第64話 第13章 見えてる世界 3 法則
数日が経過した。
モチタとモチクロは、定期的にターゲットのミナミと楽しそうにお出かけを繰り返している。
一方、コツ勉猫のもとには、彼女の衣装作りに心酔した大学生のヨシコが頻繁に訪れ、「弟子」として針を動かしていた。
取り残されたモチオは、ふてくされて一人で狩りゲーに没頭している。
がり勉猫:「……。これでモチオさんもコツ勉猫もおとなしくなりましたね。作戦の立て直しはこれからです」
ネコロボ:「やはり潜入して、ミナミさんとリョウさんの真相を探るしかありません」
がり勉猫:「こんなことはしたくありませんが……。まあ、K大学ですから、教授陣には私の顔が利きます。潜入は容易でしょう」
ネコロボは図書館、がり勉猫はゼミへと分かれて潜入を開始した。
ネコロボ:「あの……すみません」
大学生A:「ええっ? ロボット!? すごい! ……でもごめんね、大学の課題がある
から相手してられないんだ」
大学生たちが集まり、ホワイトボードに書かれた数式を前に頭を抱えている。
ネコロボ:「あの――」
大学生B:「しつこいよ、ロボさん! 提出が明日までで、全然解けなくて絶望してるんだから!」
ネコロボ:「あの――……。それ、バナッハ–タルスキーのパラドックスですね」
大学生たち:「えっ?」
ネコロボ:「一つの球を有限個に分割して組み替えると、同じ大きさの球が二つできます。ただし、分割の仕方が『人間には想像できないほど奇妙』なので、現実では起きません。あくまで数学の世界での話です」
大学生A:「……増えるの? なんで?」
ネコロボ:「理由は『無限の扱い方』にあります。数学では可能、現実では不可能。それがその課題の肝です。――これで、お時間はいただけましたでしょうか?」
大学生B:「サンキュー、ロボさん! 助かったよ!! ……で、ロボさんは何の用事だい?」
ネコロボ:「ミナミさんについて、お聞きしたいのですが」
ゼミの教室。
教授から「特別客員」として紹介されたがり勉猫の前に、ミナミがノートを抱えて現れた。
ミナミ:「がり勉猫さん……あの、量子力学の課題について、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
がり勉猫:「結論から言います。粒子は『観測されないとき』は波として広がり、観測された瞬間に『粒』として振る舞う。これが量子の二重性です」
ミナミ:「観測……しただけで、変わってしまうのですか?」
がり勉猫:「はい。『見る』という行為そのものが、粒子の状態を決めてしまうのです。……ミナミさん、筋がいいですね。では次はシュレーディンガー方程式に進みましょう」
ミナミ:「ぜひ、お願いいたします……!」
一方、ベンチでスマホをいじっていたリョウは、あくびを噛み殺していた。
リョウ:「……量子? スリット? いや俺、そういうのマジ無理。てか眠くなってきた……。あ、またカオリからラインだ、うぜ……」
リョウ:「ねえミナミちゃん、今度の土曜……暇?」
ミナミ:「ごめん。今度の土曜は約束があるの」
リョウ:「また? いつになったら遊んでくれるのさ。また子守? 飽きないね。今度
新しいカフェできたから行こうよ」
ミナミ:「それより、この課題やらないと。来週までだよ!」
その様子を、がり勉猫は鋭い視線で見つめていた。
それからというもの、ミナミは頻繁に事務所を訪れるようになった。モチタ・モチクロと遊んだ後に、がり勉猫と研究に励むのが彼女の日課となった。
ある日。
コツ勉猫がヨシコと衣装作りをしている場に、ミナミがやってきた。二人は軽い会釈だけで済ませる。
コツ勉猫:「あら、ヨシコさん。ミナミさんとお友達じゃないの? 同じ大学なのに……」
ヨシコ:「ええっ! あの女、私、大嫌い!!」
コツ勉猫の衣装を作る手が、一瞬、ピタリと止まった。




