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【第五話】聖女の戦い方

〈某異世界・某所〉


――純弥が召喚されてから四日目。


旅は、難なく進行していた。


少なくとも。


純弥は、そう思っていた。


「でも、なんでこんな田舎道通るんだよ」


「近道だから」


「舗装された道は?」


「あるよ?」


「そっち行けよ!」


「三日余計にかかる」


「……」


純弥は黙った。


期限は八日。


残り四日。


選択肢はなかった。


「大丈夫だよ」


唯依奈が笑う。


「私がいるから」


「それが一番不安なんだよ」


「なんで!?」


「お前、昔から大丈夫って言う時ほど大丈夫じゃなかっただろ」


「失礼な」


「修学旅行で迷子になったの誰だよ」


「あれは京都の道が悪い」


「碁盤の目だぞ」


「まるたけえびす……ってずっと歌ってたよな」


「純弥って昔から歌上手かったよね」


「文化祭でギター弾いてたし」


「話を逸らすな!」


そんな会話をしながら、二人は進んでいた。


その時。


「――!」


鋭い声に唯依奈の動きが止まる。


「純弥」


「ん?」


「走って」


「は?」


「走る!」


唯依奈が純弥の手を掴んだ。


直後。


背後で爆発が起きた。


「うおっ!?」


「見つかった!」


「誰に!?」


「魔王の一味!」


「なんで!?」


「私、顔割れてるから!」


「聖女だから!?」


「たぶん!」


「人気者じゃなかったのかよ!」


「魔族には人気ない!」


「何回も借りてる相手なんだろ!?」


「私って交渉上手だからね!」


「それ絶対“借りる”って思われてないだろ!」


「色々とちょうどいいものを持ってるんだよね」


「ちゃんと返してるから大丈夫♪」


「……後ろの連中は」


「……全部返してるね」


唯依奈は笑いながら純弥の腕を引く。


「追われてるの完全にお前のせいだろうが!!」


背後から十数人の魔族が追ってくる。


「ここは町中だから、逃げるよ!」


「――こっち!」


入り組んだ路地や、人で溢れる市場を迷いなく駆け抜ける唯依奈。


果物が積まれた籠を飛び越える。


「待て待て待て!」


純弥も必死に追う。


「アラフォー!」


「今言うな!」


「頑張って!」


「誰のせいだ!」


さらに曲がったその先で、足が止まる。


「…………」


道いっぱいに女性が並んでいた。


民族衣装のような服。


手には杯。


大きな壺。


酒の匂いが広がっている。


さらに。


楽器を持った人々までいる。


「……おい」


「なに?」


「これ……」


背後を見ると、魔族が迫っている。


前を見ると、道を塞ぐ笑顔の人々。


純弥の顔が引きつった。


「まさか……」


「知ってる?」


「映画で見たことある」


唯依奈が笑った。


「じゃあ話が早いね!」


「待て」


嫌な予感しかしない。


住民の一人が歌い始めた。


周囲も続く。


唯依奈も現地語で何かを歌い返す。


杯を受け取る。


一口。


そして返した。


歓声が響き、道が半分開く。


「ほら!」


「ほら、じゃねえよ!」


純弥の前に杯が差し出された。


「俺も!?」


「当たり前でしょ!」


「歌えないぞ!」


「日本語でいいよ!」


「通じないだろ!」


「気持ち!」


「そんなルールなの!?」


背後から魔族が近づいてくる。


「早く!」


「何歌えばいいんだよ!」


「まるたけえびすとか?」


「歌うか!」


「なら、なんでもいいよ!」


「伴奏は!?」


「ない!」


「アカペラ!?」


唯依奈が頷く。


純弥が周囲を見回すと、全員がこちらを待っていた。


「…………」


「純弥」


「分かったよ!」


やけくそだった。


大きく息を吸う。


「あの子に二十年ぶりに会ったなら~!」


「――ちょっと待って」


「初恋の女は聖女だった~!」


「純弥!」


「結婚しようと言われたけれど~!」


「待ってって!」


「俺には妻と子供がいる~!」


「最後いらなくない!?」


周囲の人々から歓声が上がる。


「ウケてるぞ!」


「内容分かってないからだよ!」


杯を受け取る。


純弥が一気に飲む。


「うわ、強っ!」


歓声が響き、道が完全に開いた。


「よし!」


「行くよ!」


走り出す。


――が。


「――!」


背後から怒号が響き、追っ手が到着した。


住民たちが悲鳴を上げる。


「……仕方ないなぁ」


「戦うの?」


「少しだけ」


「戦えるなら最初から――」


「町中だからダメ」


唯依奈が近くにあった椅子を蹴り上げる。


「え?」


椅子が回転し先頭の魔族の足元へ。


椅子に躓く魔族の背中を踏み台にして、跳び上がる唯依奈。


「は?」


蹴りながら、空中で身体を捻る。


着地後、すぐに別の魔族が剣を振る。


唯依奈が上着を脱ぐ。


「……え?」


袖を剣に絡ませる。


上着を引き、敵の体勢が崩れる。


その勢いのまま懐へ潜り込み、肘を叩き込む。


身体を折った魔族の腹へ、続けざまに拳を二発。


最後に顎を掌底で跳ね上げる。


そのまま、流れるような手つきで上着を羽織る。


「…………」


「行くよ!」


「待て」


「なに!?」


「今の動き」


「早く!」


「お前、まさか――」


「置いてくよ!」


「あ、おい!」


再び走る。


純弥は振り返った。


倒れている魔族。


そして。


前を走る唯依奈。


さっきの動きに見覚えがあった。


ありすぎる。


「……いや」


そんなわけがない。


純弥の脳裏には、一人のアクションスターの笑顔が浮かんでいた――


【第六話へ続く】


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