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第107話 第21章 偽装結婚 完 5 真実の命 

「モチオさん! 起きて、急いで!!」


叩き起こされたモチオが病室へ駆け込むと、そこには懸命な処置を続ける医師と看護師、そして泣き叫ぶ両親の姿があった。


モチオは、今にも消えそうなカオルの小さな手を握りしめる。


モチオ「おいカオル!! 明日はピクニックだ! 何してる、早く元気になれニャ!」



カオルの唇が微かに動く。モチオは耳を極限まで近づけた。


モチオ「なんだ? カオル?」


カオル「……ありがとう……たの……しかった……」


モチオ「『かった』じゃねーニャ! これからも、もっともっと楽しいことするんだろ! おい、カオル! カオル!!」


隣でコツ勉猫が、声を上げて泣き崩れる。


モチオ「おい、コツ勉猫! 何か悲しいことでもあったのか! 何泣いてるニャ! 俺は明日、カオルとピクニックに行くんだ、お前らも来るだろ!!楽しい顔しろ!泣いてどうする?」


コツ勉猫は溢れる涙を止められず、ただ何度も、何度も頷いた。


激しく揺さぶろうとするモチオを医師が制し、部屋の外へ出るよう指示する。


残されたのは、両親だけだった。


廊下で待機する一行。


モチオ「がり勉猫、なんとかしてくれ……。頼む、頼むニャ、お願いだ……。なんとか……ネコロボ……たのむよ。。 頼む…頼む…」


がり勉猫は下を向いて拳を強く握りしめる。


ネコロボは無機質な頭を深く垂れている


コツ勉猫は口を塞いで泣き続けている。



病室の中


カオル「パパ、ママ……今までありがとう……。二人は、これからも仲良しでいてね……。パパとママの子供に生まれて……本当に……よかった……ありが……とう……」


両親の慟哭が、冷たい廊下にまで響き渡る。


がり勉猫が、初めて人目も憚らず涙を流した。


「無力というのは……


なんて

なんて

なんて


情けないのでしょう……」




*************************


しめやかな葬儀が執り行われた。


棺はウエディング風に飾られ、亡骸には猫耳とニット帽子が置かれている。中には、婚約の指輪と結婚の首輪、たくさんの写真、ネズミの遊園地のぬいぐるみやお菓子。 人形の家族が、彼女の旅路の供として詰められた。


葬儀の中、火葬場でも、モチオはすべての感情を必死に殺していた。


帰り道、モチオは重い口を開いた。


モチオ「……俺は、間違ってたのかニャ。あの時、ネズミの遊園地へ連れて行かなければ。人形遊びなんてしなけりゃ。……そもそも、出会わなければ。カオルは……もしかしたら……俺のせいかニャ……」


モチオはその場に泣き崩れた、弱気なモチオを初めて目の当たりにする。


がり勉猫「モチオさん……」


モチオ「なあ、どこに神様なんて不条理な奴がいるんだニャ……。純粋な6歳の命を奪って、悪いことしてる奴を長生きさせて。……カオルが何をしたってんだニャ。なあ……神様ってどこにいる。そいつを、ぶっ飛ばしてやりたいニャ……」



コツ勉猫「……モチオさん……」


膝まづくモチオにがり勉猫、コツ勉猫が抱きしめてみんなでわき目も降らず号泣する。



その声は


カオルに届いただろうか。



*******************************


モチオの相談所は、カオルの49日を待ってその重い扉を開いた。


相談者「私、もう生きてる意味なんてないと思って……。何の役にも立たないし、毎日が生き地獄です。私、もういなくなりたい。死んだほうがマシです……」


その言葉が終わるか終わらないかのうちに、モチオは椅子を蹴り飛ばし、相談者の胸倉を掴み上げた。


モチオ「もう一回言ってみろ! もう一回言ってみろニャ!!! テメーみたいな奴がのうのうと生きてて、最期まで生きたいと願ったカオルが死んだ! 役に立たない? 役に立とうが立つまいが、そんなこたぁ、どうでもいいんだよ!!」


「そこにいるだけでいい! 笑ってればいいんだよ! なんなら息してるだけで

いいんだよ!!! 」


相談者の顔を引き寄せ、血管を浮かべて吼える。


モチオ「死んだほうがマシだと? お前、死んだことあるのか! 答えろ!! 死ぬのがどんなことか知ってて言ってるのかニャ!!! 死んだことあるんか!!!!!」


がり勉猫とネコロボが、狂乱するモチオを必死に取り押さえる。


モチオ「生き地獄だぁ? まっとうに生きてから言えニャ! 地獄だろうが何だろうが、それでも生きたいって奴は山ほどいるんだ! お前のその年齢まで必死で生きたいと願っても、生きられない子供もいるんだ! 代われ!! 代われッ!!!!」


「おい! 死神!! 何なら俺と変われ! 今すぐ カオルを返せー!!!」


がり勉猫は、震える相談者に帰るよう促した。


ネコロボ「モチオさん……ダメです。落ち着いてください……」


がり勉猫「ネコロボ、まだしばらくは私もモチオさんも無理です。 しばらく

    相談所は喪に服しましょう。 ネコロボは引き続き小児がん科へのヘルプ

    お願いします。」


ネコロボは、病院へ向かった。


病院では看護師と医者は今日も、心の目を真っ赤に腫れ上がらせながら

笑顔で子供たちと向き合っている。


子ども「ネコロボ! お薬飲んだよ!!」


ネコロボ「すごいです! ニコ」 LEDが笑顔を写す。



*********************


事務所には重く苦しい沈黙だけが降り積もる。


がり勉猫「モチオさん、あちらでお茶でも飲みましょう」


がり勉猫に肩を抱かれモチオはリビングに去っていく。


モチオのデスクには、猫耳をつけたカオルの写真が飾られていた。


引き出しの中には、後に両親が見つけて届けてくれた、カオルからの手紙。


力のない、震える文字。


「モチオ ありがとう

 つぎは ちゃんと およめさん もらってね」


************************


死にたい今日を生きる人。

生きたい今日に死ぬ人。


誰かがどうでもいいと思う「今日」は、

誰かが必死で守ろうとした「今日」


第21章 偽装結婚 完



************************

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