第44話 第8章 神の力 4 狛犬
行列が絶えなかった小屋の周りも、いつしか静寂を取り戻していた。
あまりに「ネコ神様」が出ないため、やがてガセだと言われ始め、ブームは去ったのだ。
本堂にはまだ参拝客がいるが、離れの小屋付近は、時折子供たちが遊ぶだけの静かな場所に戻っていた。
その小屋の隣には、長い年月を耐えてきた二匹の狛犬が鎮座している。
モチオ:「あああ……今日もか。めんどくせぇニャ」
モチオとモチタには和尚から新しい雑用が命じられていた。この狛犬にお供えされた物を片付ける仕事だ。
モチオ:「今日は泥団子だぜ。こんなん神様もいらんニャ! 金とか食い物を持ってこいニャ」
モチタ:「しっ、罰が当たるよ。でも、時々みかんもあるよね。誰だろう、こんなことするの……」
ある日の夕暮れ。二匹は、小さな女の子が一生懸命にお供えをしている姿を見つけた。
モチオ:「おい! お前か! 泥団子娘!」
女の子はびくりと肩を揺らし、怯えた目をした。
モチタ:「モチオ、ひどいよ! ……ごめんね、君だったんだね。いつもお供えしてくれているのは」
女の子は、小さくコクリと頷いた。
女の子:「……狛犬さんの、ごはん」
今日は、久しぶりのみかんのようだ。阿像と吽像に、一個ずつ丁寧に備えられている。
モチタ:「みかんなんて、買うの大変でしょ? 大丈夫だよ」
女の子は首を振った。
女の子:「大丈夫、家の庭で取れたんだよ。だから、いっぱいいっぱいあるの。……コマちゃんと、ヒマちゃんにあげるの。お腹すいてると思って……」
どうやら狛犬には名前が付けられているらしい。
話を聞けば、女の子はこの近所に最近引っ越してきたばかりで、友達もいないという。
犬が大好きで飼いたいのだが、家の人に許してもらえず、こうして神社の狛犬を自分の「犬」として可愛がっているのだった。
だが、女の子は何かをひどく心配していた。モチタが理由を尋ねると、彼女は悲しそうに狛犬の足元を指さした。
「コマちゃんたちの足……欠けちゃってるの。苔もいっぱいで、真っ黒で……」
経年劣化で大きく欠け、汚れきった石の体を、彼女は自分のことのように気に病んでいた。
モチオ:「わかったニャ! あの和尚のヤロー、コツ勉猫の恋愛ビジネスで儲けてやがるくせに、こういう所はケチりやがって! 任せとけ、そこの女!」
モチオは鼻息を荒くして、どこかへ走り去っていった。
……十日後。
ボロボロだった狛犬の足の欠けは、見事に補修されていた。
モチオとモチタ、そして女の子の三人は、一生懸命に狛犬を磨き上げた。
モチオ:「よし! 完璧ニャ!」
モチタ:「経年劣化は仕方ないけど、やれることは全部やったね」
女の子:「コマちゃん、ヒマちゃん、よかったね!!」
女の子は「お風呂上がりでお腹すいたでしょ? 今日は特別だよ」と笑って、磨かれた台座にみかんと泥団子を並べた。
夕陽の光が反射し、狛犬たちはまるで喜んで食事をしているように輝いて見えた。
モチオ:「……狛犬さんってのは、泥団子なんて食うのかねぇ」
モチタ:「いいじゃない。なんか、ほほえましいよ」
女の子は狛犬の頭を優しく撫でていた。
まるで、ご飯を夢中で食べている愛犬を、愛おしそうに撫でるかのように。




