第66話 第13章 見えてる世界 5 完 見えない世界
リョウとカオリを別れさせるため。その問いに、ミナミは迷いなく答えた。
ミナミ:「はい。……その通りです」
がり勉猫:「ですが……あなた……。自分の名誉まで泥を塗って……」
ネコロボ:「手法として、正しいとは思えません。自己犠牲が過ぎます」
ミナミはうつむいたまま、静かにつぶやいた。
ミナミ:「……でも……」
がり勉猫:「……読めましたよ。もともと、あなたはカオリさんの友人だった。リョウという不実な男と別れさせるために説得を繰り返したが、彼女は応じなかった。
だから、あえて自ら泥を被り、リョウを誘惑する『悪女』を演じた……。ですが、あなたの払った代償は大きすぎます!」
ネコロボ:「理解に苦しみます。これでは、あなたの人生が浮かばれません」
ミナミ:「…………。私は、大学を去ります」
「ええっ!?」
がり勉猫:「あなたのような優秀な学生が! もったいないですよ!!」
ミナミ:「いいんです。……。そもそも私は、あの大学の学生ではありません」
「……はあ!?」
ミナミ:「皆さんと一緒です
…私も、いわゆる『別れさせ屋』ですから」
全員:「えええええええええええええええええええええ!!!」
がり勉猫:「ど、ど、どういうことでしょうか……」
ミナミ:「がり勉猫先生は信頼しているので、極秘で話します。私はとある方から依頼を受けました。そこで潜入し、あえて自分への悪評を流したのです。……ここで私が大学を去れば、どうなると思いますか?」
がり勉猫:「……! カオリが悪評を流してミナミさんを追い出した、という『風向き』が生まれる。事実に反してあなたが清廉な女性だったという噂が立てば、今度はカオリさんの方が周囲から追い詰められる……。ゼミのメンバーがあなたのことを悪く言わなかったのも、すべて計算のうちだったのですか……」
ミナミ:「さすが先生、ご名答です。……では、この件を私に仕掛けたのは、一体誰だと思いますか?」
がり勉猫:「……リョウさんということになりますね。万が一、依頼者がリョウさんだとバレるのを防ぐため、カオリさんが『自分から依頼するように』仕向けた。……いわば、高度なカモフラージュです」
ネコロボ:「あとは、カオリさんが別れさせ屋に頼んで強引に別れさせたという事実を流せば、カオリさんは確実に悪者になる。リョウさんとヨリを戻すことは不可能になり、デマの被害者としてリョウさんだけが同情される側に回る……と」
ミナミ:「さすが優秀なロボット。理系の男子なんてちょろいもんです……。私が素朴で純粋な感じを出せば、全員コロッとですよ。この美貌ですしね(笑)。私が大学を去れば、暴動が起きるかもしれませんね」
がり勉猫:「……。それは否定できません」
ネコロボ:「でも、がり勉猫さんは美貌ではなく、ミナミさんの『物理を学びたい!』という姿勢に騙されましたね」
がり勉猫:「……。返す言葉もありません」
ミナミ:「フフフ、がり勉猫先生もお気をつけて。でも、先生は好きですよ。他の男は私の容姿しか見てないけれど……先生の『物理愛』なら、ありかな(笑)」
ミナミは不敵な笑みを浮かべ、真の依頼内容を突きつけた。
ミナミ:「真実を言いましょう。リョウさんはカオリさんと付き合っていません。カオリさんはストーカーです。リョウさんから、その対策として依頼を受けました。……あしからず」
全員:「えええええええええええええ!!!」
がり勉猫:「……。リョウさんが遊びで彼女を捨て、その結果としてカオリさんがストーカー化した……ということですね」
ミナミ:「そこはビジネスですから。私は関与しません。これでミッション成功ですので、私は手を引きます。先生、カオリさんから成功報酬を受け取ってください。そうしないと『噂』が完結しませんので」
ミナミ:「ヨシコ。さあ、帰るわよ!」
ヨシコ:「はい、お姉様」
全員:「えええええええええええ!!!」
弟子だと思っていたヨシコは、ミナミのスパイだったのだ。去り際、モチクロが悲痛な声を上げた。
モチクロ:「全部知ってたの!? 全部! 僕たちのこと、騙してたんだね!!」
ミナミは笑顔で答えた。
ミナミ:「いいえ。最初は驚いたけれど、全部本当のことだよ。一緒に遊べて楽しかった! モチタ君が教えてくれた狩りゲーのおかげで、本当に好きな人もできたしね!」
モチタ:「これからもチームだよね!」
ミナミ:「もちろん! あ、モチクロ君。また一緒に絵を描きましょう!」
モチクロ:「うん!!」
(モチタとモチクロから情報収集してたくせに……)
がり勉猫はそう思ったが、二人の純粋な笑顔を見て、口をつぐんだ。
ミナミは軽やかに手を振り、去っていった。
ネコロボ:「まさか『別れさせ屋』の私たちが、本物の『別れさせ屋』に利用されていただけなんて……」
がり勉猫:「ミナミさん……。ターゲットだけでなく、周囲の人間全員を懐柔する才能。あの美貌ならあり得ることですが……。やはり人間はわかりません。物理のほうが、ずっと素直で大好きですね」
ネコロボ:「ふふふ。学問は裏切らない。がり勉猫さんらしいですね」
一方、事務所の奥。
モチオは相変わらず、ふてくされた顔で一人狩りゲーをしていた。画面にはチャットのログが流れる。
キングM:「あ、チャットか。戻ってきたか、サウス」
サウス:「はい。キングM、無事、仕事終わりました」
キングM:「お疲れ様だ。サウスのために武器を集めておいたぞ」
サウス:「ありがとう。今回、いろいろ相談に乗ってくれてありがとうね。おかげで成功したかな……。お礼に、一度オフ会しませんか? 会ってみたい! 顔が見てみたい! 声が聴きたいわ、キングM」
キングM:「またその話か? やだニャ! 俺は若すぎる女に興味はない。汚いおっさんだからな、見たら幻滅するぞ。サウスは若いんだから、若い男に行けニャ」
サウス:「若い男なんてガキすぎて無理! 『やりたい、やりたい』ばっかり! うんざり。若い女の子の誘いなんて、普通のおじさんなら飛びつくんじゃないの? 私、結構美人でしょ(笑)。写真送ったじゃん!」
キングM:「興味ない。見てない。削除したニャ」
サウス:「えっ!? ……でも、キングMも……若い子と、美人な私と……やっぱり……『やりたい』でしょ?」
キングM:「はあ?俺は、ガキには興味ねーニャ。んなことより、さっさと行くぞニャ!」
サウス:「……素敵♡」
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見える世界がすべてじゃないんだよ
第13章 見えてる世界 完
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