↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
20/28

【第十九話】魔王と父親

〈某異世界・礼拝堂〉


――結愛を治す方法は決まった。


魔王の角に宿る宝玉。


それさえ手に入れば、結愛を救うことができる。


あとは――魔王を説得するだけ。


「……なあ」


純弥がふと、声を上げる。


「なに?」


「……俺」


「前回、どうやって帰った?」


「……え?」


「だから」


「こっちから現世に」


「……」


唯依奈が、数秒固まる。


「……宝玉」


「だよな」


「うん」


「魔王の角から取った」


「うん」


「……」


「……」


顔を見合わせる二人を見て、首を傾げる結愛。


「どうしたの?」


「……結愛」


「なに?」


「お前の治療に宝玉使うよな?」


「そう言ってたね」


「……」


「それを結愛の身体に入れるんだよな?」


「……うん」


「持って帰るんだよな?」


「……うん」


「じゃあ」


結愛が先に声に出してしまう。


「――帰りの分は?」


「「……」」


沈黙する純弥たち。


結愛が純弥と唯依奈を交互に見ていた。


「……ないの?」


「……今気づいた」


「唯依奈さんは?」


「……私も」


「……」


結愛が、小さく息を吐く。


「……大人って、意外と馬鹿なんだね」


「返す言葉もない……」


「面目ないです……」


『――何をしているのですか』


呆れた声が礼拝堂に響く。


「……女神様」


純弥が顔を上げる。


「帰るのにも宝玉いるよな?」


『必要ですよ』


「……ですよね」


『前回も使用したでしょう』


「数か月前なのになんで忘れてんだよ……」


「――安心して」


純弥に向けてサムズアップする唯依奈。


「純弥だけじゃないから!」


「……お前は反省しろ!」


唯依奈が、わざとらしく両手を上げる。


「結愛ちゃんを治すことで頭いっぱいだったんだもん」


「……まあ」


純弥が結愛を見る。


「それは俺も同じだけどな」


「……だが」


「そのポーズは舐めてるだろ!」


結愛が少しだけ笑っていた。


「結愛の宝玉は……」


「やっぱり持ち帰らないと駄目なんだよな?」


『――はい』


『現世には、結愛さんが必要とするだけの魔素がありません』


『こちらで治療を終えたとしても』


『現世へ戻れば、いずれ同じ状態に陥る可能性があります』


純弥の表情から笑みが消える。


『ですから』


『強力な魔素を宿す宝玉を核として』


『結愛さんの身体へ定着させます』


『宝玉そのものが、現世で彼女の身体を支えることになります』


「……つまり」


「返せない」


『はい』


「じゃあ」


純弥が頭を掻く。


「二つ必要なんだな」


『そうなります』


「……」


唯依奈が小さく手を挙げた。


「魔王の角はもう一本あるよ?」


「……」


純弥が見る。


「お前……その言い方やめろ」


「え?」


「一本折った奴が、『まだ一本ある』って言うな」


「でもあるよ?」


「反省しろ!」


結愛が首を傾げる。


「折ったの?」


「……」


「唯依奈さんが?」


「……」


唯依奈が笑った。


「ちょっとだけ」


「角一本はちょっとじゃねえだろ!」


「必要だったんだもん!」


「お父さんもいたの?」


「いた」


「止めなかったの?」


「……」


純弥が目を逸らした。


「止めるどころか……シャンデリア落としてたね」


「……」


結愛がじっと純弥を見る。


「……お父さん」


「なんだ」


「何してるの?」


「あれは事故だったんだ……」


話をそらすために、女神に向けて手を上げる純弥。


「……前回」


「魔王の一人って言ってたよな?」


「他の魔王も宝玉を持っていないのか?」


『持っていますよ』


『一定以上の実力を持っている魔族は持っていますから』


「――なら!」


「――いい案ではないかな……」


前のめりになる純弥を唯依奈が遮る。


「……なんでだよ」


「一定以上の実力者ってたくさんはいないからね」


「時間をかけていいなら、回収できるけど……」


『八日しか待てませんね』


『抜け道もありませんよ』


手がないことを理解し、沈黙する純弥。


『――ともかく』


『まずは、治療に必要な宝玉を確保してください』


『前回と違って、魔王城の近くで召喚したのです』


『――やれることからやりましょう』


純弥が顔を上げる。


「……ああ」


「魔王のところ行くしかねえな」


「うん」


唯依奈も頷いた。


「……」


純弥は歩きだす。


だが。


すぐに足を止めて、振り返る。


「……女神様」


『なんですか』


「もう一個だけお願いがあるんだが」


『――聞きましょう』


真剣な顔の純弥に、姿勢を正す女神。


「言葉」


『……はい?』


「言葉が通じるようにしてくれ」


「……あぁ」


唯依奈が声を漏らす。


「――俺は!」


「――二度と!」


「『平和に話し合いましょう』って言ったつもりで」


「魔王の母親をゴブリン呼ばわりしたくねえ!!」


「発音は完璧だったよ?」


「お前は黙ってろ!!」


結愛が目を丸くする。


「お父さん、魔王のお母さんに悪口言ったの?」


「騙されたんだよ!」


「言ったのは純弥だよ?」


「意味を偽装したのお前だろ!」


『……分かりました』


女神がため息交じりに答える。


『今回の滞在中』


『あなたと結愛さんに、言語認識の補助を施します』


「最初からやってくれよ!」


『――本来は契約後の特典ですから』


『体験版には含まれておりません』


『それに』


『まさか魔王と交渉するとは思いませんでしたので』


「俺だって思ってなかったよ!」


『それに……』


『あれはあれで面白かったので』


「……!?」


「確信犯だろ!!」


純弥とは違いお腹を抱えて笑っている唯依奈。


「見てたんだ!」


「傑作だったでしょ!」


唯依奈と女神を見つめている結愛。


「……やっぱり似た者同士じゃん」


『……そんなことありません』


『では』


『お気をつけて』


「絶対楽しんでるだろ……」


〈某異世界・魔王城〉


巨大な扉がゆっくりと開いていく。


「……」


純弥は大広間を見上げる。


「嫌な思い出しかねえ……」


「楽しかったじゃん」


「お前だけだよ!」


「お父さん」


結愛が辺りを見回す。


「本当に魔王城なんだね」


「……らしいぞ」


「なんで他人事なの?」


「俺だって二回目だ」


「結構来てるじゃん」


「……人生で二回も魔王城に来る奴なんて」


「そうそういねえよなぁ」


その時。


大広間の奥の玉座。


そこに座る男と純弥の目が合った。


「……」


「……」


左右で大きさの違う、アンバランスな角だった。


魔王の目が、ゆっくりと見開かれていく。


「――貴様ら!!」


「……!」


空気を振るわすような大声に、純弥も目を見開いた。


「……分かる」


「え?」


唯依奈が見る。


「……言ってること分かる!」


「……そこ?」


「前回は全部お前経由だったんだぞ!」


「貴様ら!」


魔王が、玉座から立ち上がった。


「なぜ!」


「また我が城へ来た!!」


「……」


純弥が少しだけ考える。


唯依奈が前に立つ。


「――任せておいて♪」


「……」


ジト目で唯依奈を見つめる純弥と結愛。


そんな二人に気づかずに、魔王と向き合う唯依奈。


そして。


満面の笑顔を作り、片手を上げる唯依奈。


「久しぶり――逢忠(ほうちゅう)!」


「帰れ!!」


「挨拶くらいさせてよ!」


「数か月しか経っておらぬわ!」


「……逢忠って名前だったんだ」


逢忠が、後ろに控えていた純弥を指差す。


「他人事のような顔をするんじゃない!」


「俺!?」


「我が母上をゴブリンと愚弄し!」


「挙句!」


「我の後頭部へシャンデリアを叩きつけた男!」


「後半は事故だ!」


「前半は?」


結愛が笑みを浮かべながら純弥に尋ねる。


「……事故だ」


「嘘だぁ?」


「騙されたんだよ!」


唯依奈が笑い声を堪えている。


「お前が元凶だろ!」


逢忠の視線が唯依奈へ移る。


そして。


左右で大きさの違う角のうち、小さい方へ手を伸ばした。


「我の角を見ろ!」


「見てるよ?」


「まだ戻っておらぬ!」


「……ごめんね?」


「軽い!!」


大広間に怒声が響いた。


その横で、結愛が小さく呟く。


「……お父さん」


「なんだ?」


「魔王って……」


「普通に面白いね」


「……聞こえるからやめろ」


「聞こえているぞ!」


「ほらぁ……」


「……ごめんなさい」


逢忠が大きく息を吐く。


「それで」


「今度は何だ!?」


「家族旅行ならもっと違うところを選べ!」


落ち着きを失い、肩で息をしている逢忠。


それに反して、目を輝かせている唯依奈。


「家族に見える!?」


「……違うのか?」


「お転婆聖女にそっくりで、無遠慮だぞ」


「……」


目を開いて喜ぶ唯依奈。


拳を作って、怒りに震える結愛。


「……結愛、落ち着け」


「種族が違うと、見た目の違いも分かりづらいものなんだよ」


「……お父さんが」


「流行りのアイドルグループを色でしか見てないのと同じ?」


「……」


「去年のカウントダウンTVで、“また歌ってる”って言ってたよね?」


「――違う人たちだったのに」


「……その無遠慮は誰から引き継いだんだよ」


頭を抱える純弥。


「……やっぱり、そっくりじゃないか」


逢忠がジト目で見つめていた。


――純弥の表情が変わる。


「頼みがある」


「断る」


「まだ言ってねえよ」


「貴様らの頼みなど聞かぬ」


「……」


純弥は、一度結愛を見る。


そして。


「娘の命がかかっているんだ」


「……娘?」


逢忠の動きが止まる。


「――ああ」


純弥が結愛の肩へ、そっと手を置く。


「俺の娘だ」


逢忠が初めて、真っ直ぐ結愛を見た。


「……衛守結愛です」


結愛が、少し緊張しながら頭を下げた。


「……」


逢忠は何も言わなかった。


ただ。


結愛を見ていた。


「あと……」


「お母さんはこの人じゃありません」


Vサインを作っている唯依奈と、真っ直ぐに逢忠を見ている結愛。


「……そのようだな」


「真面目な子供のようだ」


「“これ”とは雲泥の差だ」


純弥が逢忠に向き合う。


「――話だけでも聞いてくれないか」


「……」


先ほどまでとは違う。


短い沈黙が広がる。


やがて。


逢忠が玉座へ腰を下ろした。


「話せ」


「……ありがとう」


純弥は話し始めた。


自分たちの世界で起きたこと。


結愛の身体中に異常が起きていること。


原因も治療法も自分たちの世界の医療では、見つけられなかったこと。


そして。


この世界でなら治療ができること。


そのために“宝玉”が必要なこと。


「……この娘が聖女候補だと?」


「ああ……そうらしい」


「そのせいで、向こうでは死にかけている」


「――こっちなら治せるんだ」


「でも」


純弥が、逢忠の大きい方の角を見る。


「強い魔素を持った宝玉が必要なんだ」


「……」


逢忠は、純弥が何を言いたいのか理解していた。


純弥が頭を下げる。


「――宝玉を譲ってほしい」


唯依奈も隣で頭を下げる。


「今回は、貸してほしいじゃないの」


「返せない」


「結愛ちゃんの身体に入れるの」


「向こうに戻ってもずっと必要になるから」


「……」


結愛も小さく頭を下げた。


「お願いします」


「……」


逢忠は、長く何も言わなかった。


自分の角へ手を伸ばす。


「……我も」


「……娘を持つ」


純弥が顔を上げる。


逢忠は結愛を見つめていた。


「……娘が」


「父親より先に死ぬなど――許せるものではない」


「……」


純弥の目が僅かに揺れる。


逢忠が鼻から息を吐いた。


「頭を上げろ」


「え?」


「父親が、娘のために頭を下げ続ける姿など」


「見ていて気分のいいものではない」


「……」


純弥はゆっくり頭を上げる。


「いいのか?」


「勘違いするな」


逢忠が自分の角を掴む。


「貴様らを許したわけではない」


「……はい」


「特にそこの聖女」


「――貴様は許さぬ」


「なんで私だけ!?」


「我の角を砕いたのは貴様だ!」


「シャンデリアは純弥だよ!」


「売るな!」


逢忠が結愛を見る。


「一度ぐらいの無礼も許せるものだ」


「父親同士だしな」


逢忠が純弥を見つめる。


「――種族も立場も異なる」


「だが」


「子を想う親同士として、角の一つぐらい譲歩できる」


「――持っていけ」


「……!」


純弥が息を呑む。


あれほど、角を失ったことを気にしていた男。


「……本当にいいのか?」


「二度言わせるな」


「でも」


「俺たちは――」


「貴様」


逢忠が純弥を見る。


「娘を救えるものを持ちながらそれを差し出さず」


「娘を失った父親の前で、我は平然としていられると思うか?」


「……」


純弥は言葉を失った。


逢忠が、僅かに口元を歪める。


「我は魔王だ」


「だが」


「父親でもある」


「自分の娘に顔向けができないことはやらぬ」


「……」


純弥が深く息を吐いた。


「ありがとう」


「……」


「この恩は忘れない」


純弥は、もう一度深く頭を下げた。


「――ならば」


逢忠が結愛を見る。


「必ず治せ」


「ああ」


純弥も結愛を見る。


「絶対に治す」


結愛が小さく頭を下げた。


「……ありがとうございます」


「必ずお返しします」


「――必要ない」


「え?」


逢忠は自分の角へ触れる。


「返せぬものだと分かって譲るのだ」


「……」


「ならば」


結愛を見つめる。


「生きろ」


「……!」


「それでよい」


結愛の目が僅かに揺れた。


「……はい」


小さな返事だった。


けれど。


その声を聞いて、逢忠は満足そうに頷いた。


「貴様もだ」


「……俺?」


「父親なのだろう」


「……」


「ならば――娘より先に諦めるな」


純弥が一瞬だけ目を見開く。


そして。


「――ああ」


笑った。


「言われなくてもそのつもりだよ」


「……ならばよい」


逢忠はそれ以上、何も言わなかった。


魔王と人間。


生きる世界も種族も違う。


それでも。


娘を想う父親であることだけは。


二人とも、何も違わなかった――


【第二十話へ続く】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。