第45話 第8章 神の力 完 5 小さな奇跡
女の子——ユリちゃんは、毎日のように神社に来ては、狛犬にお供え物を続けていた。
ユリ:「コマちゃん、ヒマちゃん。今日のご飯だよ。寒くない? 大丈夫?」
遠くから見つめるモチオとモチタ。
モチオ:「まー、よく飽きないニャ……」
モチタ:「いいじゃない。かわいいよ」
次の日、狛犬の首には、鮮やかな赤とピンクのスカーフが巻かれていた。
ユリ:「わあ! よかったね、二人とも! すごく似合ってるよ!」
モチタ:「……あれ、モチオでしょ? なんだかんだ言って、優しいよね」
モチオ:「うるせーニャ! 和尚が布を余らせて邪魔だって言うから、適当に巻いただけニャ!」
モチタ:「コマちゃんとヒマちゃんが『女の子』だって設定、ちゃんと聞いててあげたんだ。素直じゃないんだから」
また次の日には、泥団子を置くための立派な「お皿」まで用意されていた。
モチオ:「ふん。犬でも猫でも、皿がないと飯は食えまい」
ユリちゃんは満面の笑みで頷いた。「うん! ありがとう、モチオさん!」
夕方、神社の向こう側の横断歩道でお母さんが呼ぶ声が響く。
「ユリちゃーーん! 帰るわよーーー!」
ユリ:「はーい! ……モチオさん、手をつないで!」
モチオ:「……チッ、また俺かニャ。だる……」
文句を言いながらも、モチオは嬉しそうに小さな手を取り、歩行者信号が青に変わった横断歩道へと踏み出した。
その時だった。
一台のトラックが、信号無視の猛スピードで交差点に突っ込んできた。
運転手は気づいていない。モチオもユリちゃんも、迫りくる鉄の塊に全く気づいていなかった。
歩道で見守るモチタは、恐怖で声が出ない。
お母さんも必死に叫ぼうとするが、あまりの光景に口を開けたまま硬直している。
もうだめだ、間に合わない——!
「ユリちゃん!!」
不自然なほど、自然に。
背後から、ユリちゃんを呼ぶ重厚な二重の声に
呼び止められ、ユリちゃんは立ち止まり振り返る。
モチオもまるで図ったかのように同時に立ち止まり振り返る。
トラックは2人を数センチかすめて電柱にぶつかった。
ユリ:「どうしたの? コマちゃん? ヒマちゃん?」
コマ:『また明日ね』
ヒマ:『また明日ね』
ユリちゃんは、「うん!!」と元気よく頷き、再び母親の方へと駆け出した。
信号の向こう側から飛んできた母親が、力一杯ユリちゃんを抱き寄せる。
母親:「ユリ! 大丈夫!? 怪我はない? 本当に!? よかった……本当によかった……!!」
ユリは何が起きているかわからず、ただ母親に抱きしめられて照れ臭かった。
遅れて駆け寄ったモチタも、震える手でモチオの肩を掴んだ。
モチタ:「モチオ! 大丈夫!? 怪我してない!? モチオ!!」
モチオ:「……お前、さっきからワンワンワンワン耳元でうるさいニャ! びっくりして、文句を言ってやろうと思って立ち止まっちゃったじゃないかニャ!」
モチタ:「え? 僕、何も言ってないよ。……それに、僕……猫だし……ワンなんて言わないよ、、、で、、これ、」
モチタは遠くで電柱にぶつかっているトラックを指さす
モチオ:「ぎゃーーーー!! 何が起きてるニャ!!」
交差点では大破したトラックを囲み、現場の騒動がしばらく続いていた。
その騒ぎを遠くから静かに眺めていた和尚は、「コマちゃん」と「ヒマちゃん」の前にそっとリンゴを供えた。
和尚:「……ありがとうございます。」
二匹がゲームに興じていた、あの古びた小屋の壁。
埃にまみれ、微かに刻まれていた文字——。
そこには、古の人々が願いを込めて彫ったであろう、『家内安全』の四文字が刻まれていた。
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神様っているのかな……。
その答えはわかりません。
いる、とも断言はできないけれど。
いない、とも、断言はできない。
第8章「神の力」 完
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