第111話 第23章 善意と善意 2 黒歴史
うわああああ、これはひどい……。
ミユキは顔を上げられず、ただ下を向いている。
SNSで拡散された動画には、大学の歓迎コンパでの、目を疑うような卑猥な言動の数々が映し出されていた。
モチオ「おい、ネコロボ。一体何ニャ?」
ネコロボ「教えますが、先に約束してください。そして二度と、口にするのも思い出すのもやめてください! 記事削除どころか、これまで積み上げた130話がすべて抹殺されます!」
モチオ「……? なんでお酒と、その『部分』が関係するんだニャ?」
ミユキはさらに深く下を向く。
がり勉猫「これは……下品を通り越して、もはや下衆芸ですね。笑える要素が1ミリも感じられません」
コツ勉猫は、あまりの気味悪さに台所で吐き気に耐えていた。
モチオ「あの、俺が思うに……」
ネコロボ「モチオさん!!!! 先に言っておきますよ!! 130話! 2週間徹夜の努力! わかってますね!!! 一発アウト! 即退場です!! 一文字もダメ、比喩もダメ、あとがきでの言い逃れもダメ!! 全部ダメです!! それを理解した上での発言のみ許します!!!!!!!」
ネコロボの機体温度は、今や卵焼きが焼けるほどに熱くなっていた。
モチオは、その気迫に気圧されて黙り込んだ。
がり勉猫「で、で……ですね……。ミユキさん、これをどうしたいと?」
ミユキは震える声でつぶやいた。「……削除してほしい」
モチオ「でもニャ……」
その瞬間、真冬だというのにネコロボから殺気にも似た熱風が吹き抜けた。
ネコロボ「がり勉猫さん、ロケットランチャーの装備をお願いします。今回は冗談抜きです」
がり勉猫「……仕方がありませんね。許可します」
モチオ「いや、その……表現の自由ってのもあるニャ……」
コツ勉猫が台所から吠え返す。「表現の自由!? アホです!! ただのアホの所業です! 気持ち悪すぎる……う、うえええ……」
ミユキは、ただただ絶望のなかにいた。
がり勉猫「しかし、削除要請をしても、一度拡散された以上はいたちごっこですね……。これでは……」
ネコロボの銃口が、不用意な発言をしようとするモチオに突きつけられている。
モチオ「でもさ……がり勉猫君。あああ、その……なんとかなりませんニャ?」
がり勉猫「こればっかりは……管理者に削除を頼みますが、すべて消し去るのは不可能です……」
ミユキがここで初めて、震える口を開いた。
ミユキ「私、全然知らなくて……でも先輩のノリに合わせて……。そしたらネットで叩かれて、人生全部さらされて! 大学でも汚い女だって言われて、退学しろって電話も殺到して……っ」
泣きじゃくるミユキを前に、モチオは喉元の銃口を気にしながらも吠えた。
モチオ「俺、大体関係ねーじゃんかよ!!! この女がアホみたいに飲み会で、何度も何度も、マ!!」
その瞬間、ネコロボの演算装置が火を吹く。次の不適切単語が発せられる0.2秒前にトリガーを引くロックオンが完了。ディスプレイには「FINAL(最終警告)」の文字が血のように赤く点滅している。
モチオ「……ちがったことを言うのが、おかしいと思います!! ね!!」
「FINAL」の表示が一旦解除された。
ネコロボ「モチオさん、今回は見逃しました。しかしですね、次は一文字目が出た瞬間に打ちます。マジです。130話分の努力、2週間の徹夜修正……忘れないでくださいね」
モチオ「わかった! わかったニャ! はいはい、依頼は断る! 帰れ!!!! この!! ……だらしない、人ーーーーーっ!!」
……語彙力が、死ぬほど弱い。
モチオ「テメーは退学で済むが、俺は今、スナイパーから2メートルの至近距離で狙われてるんだニャ! 2メートルで狙撃される恐怖がわかるか! 確率は100%ニャ! どっちが危険か考えろニャーーー!!」
ミユキ「お願いします!! もう私、外も歩けないんです!!」
ミユキは床に伏して懇願する。
モチオ「テメー――! 外を歩けないくらいなんだ! 俺は今、一歩も動けないんだニャ! ネコロボの目を見ろ! マジだぞ、こいつ!!! 131話から『ネコロボ相談所』にするつもりだニャ!!!」
がり勉猫「しかし……コツ勉猫がショックで台所から戻ってこない。……やるだけはやりますが、いいですか?」
ミユキ「もう、頼るところがないんです。お願いします……っ」
モチオ「ダメーーー!!! 俺を見ろ!! ダメ――――! なんで俺が動けない!! こうなったら自爆ニャ!!!! かかってこい!!!」
最大音量の警戒音が研究所中に鳴り響く。モチオは捨て身の覚悟で絶叫した。
モチオ「 テメーは一生やってろ!!! 何がノリだ! ノリで言う言葉じゃねーニャ!! お前は一生!!!! 叫んでろ!!!」
俺が代わりに叫んでやるわ――!!!
――ピピッ。
【警告:公序良俗に著しく反する表現を検知しました。サーバー保護のため、接続を強制遮断します】
物語ごと、強制終了された。




