第33話 第6章 打ち上げ花火 3 出来レース
ミズキが走り去った後、事務所には重苦しい静寂が満ちていた。
母親:「なんだか……あんなに怒らなくても……」
モチオ:「可哀想だニャ、ミズキ。こんなに理解のない親に育てられて……」
母親:「どういうことでしょうか。私たちはあの子のことを思って……」
モチオ:「お前ら夫婦は、18になったら、20になったら、25になったら、30になったら……って、結局先延ばしにしているだけニャ。反対なら反対とはっきり言うべきニャ。その優柔不断さが、あいつをもっと悩ませてるんだニャ」
父親:「……ですが、私は反対です。やはり体にメスを入れるのは、親として……」
モチオ:「そうだろうな。……ただな。周りがみんな最新のハイパーモーターを積んで大会に出てる中で、自分だけ『ノーマルな仕様で走れ』って言われたら、そりゃ絶望するわな。最初から負けが決まってる、出来レースだニャ」
モチタ:「……そんなミニ四駆の専門的なレースの話、僕しかわからないよ……」
両親:「……モーター? 出来レース……?」
困惑する両親の前に、ネコロボが静かに進み出た。
ネコロボ:「ここは私が解説します。モチオさんは、現代の外見至上主義がもたらす過酷な背景を理解せよ、と言っています。多くの人が『自己投資』という名のチューニングを行っている競争社会。その中で、自分だけは『ありのままで頑張れ』と強要されるのは、あまりに無茶な負け戦を強いているのと同じだ……と、そう仰っているのです」
沈黙が再び事務所を支配した。
モチオの暴論の中に混じった、鋭すぎる現実の指摘。両親は、自分たちが突きつけていた「正論」の残酷さに、初めて気づき始めていた。
モチオ:「そういうことニャ……。今や整形外科なんてコンビニぐらい手軽ニャ。医者はみんなそっちへ流れる。つまり、それだけニーズがあるからニャ。ニーズがあるってことは、それだけの人間が実際に手を加えてるってことニャ」
モチオは冷めた目で窓の外を眺めた。
モチオ:「整形が偏見だらけの世の中なら、あんなに大々的にCMなんて流さないニャ。有名人も広告塔にならない。違うか?」
問いかけられたネコロボが、淡々とデータを参照するように頷く。
ネコロボ:「それは事実として否定できませんね。ルッキズムの背景から、美容整形の件数は増加の一途をたどっています。周囲が当たり前のように『底上げ』を行う環境下で、自分だけがその選択肢を封じられる。美を追求するミズキさんにとっては、あまりに厳しい不平等条約に映るでしょう」
モチオ:「ミズキは、単に贅沢をしたいんじゃない。せめてみんなと同じ条件でスタートラインに立ちたい……そんな焦りの中にいるんだニャ。だがな、両親。一つ言っておくぞ どうだろうがミズキは至る方法で整形はするけどな。 もう手遅れだ。」
モチオが鋭い視線を両親に射抜いた。
残酷な宣告が、事務所の空気を切り裂く。
モチオ:「そもそも、あいつを止める資格なんて、最初から誰にもなかったんだニャ」
突き放すようなモチオの言葉に、両親は言葉を失い、ただ自分たちの震える手を見つめることしかできなかった。




