表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/101

第49話 第10章 淋しい熱帯魚 3 勝負の声

トントントントン……。



 事務所のテーブルを、がり勉猫が指で叩く音が規則正しく響く。


がり勉猫:「来ないですよ、ネコロボ!」


ネコロボ:「ですね……。しかし、ちゃんと来てくれるという約束はしました」


 重苦しい沈黙が続く。相談者の真美が力なく口を開いた。


真美:「やっぱり、マサルは来ないですよ。いつもあんな感じだし……」


がり勉猫:「……しかし、モチオさんもいない。怪しい。今日はパチンコ店の定休日のはず。どこで何をしているのやら。もしかして……」




 その嫌な予感は的中していた。



場所はパチンコ店ではなく、砂埃が舞う競馬場。


マサル:「いやあ、モチオさんが付いてきてくれて頼もしいよ!」


モチオ:「俺はパチプロだけでなく、全ての勝負事のプロだニャ。俺に任せておけニャ」

 モチオとマサルは、真剣な眼差しで馬を眺めている。


マサル:「これまでの9レース、3回も的中してる。これは珍しいよ。流石はモチオさんだ!」


モチオ:「俺はパチンコより、むしろこっちの方が得意分野だニャ」


 マサルはすっかりモチオを師匠と仰いでいるが、実情は違った。


モチオはマサルが選んだ馬に対して、「これでいいニャ」「まあいいニャ」「無難だニャ」と適当に同調していただけなのだ。


マサル:「とうとう最終レースだね、モチオさん」


 マサルは何に賭けるべきか、喉を鳴らして悩んでいた。モチオは黙って、静かにパドックを見つめている。


 その時、とある一頭の馬が激しく嘶いた。


 モチオの目が、カッと見開かれる。


マサル(……競馬のプロは、馬と対話ができるという。馬が何を言っているか分かると。まさかモチオさん、今……!)


 モチオは目を丸くしたまま、隣のマサルに震える声で呟いた。



モチオ:「……聞いたかニャ、マサル……」



 マサルは声を殺し、固唾を呑んで深くうなずいた。


 パドックの喧騒の中、モチオは静かに呟いた。


モチオ:「……7-10……」



 マサルはその声を聞いた瞬間、返事もせずに全速力で馬券売り場へ走った。


その手は、武者震いか絶望の予兆か、激しく震えていた。


 そして、運命の最終レースが始まろうとしている。


マサル:「モチオさん、とうとう来たね……。俺、今までの勝ち分と元金、全部ぶち込んだよ。これ、万馬券なんだ。勝ったら2000万だよ!」


モチオ:「まあ焦るなニャ。約束は守ってもらうニャ。勝ち金の15%は俺の取り分だニャ」


マサル:「もちろんわかってるよ! むしろ感謝しかないよ!」


 高揚感に包まれるマサルだったが、ふと1つだけ気になった。


マサル:「モチオさん……パドックの時、本当に馬の声を聞いたのか?」


モチオ:「ああ。なんだ、お前には聞こえなかったのかニャ?」


マサル:「……。でさ、馬はなんて言ってたか教えてくれよ。やっぱり企業秘密ってやつか?」


モチオ:「秘密にするほどのことでもないニャ。教えてやるニャ」


 マサルは驚いた。モチオが秘策をこうも簡単に教えてくれるとは。


マサル:「いいのか!? ありがとう……! それで、なんて……?」



モチオ:「それは……」

マサル:「それは……!」





モチオ:「『ヒヒーン』だ」





マサル:「…………え?」




モチオ:「いやー、馬って本当に『ヒヒーン』って言うんだニャ。びっくりしたニャ」


マサル:「……は? それが『馬の声』の内容なのか?」


モチオ:「おう。馬の声だニャ。実に見事な『ヒヒーン』だったニャ」


マサル:「じ、じゃあ『7-10』ってのはなんだよ! あの時呟いた予言の数字は!」


モチオ:「ああ、あれかニャ。あそこに『710(なっとう)』って看板があったから、珍しいなと思っただけだニャ、ああ食いて―なーって。」



マサル:「予言じゃないのか!? 秘策じゃないのか!!?」


モチオ:「何の話ニャ?」



 ――最終レース、結果は見事なまでの惨敗。マサルはもぬけの殻となり、競馬場に魂を置いてきた。



 一方、事務所。


がり勉猫:「遅いですね……遅い!」


ネコロボ:「もうじきです。競馬に行っていることはモチオさんのGPSで把握していますし、そろそろ帰ってくる頃でしょう」



 ガラガラガラ……。



 事務所のドアが開き、モチオと、魂の抜けたマサルが現れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ