第10話 第2章 永遠の愛~AIロボと結婚? 5 愛の悲惨
事務所のドアが、乱暴に蹴破られた。
ガチャンッ!
ネコロボが、逃げようとするハヤトの襟首を掴んで引きずり込んでくる。
モチオ「……来たか」
ハヤト「なんなんだよ! もう俺には関係ねーだろ!!」
モチオ「ネコロボ、クズの確保ご苦労。……そこに座らせろニャ」
リビングには、ヘドロのような重苦しい空気が満ちていた。
モチオは顎で合図する。
モチオ「がり勉猫。……わかってるニャ!」
がり勉猫は無言で頷き、テーブルの上に「600万円」の束を叩きつけた。
モチオ「こんなクソ汚い金、一円も要らねーニャ!! とっとと持って失せろニャ!! 何が愛だ! ふざけるな!」
ハヤト「……! ラッキー! よかった、これで明美と海外旅行に行けるよ!!」
その言葉が、モチオの最後のリミッターを焼き切った。
モチオ「どこまでもクズな男だニャ……! お前の言った『永遠の愛』は、そんなに安いもんだったのかニャ!!」
ハヤト「永遠の愛? はあ? 相手はAI、ただの『物』だろ! 何を熱くなってんの、猫の分際で! 言ってたじゃん君たちが AIと結婚できないって AIと結婚? キモイって! そう説得したのは誰? だからこっちは明美と出会って、途中でモモをスクラップにしてって頼みを変えたんだろうが! 」
ハヤトはがり勉猫を見たが、がり勉猫は視線を合わさずうつむいた。
モチオ「おーーーまーーーえーーー!!!!最後は責任転嫁か、、、どこまでもクズだな!!」
モチオが爪を立て、ハヤトの顔面に飛びかかろうとした、その時。
モモ「モチオさん。……お願いです。ハヤトさんを、責めないでください」
背後から響いたのは、切なく、透き通った電子音だった。
再び、静寂が訪れる。
モモ「私、ハヤトさんと過ごした5年間、本当に楽しかった。色んな場所に連れて行ってくれた。優しくしてくれた。……本当に、幸せでした」
モモのレンズが、ハヤトを優しく見つめる。
モモ「だから……私、ハヤトさんに幸せになってほしいんです。だから、もういいんです」
モチタ「……せつなすぎるよ。泣けるよぉ……」
モチクロ「同感ニャ……ぐすん……」
コツ勉猫は、ただ唇を噛み締め、何も言えなかった。
モモ「私はAI結婚なんてできません、ハヤトさんを幸せになんてできません、だからハヤトさんも人間の女性と普通に結婚して 幸せにしてあげたいんです。 私の役目は終わりです。 どうぞスクラップにしてください。」
モチオ「にゃーーー!! ああああ! この健気さが余計に腹立つニャ!!」
モチオは地団駄を踏み、事務所の床をバリバリと引っ掻いた。
ネコロボ「……AIロボですから、真の意味での感情はありません。そうハヤト様にプログラミングされているのでしょう。どこまでも、自分勝手な仕様です。ビビビ」
がり勉猫「……私もAI研究者の端くれですが。命令通り『スクラップ』にするのは、どうしても躊躇われました。情を移してはいけないと分かっていても……っ」
モチオ「ハヤト!! お前、モモに最後に言うことはねーのかニャ!!」
ハヤトは、しばらく冷たい沈黙を保った後、絞り出すように言った。
ハヤト「……モモ。今まで、ありがとう」
モモ「お礼を言われるまでもありません。……私はあなたといて、幸せでした」
ハヤトは、最後に一度だけモモを軽くハグした。
モモ「……機械ですので。固くて、すみません」
ハヤトは「これで満足だろ」という顔をして、600万の束を抱えて去っていった。
……その背中が見えなくなった瞬間。
モチオ「あの野郎ーー!! ちゃっかり600万持って帰りやがったニャ!! ああああ! 後悔! 激しく後悔ニャ!!」
モチオは自分の頭を抱えてのたうち回った。
モチオ「あの時、なんで『持っていけ!』なんて格好つけたんだニャ!! モチオの馬鹿! 宇宙一の馬鹿ニャ!! ネコロボーーー! タイムマシンで10分前に戻してくれニャ!!」
ネコロボ「タイムマシンは現在の物理学では不可能です。ビビビ」
モチオ「じゃあ……一万円札、1000枚くらいコピーしてニャ!!」
ネコロボ「それは通貨偽造罪です。ダメです」
モチオ「ああああああああああああああああ!!!」
絶叫するモチオを、一同は呆れ顔で笑い飛ばした。
……だが、そんな喧騒の中。
コツ勉猫「………………」
彼女だけは笑わず、ただ静かに、去っていったハヤトの足跡を凝視していた。




