表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
102/130

第102話 第20章 59秒目の旋律 完 5 後悔の砂時計

演奏者「……同じように、E♭(イー・フラット)でいいですか?」


ケイスケ「すみません、僕から入ります。後を合わせてもらえますか?」


ケイスケは静かに目を閉じ、天を仰ぐ。


その10秒の沈黙には、彼が歩んできた48年間のすべてが込められていた。


彼は初めてその才能を発揮した。 


それは、たとえ誰から笑われてもやる覚悟。


やがて指先が鍵盤に触れた瞬間、ケイスケのピアノが施設中に響き渡り、ジャズコンサートは再開された。


誰もが目を丸くしている。



看護師たちも互いに顔を見合わせ、音に紛れながら「すごい……」と呟いていた。


モチオ「がり勉猫、コツ勉猫。時間ニャ、帰るぞ」


がり勉猫「いや、これは本当に素晴らしい! もう少し聴いていたいですよ!」


コツ勉猫「私もですわ!!」


モチオ「俺たちがいたら邪魔ニャ。ネコロボを迎えに行って帰るぞ!」


後ろ髪を引かれる二匹を促し、モチオは背を向ける。


その去り際、演奏を続けるケイスケが片手でモチオに合図を送った。


モチオもまた、指に挟んだ1000円札を掲げてそれに応え、西館を後にした。


小児病棟。


「あああああ! モチオが来た! 帰れ! 帰れよ!!」


子供たちのブーイングが飛ぶ。


モチオ「うるせえ! お迎えニャ! ネコロボ!!」


モチオの登場は、ネコロボとのお別れの合図。子供たちの瞳に涙が浮かぶ。


女の子「また来てくれる、ネコロボ?」


ネコロボ「はい! でも、その時までにお薬を飲んでくれないと、私は来られませんので。頑張って飲んでくださいね」


「「「うん!!!!」」」



帰路につき、夕食のテーブル。



モチオ「……なんか俺がさ、いつも悪役みたいで凄く嫌な気分ニャ、あの瞬間」


がり勉猫「すみません、それは申し訳ないと思っています」


ネコロボ「同じくです」


愚痴をこぼすモチオの前には、今日だけ特別に大きなステーキが置かれていた。誰も文句は言わない。


コツ勉猫「モチオさん、いつもありがとう」


モチオ「おう……おう……」


照れ隠しに肉を頬張るモチオ。


モチタもモチクロも、今日ばかりは微笑ましく見守っていた。



一ヶ月後。


看護師1「最近、西館から毎日ピアノが流れてきて、まるでホテルみたいね」


看護師2「ケイスケさんに、あんな特技があったなんて意外だわ」


観客がわずか二、三人の、連日の小さなコンサート。ケイスケは笑顔でピアノを弾き続けていた。


看護師3「ケイスケさん、自主出版でCDを出すんですって」


看護師4「ピアニストになるのが夢だったんだって。素敵よね」


余命宣告の期限を3か月過ぎてもなお、ケイスケはピアノを弾き続けている。


後悔というカウントダウンの時計を、


今日も止めるために。



********************


人は、成し遂げたことよりも


出来なかった後悔を抱えて旅立つという


私もまた、その後悔を抱えずに旅立つために、


今こうして文章を書いているのかもしれない


 第20章 59秒目の旋律 完


********************

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ