第24話 第5章 話さない人形 1 ネックレスの価値
「いらっしゃいませ。本日はお売りいただけるお品物でしょうか?」
カウンター越しに、店員がマニュアル通りの笑みを浮かべる。モチオは不機嫌そうに、ずしりと重いネックレスを差し出した。
モチオ「そうニャ……。これを買い取れ」
店員「承知いたしました。では、拝見して……」
モチオ「違うッ! お前じゃない!」
モチオが机を叩いた。
「CMのあの女を出せ。あの『くねくね』踊ってる暇があるなら仕事をさせろ。見てるだけでイラっとするんだニャ!」
店員の笑顔が引き攣る。
「ええ……? あれはCM用のダンサーでして、うちの従業員では……」
モチオ「いいから呼べ! 現場で踊らせておけ!」
店員「店長ーーー!! 新手のカスハラですーーー!!」
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「……なるほど。それは災難でしたね。確かにあのダンス、妙に鼻につきますし」
がり勉猫は、分解したネコロボの内部回路をピンセットでいじりながら、空返事をした。
モチオ「話はそこじゃない!!」
モチオの怒声がガレージに響く。
「おい! ショウコのネックレス、偽物じゃねーか! ネコロボ! お前、確かに『純金40g』って言ったよな!? なんで査定額が5円なんだよ!」
がり勉猫は無関心に、ネコロボのネジを締め直しながら言った。
がり勉猫「ああ、あれですか。あれはマモルさんからの大切な贈り物だったので。ご結婚祝いとして、私が本人に返しておきました」
モチオ「また勝手なことを! じゃあ、俺が持ってきたこの塊は何なんだニャ! もはや金メッキですらないぞ!」
がり勉猫は、ようやく顔を上げた。
がり勉猫「ああ、それ。ネコロボの古い電源コードです。劣化して被膜が剥げていたので、さっき交換して捨てたやつですね。モチオさんが勝手に拾って行ったんでしょ? まぁ、いらないので差し上げますよ」
「俺もいらねーニャ!!!」
モチオはゴム臭いコードを床に叩きつけた。
その時、沈黙していたネコロボが、悲しげに電子音を鳴らした。
「……確かに、私は新しくなりました。それは役目を終えたゴミかもしれません。ですが……そんな風に叩きつけられると、なんだか自分の臓物を捨てられたような気分で、少し傷つきます……」
静まり返るガレージ。
モチオはいたたまれなくなり、耳を伏せた。バツが悪そうに腰を屈めると、埃のつ
いたコードを拾い上げ、そっとがり勉猫の机に置く。
「……ま、まぁ、リサイクルは大事だニャ」
「モチオさん? 仕事ですよー? あれ、どこ行ったんだろ……」
返事がない。
ネコロボはガシャガシャと音を立てて受話器を取った。
ネコロボ「はい、こちら『名前が長すぎて自分でもたまに噛む相談所』です」
モチオ『あの……相談なんですけど……。ネコロボに、どうしても謝りたい奴がいるんです。どうすればいいですか……?』
受話器から聞こえてくるのは、低くて、わざとらしいほど震えている声。
ネコロボは受話器を持ったまま、首を180度回転させて背後のリビングを見た。
ネコロボ「あの……あのですね、モチオさん。お気持ちは痛いほど分かりましたから、自分で自分の会社に電話して、自分で相談料を発生させるのはやめてください」
モチオ『でも……やっぱりちゃんと謝りたくて……。今から行ったら、会ってくれるかな……?』
ネコロボ「……あの、モチオさん。ここから、ソファの陰で丸まって電話してるモチオさんの尻尾、丸見えなんですが」
モチオ『今からそっち、行っていい……!?』
ネコロボ「あ、はい。むしろ、早く戻って受話器を置いてください。通話料がもったいないです」
その様子を横目で見ていたがり勉猫は、持っていたペンを置いた。
(……付き合いたてのバカップルか!!!)




