第50話 第10章 淋しい熱帯魚 4 経済理論?
事務所のドアが開くや否や、怒号が響き渡った。
マサル:「おかしいだろ! 勝ったときだけ15%取るなんて! 全部負けたんだから、さっきの6000円返せよ!」
モチオ:「アホかニャ! その6000円はコンサル料だニャ! 負けたから返せって言うなら、JRKに直談判してこいニャ!」
がり勉猫たちは、戻ってきた二人のあまりの低次元な争いに唖然としている。
モチオ:「それより380円返せニャ! 今すぐニャ! 電車賃がないって泣きつくから貸してやっただけだニャ! 返せニャ!」
マサル:「6000円も取っといて、たかが380円くらい言いだろ!」
モチオ:「その『たかが』が払えない人間が偉そうに言うなニャ! お前は『たかが』以下だニャ。380円以下の人間確定ニャ! 明日になったら利子で50万ニャ!!」
そこでマサルは、冷ややかな視線を送る真美たちに気づいた。
マサル:「真美……このうるせー猫に380円返してやってくれ……」
真美は無言で財布から380円を取り出し、モチオに手渡した。
モチオ:「命拾いしたな!」
モチオは受け取った小銭を大事そうに貯金箱へ入れた。
がり勉猫:「……理由はともあれ、全員集まりましたね。本題に入りましょう」
モチオとマサルはふてくされた様子でソファに座る。モチオはまだ言い足りないといった表情で、口火を切った。
モチオ:「真美、こいつはギャンブル依存症でもなんでもないニャ! そもそも俺のプロの目から見て、こいつはギャンブルのセンスが『ゼロ』だニャ!」
マサル:「はあ? お前がプロ? なめんじゃねえぞ、このエセが! 思いっきり外してたじゃねえか!」
モチオ:「プロなら確実に当てるのかニャ? かのスーパースターは全打席ホームランかニャ? 三振しないのかニャ? あああ!?」
マサル:「……っ。でも、お前なんかにセンスないなんて言われたくないね!」
モチオ:「馬鹿はこれだから困るニャ。マサル、お前は何のために勝負事をするんだニャ?」
マサル:「そりゃ、楽して稼ぎたいと思ってるに決まってるだろ!」
モチオは西洋人のように両手を上げ、「これじゃお手上げだぜ」というポーズを決めてみせた。
マサル:「それの何が悪いって言うんだよ!」
モチオ:「本当にお前は何もわかってねーニャ。おいネコロボ、この海底人に経済の基本を教えてやれニャ。お金を稼ぐためには、どうすればいいニャ?」
ネコロボ:「はい。それは『支出を最小限に、利益を最大限にする』ことです」
マサル:「それが何なんだよ!」
モチオ:「これが俺みたいなプロと、お前みたいなど素人の違いだニャ!!」
マサル:「……?」
モチオ:「お前は昨日と今日で、自分のお金をいくら使ったニャ?」
マサル:「0だよ! 全部使ったし……でも昨日は5万勝ったんだよ!」
モチオ:「いくら投資して5万勝ったニャ?」
マサル:「勝ったり負けたりで、トータル10万くらい使ったかな」
モチオ:「今までの人生でいくら使ったニャ?」
マサル:「500万は使ってる……でも、今度は勝てる! 今は300万くらい負け越してるけどな!」
モチオ:「馬鹿の発想だニャ。一方、俺みたいなプロが今まで使った金は……」
モチオ:「0円ニャ!!!」
モチオ:「おいネコロボ、経済の基本は何だ!」
ネコロボ:「はい。それは『支出を最小限に、利益を最大限にする』ことです」
モチオ:「俺は支出0円だ! これで利益を稼いでいる。お前は必死に金をつぎ込んで稼ぎもなし……楽して金を稼ぎたい? 毎日毎日パチンコ屋に行って、ご苦労なことだニャ。で? 結局何も稼いでない。お前のやってることは経済理論でいうところの……頓珍漢ニャ!」
モチオ:「俺はパチンコはお前の玉をもらっただけ、競馬はお前に付いていっただけだニャ! ふん、これだけで俺は大金を手にしている。これがプロだ!!」
モチオは「決まったぜ!」と言わんばかりのドヤ顔を見せた。
がり勉猫:「経済理論としては成立していますが……単なるタカリでは? 何でしょう、このモヤッとした感じは。ちょっと理論が濁ってるんですよね……」
ネコロボ:「わかります。言語化は難しいですが、がり勉猫さんの言いたいこと、よくわかります」
がり勉猫:「モチオの経済論は、なんとなくですが分かりました。で、この話がどうやって相談内容に繋がるのでしょうか?」
ネコロボ:「そうですよ。そんな暴論を吐いたからといって、マサルさんのギャンブル依存症が治るとは思えません」
モチオ:「そんなの知っとるわいニャ!!! マサルが問題じゃないニャ!!! 深海の液晶画面で一生海底にいろニャ! アンコウと戯れてろニャ!!! もう二度と陸に上がるなニャ……」
モチオ:「おい、真美。こいつは海底魚だから、もう陸には上がれんニャ」
真美:「……えっ? どういうこと……?」
モチオ:「それより……深刻な……問題は……」
モチオ:「真美!! お前だニャ!!!!!!!!!!!」
全員:「ええええええええええええええええ!!!」




