第110話 第23章 善意と善意 1 クレーム
「きゃーーーーー! ゴキブリ!!!!!」
依頼者「早く殺してよ! そのために依頼したんだから!!!」
モチオは依頼者のマンションの中で立ちすくむ。
モチオ「何を言ってる。ゴキブリ様はお前より何億年前からの先住民様だ。お前らが勝手に住み着いて、ゴキブリ様も迷惑してるニャ」
依頼者「私達が買ったマンションなの!」
モチオ「誰からだ? 所詮人間だろう。その不動産屋はまさか、哺乳類→爬虫類→ゴキブリ様から家を買ったのか? 違うだろう。嫌ならお前が出ていけ。ネコロボ行くぞ……。くだらねー依頼だ、二度と電話かけてくるな!」
モチオは背を向けて去っていく。
帰りの公園では……。
モチクロが近所のおばさんに怒鳴られていた。
おばさん「あなたネ! 野良猫に餌やりして!」
モチクロ「違うよ! これは友達で……」
おばさん「うるさい! 迷惑でしょうが! 勝手に!」
そこに、モチオが割り込む。
モチオ「おい、ババア。勝手に説教していいって誰が決めた」
おばさん「私は注意を!」
モチオ「日本語通じないか? 勝手に注意していいって権利はあるか? モチクロは勝手に餌をあげた? つまり許可がいるんだろう。で、お前は勝手に注意している。誰の許可を取った?」
おばさん「あ、こいつ! 屁理屈で有名な猫だわ!」
モチオ「お前は不細工ヒステリーで有名だけどな」
おばさん「誰がそんな事言ってたのよ!」
モチオ「俺だ」
おばさん「勝手に決めつけないで!」
モチオ「勝手に決めつけるなって勝手に言うな。許可を取れ!」
さらに家の前では、別のおじさんが怒鳴り散らしていた。
平謝りするコツ勉猫とがり勉猫。
おじさん「うるさい!! 近所迷惑だ!」
コツ勉猫「申し訳ありません……」
どうやら研究に対する否定的な意見も根強いようだ。
モチオが再び割り込む。
モチオ「おい、おっさん。今の声、うるさい!」
おじさん「私は注意してただけだ!」
モチオ「こっちは実験してただけだ!」
おじさん「こっちは迷惑なんだ!」
モチオ「俺は、お前の声に今迷惑している」
おじさん「ネコのくせに人間に逆らうな!」
モチオ「人間のくせにネコに逆らうな!」
おじさん「人間はな! ネコより賢いんだ! お前ら、警察に言うからな!」
モチオ「わかった。だったら警察に行け。こっちに来るな。最初からネコでもそれぐらいわかるぞ。お前は馬鹿か?」
おじさん「テメーら、覚えとけよ!」
モチオ「お前の命令に聞く義務はない。2秒で忘れる。うせろ」
バババババン!!
ママ「モチタさんでしょ!! マサキちゃんに嘘つかせて塾サボらせて、ゲームしようって誘ったのは、この汚いネコ!!」
モチオ「まあ、あいつもきれいじゃない。それは認める。で、何が悪い? 本人がサボりたいと言ったからだニャ。お前も顔中細菌だらけだぞ! 顕微鏡で見ろ!」
ママ「嘘つかせるなんてサイテー!!!!」
モチオ「お前、ぶっ細工だニャ。どう見ても無理。無理ゲーだ」
ママ「何言ってるのよ!!!!!!!」
モチオ「嘘がいけないんだろう? 俺は正直者だ。お前は不細工だしヒステリーだし、子供の気持ちも何にも考えてないな。ドアを叩くなんて異常だニャ」
ママ「あなたにそんなこと言われる筋合いないわ!」
モチオ「また公園ババアと同じ種族か……。そもそも、お前にそんなこと言われる筋合いはないし、ドアを叩く筋合いもない。まず、その『筋合い』を持ってこい。話はそれからだ」
ママ「この害虫が!!!」
モチオ「害虫ってのは、人間にとって不都合なだけだ。地球全体で見れば役に立ってる。お前とは違ってな。お前は地球の何の役にも立たない、有害にも無害にもなれないただの有機物だニャ」
ママ「な、何よ地球って!!」
モチオ「今お前が住んでるところだ。お前はまさか冥王星にでもいるつもりか?」
ママ「何よこの屁理屈ネコ!!!」
モチオ「お前のは理屈にもなってないから『屁』だな。単なる『屁』。くせーーーニャ」
ママ「あなた、このままで済むと思わないでくださいね!!!」
モチオ「いいや、このままで済む。思想弾圧か? 人権ってのはどこに行った。おい、200年前の日本にタイムスリップしたつもりか?」
バタン!! 激しくドアが閉まる音がした。
嵐が去った後、研究所の仲間が集まってくる。
がり勉猫「モチオさん、ありがとう」
コツ勉猫「モチオさん、助かりましたー」
モチタ「サンキュー、モチオ!」
モチクロ「モチオ、助かったよ。マジで」
モチオ「?????」
わけがわからぬまま席につくと、コツ勉猫がオムライスを運んできた。
そしてモチオにだけ、そっと耳打ちする。
コツ勉猫「モチオさんのだけ、ウインナー増やしておいたからね♡」
モチオ「????」
一方、隣の席ではモチクロがオムライスの中のウインナーを必死に探している。
モチタもオムライスをひっくり返して中身を確認していた。
モチオ「おお、モチクロ、モチタ。なぜか俺のにはウインナーがいっぱい入ってるニャ。ちょっと分けてやるニャ」
「「わーーーい!!」」
モチオ「コツ勉猫も失敗するんだな……。中身の量がバラバラだぞ」
がり勉猫、コツ勉猫、ネコロボは、そんなモチオを優しい眼差しで見つめている。
モチオ「??????」
がり勉猫「いえ、何でもありませんよ」
コツ勉猫「ふふふ……」
ネコロボ「私もウインナーください。ビビビ」
モチオ「ネコロボ、お前食えねーだろうが!!」
はははははは。
笑いが部屋を包む。それは、外で誰が何を言おうと、ここだけは決して変わることのない、いつもの光景であった。




