第20話 第4章 過去の忘れ物 2 予感
いつもの夕食後の会議。
モチクロは塾を、モチタはクエストを片付け、最新家電の並ぶリビングに合流した。
コツ勉猫「……それにしても、とても綺麗な女性でしたわね。私にそっくりで……」
一同「「「「…………(沈黙)…………」」」」
あまりにまどろっこしい自己評価はスルーし、がり勉猫が眼鏡を拭きながら口を開いた。
がり勉猫「それにしても不可解です。ネコロボのプロファイリングにすらヒットしないなんて。役所や警察もお手上げというのも頷けます」
ネコロボ「……はい。珍しいケースです。彼女のデータは、まるで意図的に抹消されたかのようです。ビビビ」
モチオ「……おい、がり勉猫」
モチオが、かつてないほど深刻な顔で呼びかけた。
がり勉猫「……はい。何か、彼女の正体について心当たりでも?」
モチオ「この給料明細の『迷惑料』の項目、やっぱり納得いかねーニャ!!」
モチオは、ちゃぶ台……ではなく、最新のガラステーブルを叩いてキレた。
対するがり勉猫も、ついに堪忍袋の緒が切れた。
がり勉猫「……ブチッ。今話す内容ですか!! あの野球OBへの謝礼にいくらかかったと思ってるんですか! ドームのレンタル料! インチキ風発生装置!! 経費がかかりすぎなんです、本文に関係ないところで!!!」
リビングに静寂が訪れる。……大赤字の衝撃。
だが、モチオは不敵な笑みを浮かべ、事務所の電話を指差した。
モチオ「フン、それなら大丈夫ニャ。……おいネコロボ。『めるる』男の通話料、今いくらニャ?」
ネコロボ「……現在、連続通話6時間。合計で7万7200円を計上しています。ビビビ」
モチオ「……。……。俺の月給、超えてんじゃねーよ、めるる」
モチクロ「え、計算が合わないよ。1分20円なら、6時間でも7200円じゃないの?」
ネコロボ「……いえ。3分おきに強制切断し、自動でかけ直させています。よって、3分ごとに基本料500円が発生します。ビビビ」
モチタ「げぇえっ! 超あくどい……!!」
モチオ「何を言うニャ! 無駄な長電話は通信会社に迷惑だろニャ! これは社会の秩序を守るための慈悲ニャ!!」
モチオは、ダイソンの風を浴びながらドヤ顔で続ける。
モチオ「めるる男の真の悩みは『話し相手がいない』こと。俺はそれをAIで解決してやってる。これは立派な社会貢献だニャ!!」
がり勉猫「(……話し相手になっていませんが)」
コツ勉猫「(……応対してるのはAIですが)」
モチクロ「話、本文に戻すよ。……名前も住む場所も分からないんじゃ、手がかりがないよニャ」
がり勉猫「……そうですね。現在は一時的に施設に身を寄せているようです。そこで、彼女にはGPSを持ってもらうことにしました。行動パターンから、失われた『日常』の手がかりを解析できるかもしれません」
一同が深刻に悩んでいる間も、背後では「社会貢献(集金)」が続いていた。
相談者「でもさー、『さや〇』も出たての時は感じ悪かったよなー。絶対性悪だと思ったもん。今じゃ癒やし系だぜー」
モチオAI「わかるーーー」
***
モチタ「コツ勉猫が言うように、そんなに綺麗な人だったの?」
コツ勉猫「ええ、本当に。……私のお友達にふさわしい美貌ですわ」
がり勉猫「ゴホン……。確かに、確かに……き、き、綺麗でしたね」
ネコロボ「黄金比一致率82%。稀に見る美人顔と断定できます。ビビビ」
モチクロ「ええー、見てみたいニャ。そんなに美人なら、元女優さんだったりして……」
コツ勉猫「……かもね。彼女、何か『光るもの』を持っていましたわ」
モチオ「ケッ! どっかのしょーもねー『読モ』か『グラドル』止まりじゃねーのかニャ?」
え?
……はっ!!!!!
その瞬間、モチオの脳内に電流が走った。
モチオはリビングをダッシュし、稼ぎ続けていた「モチオAI」の電源を無理やり引き抜いた。
相談者「えっ、モチオさん? 急に冷た……」
モチオ「うるせー! 本物の登場ニャ!! おい、『めるる男』!! お前、アイドルとかグラドルに詳しいかニャ!?」
相談者「……めるる男? なんだよ突然さー、失礼な……」
モチオ「黙れ! このエセ・アイドル評論家が!! 俺の質問にだけ答えろニャ!!」
相談者「何だと!? 俺は『アイドル女優研究会・会長』だぞ! 会員は俺一人だが、知識だけは誰にも負けん!! 二十年前から……」
モチオ「どうでもいいニャ! 語るなニャ!! 今すぐ事務所に来い! 『いい人』を見せてやるニャ!!」
ガチャッ!!
モチオは受話器を叩きつけ、不敵に笑った。
記憶喪失の美女、そして自称・研究会会長。
モチオの予感は、的中していた。




