第116話 第24章 傷のある宝石たち 2 変態集団
コツ勉猫は頭を抱えながら、事務所のあまりに自由すぎる光景を見渡していた。
モチオ「あああ……一度でいいから、フライドチキンのバケツを一人で全部食い尽くしてみたいニャ……」
完全に食欲の海に溺れ、あらぬ方向を見つめるモチオ。
モチタ「ラッキー! レアアイテムゲットだニャ!!」
テレビの前でゲームに没頭。
モチクロ「カエルくんは金魚さんとお友達になりました……と」
ひたすら自作絵本の世界に引きこもる。
がり勉猫「センサーの感度を上げれば小型カメラは見つかりやすくなる……が、他と干渉するか。最適解は……ぶつぶつ……」
ノートに数式と回路図を書き殴り続ける。
ネコロボは、湯呑みに注いだ潤滑油を「ふうふう」と冷ましながら(熱くないのに)啜っていた。
コツ勉猫「……ここのダメンズは、本当に役に立たないわね」
吐き捨てながらも、その口元には安心したような微かな笑みが浮かんでいた。
さて、問題は山積みだ。
コツ勉猫が受け持っている塾生たちから、学校教師によるセクハラ相談が4件も届いている。
・授業中に男性教師から腕を「甘噛み」された。教師はスキンシップだと言い張っているが、本人は拒絶反応。
コツ勉猫「言語道断。消毒液とローズの入浴剤を送っておいたわ。あとは警察に本気で噛みつかれればいいだけの話ですわね」
・放課後のデートの誘いがしつこい件。
コツ勉猫「警察からその教師をお誘い(出頭要請)するように手配したわ。取り調べ室でじっくりデートしてくればいいわ」
・体をベタベタ触ったり、やたら肩車をしてくる件。
コツ勉猫「懲戒免職の嘆願書にベタベタに切手を貼って出したわ。あとは一生、水車の刑にでも処されればいいのよ」
しかし、最後の一件が難問だった。
・体育の跳び箱で女子児童が転倒しそうになり、それを庇おうとした教師の手が胸に当たった。本人は気にしていないが、保護者が大騒ぎしているという。
コツ勉猫「……。モチオさん、やっぱり男の人って、咄嗟に胸を……」
モチオ「何言ってるニャ! 胸? 俺はドラム(脚)派ニャ! それかサイ(腰)! これの二択だニャ!!」
やっぱりフライドチキンの部位の話だった。聞く相手を間違えた。
ネコロボがコツ勉猫に寄り添う。
ネコロボ:「モチタやモチクロに意見を求めても、時間の浪費というものです。先を急ぎましょう。論点は一点……背後から抱えた際、その手が胸部に接触したという『不自然な挙動』、これに尽きます」
コツ勉猫:「今の時代、『家族がいるから』や『普段は真面目だから』といった情状酌量は、もはや通用しない免罪符ですものね……」
その時、猛烈な勢いでノートに数式を書き殴っていたがり勉猫が、視線すら上げずに冷徹な声を放った。
がり勉猫:「……有罪確定です。それ」
コツ勉猫:「えっ?」
がり勉猫:「不慮の事故を装った、周到なトラップ。背後から支える初動までは安全確保と言えるでしょうが、問題はその後の滞空時間……驚愕の13秒です。物理演算上、あり得ない数値だ。通常なら5秒以内に安全な着地が可能です」
コツ勉猫:「お兄様、まさか計算を……?」
がり勉猫:「マリンちゃんに詳細なヒアリングを行い、ネコロボに物理シミュレーションを実行させた。結果、不自然な『滞留』が検知された。真にリスク回避を優先する教育者であれば、接触部位を瞬時に判断し、最短経路で着地させていたはずです」
コツ勉猫:「お兄様、素晴らしいわ! さっそく法廷の天秤に叩きつけてやります。これにて解決!!」
一気に霧が晴れたかのような事務所。しかしその直後、重苦しい足音と共に新たな相談者が扉を叩いた。
モチオが、隠しきれない嫌悪感を顔に出して応対する。
モチオ:「何だ? 幼稚園を追放されかけて辞めただと? このド変態め、どの面下げてここへ来た!」
トシロウ:「……違います。私は、何もしていません」
モチオ:「黙れ! お前はド変態だ。散れ、シッ! シッ!」
コツ勉猫:「あ……。あなた、コトミちゃんの園の先生?」
トシロウ:「……はい。そうです」
コツ勉猫:「コトミちゃん、いつも先生のことが大好きだって言っていたわね」
その言葉を聞き、がり勉猫は静かに鉛筆を置くと、椅子を引いて立ち上がった。
がり勉猫:「……話を聞きましょう。判断を下すのは、その後のことです」
トシロウは震える声で、ことの経緯を語り始めた。
コツ勉猫は、隣のネコロボに耳打ちで密かな指示を出す。
ネコロボ:「了解。解析準備、すべて整っています」




