろうか。



*******************


人には、必ず居場所がある。


もし今いる場所が、その場所ではないのなら。


ただ、違う場所を探せばいいだけのこと。


第14章「水槽の金魚」――完


**********************

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ