第35話 第6章 打ち上げ花火 完 5 刹那
「親子であろうが人生は人それぞれ。他人がとやかく言えることじゃないニャ」
モチオの突き放すような言葉に、事務所の空気は重く沈み込んだ。
モチオ:「俺らの年代には分からんが、今はスクールカーストとか一軍とか、生きにくい世の中ニャ。ま、いい意味でも悪い意味でも、10代の経験ってのは一生響くからな。整形のリスクなんて、ミズキも百も承知のはずだニャ。あいつは馬鹿じゃない」
がり勉猫:「そうですね。確かに『10代という今この時』を、最高に輝いた状態で過ごしたいと切望する人もいれば、そうでない人もいる。逆に、10代の影が暗すぎて、その後の人生を立ち直れない人もいる……難しい問題です」
ネコロボ:「刹那に生きる人生を、楽観的だと非難することはできないと……。たとえ将来的に変化(劣化)のリスクを背負っても、今この一瞬、10代で輝ければ本望だと考える人もいる。そういうことですね」
モチオ:「外見至上主義はどんどん膨らんで大きな流れなんて、俺たち猫風情には止めようもない。ま、そういうことニャ」
両親は力なく肩を落とし、静かに事務所を去っていった。
……それから一か月が経過した。
がり勉猫:「モチオさん、ミズキさんが雑誌に載ったみたいですよ!」
モチオ:「何ッ! 復活か! かの伝説のアニメが!!!」
モチタ:「違うよ!オバQじゃない! だから小学館じゃないってば! ミズキさんだよ!」
どれどれ、と一同が誌面を覗き込む。
モチオ:「どれ?…… え! これ???!! ちっさ! ちっさ!!」
がり勉猫:「これからですよ、これから……」
その時、ずっと沈黙を守っていたコツ勉猫が、ぽつりと口を開いた。
コツ勉猫:「……私も、少し整えてみようかしら」
ネコロボ:「コツ勉猫さん。専門医に行っても、おそらく断られます。『手を加える場所がない』と。あなたは唯一無二の美しさを持っています。修正すべき箇所が見当たりません」
コツ勉猫:「ありがとう、ネコロボ♡ 唯一無二の美しさ……悪くないわね」
コツ勉猫が照れくさそうに微笑む傍らで、がり勉猫が独り言を漏らした。
がり勉猫:「唯一無二のもの。世界はそこに真の価値を見出すはずなのですが。神が与えた個性を捨てて、人は違う自分になりたがる。他人と同じになりたがる皮肉なものですね……」
微かな音が、窓の外から聞こえてきた。
夜空を見上げると、季節外れの花火が打ち上がっていた。
モチタ:「きれいだねー」
コツ勉猫:「そうね……」
がり勉猫:「確かに……」
ネコロボ:「花火は、美しいです」
モチオ:「ふん、そっかー。単なる火ニャ。あんなの火! 火だニャ!」
モチオの無粋な意見を無視して、皆は窓越しの光を見つめた。
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打ち上げ花火は知っている。
それが一瞬の輝きで、その直後には灰になることを。
それでも、打ち上げ花火は上がる。
一瞬の閃きを求めて。
第六章「打ち上げ花火」 完
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