第51話 第10章 淋しい熱帯魚 完 5 真のギャンブラー
モチオ:「ギャンブル依存症はお前だニャ! 真美!!!!」
事務所に「はあああ???」という困惑の空気が流れる。
がり勉猫:「あの……モチオさん?? 何を言っているんですか?」
ネコロボ:「いつもの八つ当たりでしょうか。それとも回路のショートでしょうか……」
重苦しい空気の中、真美が戸惑いながら答えた。
真美:「いえ……私、ギャンブルは一切しませんが……」
モチオ:「いいや、真美! お前は大博打打ちだニャ! お前のギャンブル病を直さないとダメだニャ!!!」
再び「はあああ???」という空気が流れる中、モチオが畳みかける。
モチオ:「真美。お前の依頼を、もう一度ここで言ってみろニャ」
真美:「はい。マサルのギャンブル癖を直してほしい、です」
モチオ:「で? 直ったらどうするニャ?」
真美:「はい……結婚したいと……思っています」
がり勉猫が、モチオの指摘した核心に気づき、顔色を変えた。
がり勉猫:「真美さん……マサルさんにお金を貸していませんか?」
真美:「はい……300万ほど。私も、もう貯金はありません……」
モチオ:「で、お前は300万払って、マサルはギャンブルをやめたのか? 結婚はできたのか?」
真美:「いえ……」
モチオ:「この海底魚が陸に上がるとでも本気で思ってるのか?」
真美:「……それを、信じてるから……」
モチオは声を荒らげた。
モチオ:「そんな勝ち目のないギャンブルを、いつまでやってるつもりだニャ! こいつは直らんニャ! 絶対ニャ! 絶対だニャ!! 負け確定の台に300万も突っ込むなんて、アホもたいがいにするニャ!」
がり勉猫:「真美さん。モチオさんは、あなたを思って言っているのです。失ったのはお金だけじゃありません。あなたは時間も、心も、人生もすべてマサルさんに『bet(賭け)』している。でも、この勝負に勝ち目はありません。自分を見つめ直す時間です」
マサル:「……俺だって! いつかは……!」
ネコロボ:「依存症の常套句ですね。お前の言う『たかが380円』を払うために、真美さんが仕事でどれだけの人に頭を下げていると思っているんですか」
モチオ:「真美。なんでマサルといる? マサルのどこがいい? お前、今まで何してもらった? もらったプレゼントは何だ?」
真美:「普段は優しいし……そう、誕生日に、ウサギの人形をもらいました……」
がり勉猫:「真美さん。あなたは人生を賭けていますが、マサルさんはあなたに何も賭けていない。これじゃあ勝負になりません。その300万は、本当は何のためのものだったんですか?」
真美:「私……留学したいと思って、お金を貯めていて……。でも上京して一人で、寂しくて……」
モチオ:「お前は『寂しい依存症』だニャ! だから勝ちもしないマサルのギャンブルをいつまでもやってるんだニャ! やりたいことがあるんだろう! 依存症をまず直せニャ! マサルギャンブルをやめろニャ!!」
モチオはネコロボを指さした。
モチオ:「おいネコロボ! 今からロンドンの飛行機を予約しろニャ! 1週間後だニャ! あと真美、マサルの親に電話して300万返してもらえニャ! そのままお前はイギリスに行け!」
真美:「えええええ……」
マサル:「おい、ちょっと待てよ! 親には……」
モチオ:「うるせーニャ! もう閉店の時間だニャ!! いつまでも真美が店を開いてると思うな!」
ネコロボ:「これも常套句です、泣き言の。聞くまでもありません、真美さん」
がり勉猫:「真美さん。モチオさんは乱暴です、アホです。でも……この話、悪くないと思いますよ。思い切ってください!」
真美は深く下を向いている。
ネコロボ:「モチオさんもがり勉猫さんも、真美さんにこう言いたいのです。あなたのこれからの人生に、あなた自身が『bet』してください、と」
真美は静かに俯いたままだった。
その時、モチオがテーブルに音を立てて現金を置いた。
モチオ:「受け取れニャ。俺は真美のこれからの人生に『bet』するニャ。心配するなニャ……俺はプロだニャ! 負けなんてありえんニャ!」
真美は涙を浮かべ、ぎこちない笑顔でうなずいた。
それから1ヶ月。
コツ勉猫:「真美さんからお手紙が来ました! あ、写真も……ええええ、何々? 超イケメン外国人に囲まれて、うらやましー!!」
ネコロボ:「充実しているようですね。笑顔を見ればわかります」
がり勉猫:「それに紅茶も入っていますね。せっかくですから、本場英国の紅茶でもいただくことにしましょうか」
がり勉猫がモチオを見るが、モチオはまた暇を持て余し、机に突っ伏したまま手を挙げて「パス」の合図を送った。紅茶には興味がないらしい。
リビングで紅茶を待つ間、ネコロボががり勉猫に話しかける。
ネコロボ:「がり勉猫さん、考え事ですか?」
がり勉猫:「いえ……あの時、モチオさん、真美さんに『bet』だってお金を渡したでしょう?」
ネコロボ:「はい。あれ、超かっこよかったですね。私、感動しました」
がり勉猫:「あの……あの6000円って、マサルさんの競馬の報酬だって巻き上げたお金ですよね……?」
ネコロボ:「…………」
がり勉猫:「もちろんかっこよかったですよ。あれはね。でも……なんか、モヤッとするんですよね。ちょっと濁ってるというか……」
ネコロボ:「はい。言語化しにくいですが、がり勉猫さんの思い、わかります」
そうこうしていると、コツ勉猫が真美の送ってくれた紅茶を運んできた。
その紅茶は――。
一点の濁りもなく、透き通っていた。
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人生のギャンブルに真剣勝負な人間は
娯楽のギャンブルなんかに興味はない
娯楽のギャンブルに真剣勝負な人間は
人生のギャンブルなんかに興味はない
第10章「淋しい熱帯魚」 完
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