第129話 第19章 HOME 11 登場
一か月後。ブンタは、約束通り自首した。
けれど、肝心のクルミの居場所については、死んでも口を割らなかった。
その頑なな沈黙は、警察の焦りを生み、やがて最悪のシナリオ――「殺害」の疑いへと変質していく。
TV:「あいつは悪魔ですわ! DVだけじゃ飽き足らず、あんなに愛していた娘にまで手をかけるなんて……! 私の、私の最高傑作を返して!!」
テレビの中では、モトエが連日、悲劇のヒロインを演じ、世間の同情を一身に集めていた。暴力、虐待、性的搾取……。ありもしない罪が雪だるま式に膨れ上がり、ブンタは「世紀の凶悪犯」として社会的に抹殺された。
それでも、ブンタは一切、口を割らなかった。
どれほど罵られようと、どれほど石を投げられようと。
裁判の結果、言い渡されたのは懲役十二年という、連れ去り事件としては異例の重罰だった。
弁護団は「冤罪だ、控訴すべきだ」と詰め寄ったが、ブンタはそれを頑なに拒否した。
控訴して争えば、クルミの居場所を特定されるリスクが増える。それだけは、何があっても避けたかった。
……こうして、ブンタの十二年に及ぶ刑務所生活が始まった。
前職の清掃員としての実績を買われ、彼は今日も刑務所内の廊下を磨いている。
腰は曲がり、かつての力強さは失われた。
けれど、清掃の手が止まるほど辛くなったとき、彼はそっと、胸の奥にある「心のデジカメ」のフォルダーを開く。
そこには、あの日、遊園地で撮り溜めた、あふれんばかりの笑顔。
牛乳瓶の底のような眼鏡をかけ、ネズミの耳を揺らしながら、
「パパ、楽しいね」と笑う、銀河系で一番大切な宝石の姿があった。
たとえ、モトエが嘘の涙で世界を騙そうとも。
たとえ、自分が一生「誘拐殺人犯」という汚名を着せられようとも。
あの十日間の記憶という「ジェイル(牢獄)」の中で、ブンタは誰よりも自由で、誰よりも幸せな父親だった。
「クルミ、自分の人生を誰にも邪魔されることなく、楽しく幸せに暮らしてくれ」
塀の中の空も 今日は快晴だった。
一方
タツキは離れでクルミと暮らすと言い張り、両親を困らせていた。
そんな朝、一匹の薄汚れた猫が迷い込んできた。
モチオ:「よし、俺は待つニャ! ここか待合所は。え? 先客か……」
男は振り返る。酒の匂いと、世捨て人のような風来坊の気配。
タツキ:「あなたは……?」
クルミ:「誰……?」
モチオ:「ニャ? 俺、モチオニャ。いやー、ブンちゃんから聞いたニャよ! 沖ノ鳥島でレアアース掘ってくるから、ここで待っとけって! 掘ったら半分やる、多分十年かかるかもってな!」
クルミ:「パパのお友達……?」
モチオ:「ああ、ブンちゃんとは飲み友達ニャ。あいつ、俺の分まで働いてくれて超楽だったのに……。ブンちゃんやめたから、サボってるのバレてクビにゃ。早く帰ってこねーかな、十年で帰ったらタワマンだってよ。ウフフ」
タツキの元に、ヨシロウから一通のメールが届く。
『モチオという猫がそちらに向かう。子供だけでは生活できないから、彼にお願いすることにした』
タツキは覚悟を決めた。
タツキ:「あの……僕がタツキで、こっちがクルミ。よろしく」
クルミはタツキの影に隠れて、怯えるようにモチオを見つめている。
モチオ:「ああ、ヨロ。金目のもんねーな……ああああああ! ビールないニャ!!! 買いに行こ」
タツキ:「あの……」
モチオ:「どうした、がり勉猫!」
タツキ:「え?」
モチオ:「お前どう見たって、がり勉だろうが。だから、がり勉猫だ。で、そこのちっせーのが、見た目同じだな、、コツコツ隠れて勉強するタイプだな。だから、コツ勉猫だ。もう決まり。以上ニャ」
……その時、
激しいノックが響いた。
「警察です」
タツキとクルミが息を殺して隠れる中、モチオがのっそりと応対に出る。
モチオ:「見たらわかるわ! お前の名前は警察か? 隣の名前はポリスメンか? どんな漢字ニャ!」
警察:「あの……クルミちゃんという子を探しています。懸賞金が三百万円かけられていまして……」
モチオ:「???……いくらだ」
モチオは、これまでにないほど深刻な顔で聞き返した。
警察:「三百万円です」
モチオ:「あ、…知ってる。」
タツキとクルミは影で震えた。もう終わりだ、売られたんだ。
……けれど。
あれ?
モチオ「カモン ポリスメン!」
外に出かけて行った。
モチオ:「あれ……このあたりにあったような……300万」
警察:「いや、クルミ(植物)を探してるんじゃないから! 少女を……」
モチオ「女の子っぽい クルミだな、 いやーーむずいな 見ても性別わかんねーーー。さすが300万」
警察「いや、、その、、、」帰ろうとしたとき、
モチオ:「それでも日本警察か! 意欲が足りん! 足を使え! 捜査は現場ニャ!!」
モチオは警察を連れ回し、山中の「植物のクルミ」を探させるという狂気の迷走を
繰り広げた。
山中で警察を振り回し、「メスっぽいクルミの木」を真剣に捜索させるモチオの背中を、タツキとクルミは遠くから見つめていた。
「あ!みつけたぞ!! あ、これはおっさん」
「あ! これは、、少年だ」
「あ! これは、、、2年生で飲み会ばっかりで帰ってこない女子大生だ」
タツキ:「……あの父上が、なぜこの人を信頼したのか。なんだか、わかるような気がしてきました」
タツキは、牛乳瓶の底のような眼鏡を指で押し上げた。
クルミ:「パパも……この人と友達?……。うん、わざとじゃないもん。真剣に探している」
論理も法も通用しないあの男 モチオである。




