第82章 オリビアは自転車を貸します。 みんな自転車乗れる。きなこさん登場。
第82章 オリビアは自転車を貸します
北の国境ゲートの花壇ができあがったあと、チャトラがオリビアの方を見ました。
「タロン、乗ってみていい?」
「いいよ」
オリビアはGIANT TALONを出しました。
ところが、今のオリビアの身体に合わせて使っているTALONは、チャトラたちには大きすぎます。
サドルへまたがろうとして、チャトラがすぐに降りました。
「大きい」
「やっぱり無理か」
オリビアはTALONを見てから、少し考えました。
「小さいのもあるよ」
次に出したのは20インチのLOUIS GARNEAUです。
日本で、まだ身体が小さかったころに乗っていた自転車でした。
続けて、青い16インチのDAHONの折りたたみ自転車と、24インチのLOUIS GARNEAUも出します。
オリビアにとって自転車は、成長に合わせて身体に合う大きさへ乗り換えてきた日用品でした。その結果、20インチと24インチがLOUIS GARNEAUでした。
「3台ある」
「まだあるよ」
オリビアはさらに、16インチの子ども用自転車を出しました。
車体にはテレビアニメの変身する女の子のキャラクターが描かれています。
左右には補助輪が付いていました。
「これ、横にも車輪ある」
「倒れにくいやつ」
もう一つ出します。
今度は三輪車です。
白と黒の、ウサギのようにも見えるフランスのキャラクター、リサとガスパールが描かれています。
フランスではガスパールとリサ、日本ではリサとガスパール。
なぜか2人の名前の順番が逆です。
何かを始めては、よく失敗する2人でした。
「これも乗るの?」
「これはもっと小さい子用」
タマが三輪車の横へしゃがみ込み、ペダルを見ました。
「前の車輪を直接回すんだ」
「そうだよ」
補助輪付きの16インチと三輪車も少し試してから、3人は16インチのDAHON、20インチと24インチのLOUIS GARNEAUへ移りました。
◇ ◇ ◇
幅45mの舗装路は、自転車の練習には十分すぎるほど広さがあります。最初こそ3人とも少しふらついたので、オリビアは補助輪付きから順番に慣れてもらうつもりでしたが、3人は身体の使い方が予想以上に上手でした。ハンドルでバランスを取りながらペダルを踏み、数回走るうちにふらつきもほとんどなくなります。
「もう普通に乗ってる」
3人はそのまま広い舗装路を走り回ります。
オリビアは変速機を指しました。
「あと、これ変速できるからね。走りながらここを動かすと、ペダルが軽くなったり重くなったりするよ」
「軽い方が速い?」
「反対。軽い方は走り出すときとか坂道。重くすると、同じくらいペダルを回してももっと進む」
チャトラが走りながら1段変えます。
「あ、分かった」
「変えるときはペダルを回しててね。強く踏み込んでるときは、ちょっと力を抜いて変えるといいよ」
取り付け道路は、どこまでもほとんど平らです。
3人はすぐに中間から重い側のギヤを使うようになりました。
「軽いの、いらないね」
「ここならね。坂に行ったら使うよ」
そのまま速度を上げていく3人を見て、オリビアはもう一つ説明しました。
「あ、ブレーキの前後まだ説明してない」
3人が止まって戻ってきます。
「前と後ろ、別なの?」
「右が前輪、左が後輪。普通に止まるときは両方使ってね。前だけ強くかけると、前の方がよく止まるから危ないよ」
「分かった」
3人の上達が、オリビアの予定していた説明順序より速かったのです。
補助輪でペダルとブレーキに慣れて、それから普通の自転車へ移るくらいに考えていたのに、もう変速機を使って走っています。
◇ ◇ ◇
「競争してきていい?」
チャトラが聞きました。
タマとミミも、もう並んでいます。
「取り付け道路、端まで行って戻ったら12kmくらいあるよ。走ってきたら?」
「行こう」
3人が一斉に走り出しました。
幅45mの舗装路が、国境ゲートからまっすぐ延びています。
ただし、その道路は約6km先で終わります。
初めて乗った自転車で、終点の近くまで速度を出したまま行ってから急に向きを変えるのは怖いです。
3人は片道5kmほど進んだところで競争をやめました。
そこから早めに速度を落とします。
十分に減速してから広い道路を大きく回り、今度は国境ゲートへ向けてまた速度を上げました。
10分ほどすると、3人とも戻ってきました。
「走るより大分楽だね」
「でも、あんまり時間は変わらないかも」
「3分くらい速いかな」
オリビアは3人と自転車を見ました。
能力精査では、3人とも100mを8秒台くらいで走っています。
もともと、自分の脚だけでも速い3人です。
それでも、自転車なら身体を上下させながら走り続けるより楽に距離を移動できます。
チャトラが自転車を見ながら言いました。
「これなら、お昼持っていけるね」
以前、ダンジョンへ行ったとき、3人は昼ご飯を持つと走る邪魔になるからと、何も持たずに入っていました。
自転車なら、荷物を車体側へ載せて運べます。
「仕事の道具も運べそう」
「うん。走るのと違って、自分で全部持ったまま走らなくていいね」
◇ ◇ ◇
オリビアは16インチのDAHONと、20インチ、24インチのLOUIS GARNEAUを見ました。
今のオリビアには、どれも小さすぎます。
「これ、しばらく使う?」
「いいの?」
「私、もうこの大きさ乗れないから」
3人は顔を見合わせました。
「借りたい」
「私も」
「ミミも」
「じゃあ、3台貸すね」
貸したまま使うなら、置いておく場所も必要です。
チャトラたちが暮らしているところには、小さな1部屋の戸建てが10棟並んでいます。
建物は密集しておらず、それぞれの家の周りには空間があります。
「置き忘れたら、3人の家の玄関先へ戻るようにしとくね」
「勝手に戻るの?」
「忘れたときだけね」
オリビアは3台へ帰還先を設定しました。
次は盗難防止です。
「あと、盗もうとして触ったり動かしたりした人は、その人の重力の有効値が0%になるようにしとく」
タマが自転車を見ます。
「自転車が重くなるんじゃないんだ」
「人の方が0%になる」
「どうなるの?」
「自転車をつかんでれば、地面にある自転車につかまっていられるよ。うっかり離したら、空気の浮力があるから、だんだん上に浮いていく」
ミミが上を見ました。
「戻ってこられる?」
「空気中を泳げば、少しずつ動けるよ」
「重い石を持ったら?」
「ポケットに石を入れたら、その石も一緒に重力0%になるから無駄」
「服も?」
「身につけてるものも、持ってるものも一緒」
盗難目的で触れたり動かした瞬間だけが発動条件です。
倒れた自転車を起こしたり、通行の邪魔にならない場所へ寄せたりする善意の接触は通常どおりです。もちろん、貸した3人もそのまま使えます。
「これなら置いとけるね」
「うん」
◇ ◇ ◇
「じゃあ、ギルド戻ろっか」
オリビアは自分のGIANT TALONへ乗ります。
チャトラ、タマ、ミミは、借りた3台へ乗りました。
国境の取り付け道路では3人とも普通にペダルを踏みます。
オリビアだけは、いつもの運航です。
自分とTALONにかかる重力の有効値を少し小さくし、重力の向きも少し前方へ傾けます。
前向きの成分が加わり、軽くペダルを踏むだけで進みます。
4人で道路を走り、丘の上町へ向かいました。
平らな取り付け道路が終わると、今度は丘へ上る坂になります。
「ここだ」
チャトラが変速機を軽い側へ動かしました。
「さっきのギヤ使うところ」
タマとミミもローギヤ側へ落とします。
平坦な滑走路ではほとんど使わなかった軽いギヤが、ここでは役に立ちます。
3人はそのまま坂を上っていきました。
オリビアはTALONと自分の有効な重さを減らし、前向きの重力成分も使ったままです。
4人とも自転車で丘の上町へ入りました。
◇ ◇ ◇
冒険者ギルドの前で、チャトラたちは借りた3台を並べました。
オリビアはTALONを収納へ戻します。
4人で中へ入り、オリビアは北の国境ゲートの花壇工事の完了書類を受付のお姉さんへ出しました。
「終わりました。確認のサインもあります」
「はい。お預かりします」
受付のお姉さんが書類を確認します。
その隣にも、受付の席がありました。
見慣れない新人のお姉さんが座っています。
チャトラがそちらを見て、止まりました。
「……きなこさん?」
タマも見ます。
「ほんとだ」
ミミの長い耳も、その人の方へ向きました。
きなこさん。
チャトラ、タマ、ミミが施設にいたころの、2年先輩でした。




