第41話 第8章 神の力 1 神様誕生
カズキの事件から一変、離れではなく神社の境内に、モチオのやる気のない声が響いていた。
モチオ:「あーーー、今日も暇ニャーーー。だる……。ああああ、だる……」
モチタ:「なんで僕たちまで付き合わされるのさー……。竹ぼうき重いよ……」
モチオ:「わからん……。がり勉猫のやつ、『仕事が暇だからボランティアで精進してこい!』って……。猫に精進は酷だニャ……」
そこに、シャリ……シャリ……と凜とした衣擦れの音と共に、上機嫌なコツ勉猫が現れた。
コツ勉猫:「ほら、そこ! ちゃんと掃除してください。神様はキレイ好きなのです。……ねえ、どう? 私?」
二人が顔を上げると、そこには完璧に着こなした巫女姿のコツ勉猫がいた。
モチタ:「……本格的だね。」
モチオ:「当たり前ニャ。こいつは巫女になりたくて専門学校まで行って、しかも主席で卒業したガチ勢ニャ。所作だけは、そこらのバイトより神に近いニャ……」
コツ勉猫:「ほーら、見とれてないで! 掃除、掃除!!」
上機嫌で持ち場に戻るコツ勉猫。
その後の祈祷では神主の補佐を完璧にこなし、巫女の舞は神がかり的な美しさ。あまりの本格ぶりに、閑古鳥が鳴いていた神社に参拝客が戻り始めていた。
だが、問題は「授与所」での彼女の対応だった。
女の子:「25番お願いします! お母さん、見て! 綺麗なお姉さんだよ!」
コツ勉猫は優しく微笑みながら、25番の引き出しをチラリと見る。
(……凶。)
コツ勉猫は一瞬で無表情になり、そっと引き出しを閉じた。そして、懐から自作の
「特製おみくじ」を取り出し、女の子に手渡した。
女の子:「おかあさん! 『スーパー大吉』だって!!」
お母さん:「えっ? 何それ……。『かわいいは最強。待ち人、イケメンの告白で行列ができる。願い、全部叶っちゃう。ハッピースマイル♡』……。
何これ、今の神社ってこんなに攻めてるの!?」
モチオ:「いいのか……あれ……。」
モチタ:「しかも神社で『スーパー』って。横文字フルパワーじゃん。」
また別の時には——。
粗暴な参拝客:「おい! そこの女! 11番だよ! 早くしろ!」
コツ勉猫は菩薩のような笑みを浮かべるが、引き出しを見るそぶりすら見せず、懐か
ら別の紙を突き出した。
参拝客:「……『極凶』?
『願い、絶対叶わない。待ち人、お前に来る人間はいない。そのウザ絡みを直せば少しはマシになるでしょう』……。
おい、これ個人の悪口じゃねえか!!」
モチオ:「もはや占いですらなくなってるニャ……」
夜。
神社にはテレビもゲームもない。
モチオ:「がーーーーー! 暇だ! 夜は特に暇ニャ!! しりとりも『りんご→ゴリラ→ラッパ』で100往復したニャ!!」
絶望するモチオの横で、モチタがカバンから「それ」を取り出した。
モチタ:「じゃじゃーーーーん。これ、持ってきたんだ。」
モチオ:「……モ、モチタ! それは……Switch 2!!」
モチオ:「モチタ!! お前は神ニャ! 本物の神ニャ!!」
モチタ:「モチオ! 声が大きいよ……シーーーー!!!!」
二匹は胸元に最新ハード(Switch 2)を隠し、忍び足で自室を抜け出した。
モチオ:「どこに行くニャ。和尚さんに見つかったら没収だぞ」
モチタ:「ふふん、いい場所を見つけたんだ。ここなら誰にもバレないよ」
案内されたのは、境内の最果てに佇む古びた小さな物置小屋。
無断で中に潜り込むと、モチオは目を輝かせた。
モチオ:「最高ニャ! ここなら朝までやり放題ニャ!」
小屋の壁にはかすかに古い文字が刻まれているが、ゲームに夢中の二匹には関係な
い。
時折、液晶の鮮やかな明かりが窓をぼんやりと照らし、二匹のシルエットを障子に映し出していた。
ちょうどその時。夜の静寂を破り、一人の悩める参拝客が境内に足を踏み入れた。
男は崖っぷちの事業主だった。
参拝者:「神様……大阪での事業がうまくいきません。私は、どこへ向かえばいいのでしょうか……」
一方、小屋の中。
モチタとモチオは宝探しゲームにヒートアップしていた。
モチオ:「だから右! もっと右ニャ!!!!」
モチタ:「モチオ! 声が大きいよ! シーッ!!」
外の男は耳を疑った。
参拝者:「……もっと右? 大阪より右……東京、でしょうか?」
モチオ:「行き過ぎニャ!!!! ちょっと左に戻れ!!」
参拝者:「え? 神奈川……ですか?」
モチオ:「そう! そこ!! そこ!!! なんで最初からそこにしないニャ!」
モチタ:「だから、声が大きいってば! バレちゃうよ!!」
参拝者:「……拠点を神奈川に。なるほど、最初からそうすべきだったのか! ありがとうございます!」
男がふと小屋を振り返ると、窓には月明かりと液晶の光に照らされた、猫のような
シルエットが巨大に浮かび上がっていた。
参拝者:「か、か、か……神様! 本当にいたんだ! ネコ神様!! ありがたや、ありがたや……!」
男は震える手で拝み、急ぎ帰宅。
すぐさま拠点を神奈川に移した。
するとどうだろう。
事業は瞬く間に黒字化し、男は「猫神様の声を聞いた実業家」として大成功を収めたのである。




