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第78章 オリビアは鹵獲品の大量在庫バザーを開きます。

第78章 オリビアは鹵獲品の大量在庫バザーを開きます


 バザー初日の朝、丘の下町のイベントホールの入口には、ミミが描いたポスターが貼られていました。


『鹵獲品の大量在庫バザー』


 文字の周りには、衣類の山と、それを大きな袋へ入れている人たちが描かれています。軍服らしい服も混ざっていますが、階級章や勲章を強調した絵ではありません。


「遠くからでも読めるね」


 オリビアが入口の外から見上げると、ミミも少し離れて自分のポスターを確認しました。


「文字を大きくしたから。イベントホールの名前より大きくなったけど」


「今日はこっちが大事だからいいんじゃない?」


 中ではチャトラとタマが、入口と出口の計量場所を確認しています。


 前に4人で相談した通り、一般品の売り場は大きく6区画に分けました。


 夏用衣類が5t。


 春秋用衣類が5t。


 冬用衣類が5t。


 酷寒用衣類が5t。


 肌着などが5t。


 シーツを含むリネン系が5t。


 最初に出した分だけで30tあります。


 高緯度地方へ航海する船の船員用として備蓄されていた衣料も多く、冬用と酷寒用は特に種類が豊富でした。


「これ、今日だけでなくなると思う?」


 タマが酷寒用の山を見ながら聞きました。


「全部はなくならないと思う。でも、減った区画には収納から足すよ」


 タマは30tの売り場を見回してから、まだ収納に在庫があるのか聞きました。


「かなりあるよ。帝国海軍のほぼ全艦船分だから、これで全部じゃない」


「30t出して、まだ『かなり』なんだ」


 数字を聞くより、実際に山を見た方が量の異常さが分かります。


 別室には、高級品だけを並べました。


 麻や木綿を主体にした軍服のうち、生地や仕立てのよいもの。高級な敷物。そのほか、1点ずつ値段を付けた方がよい品です。


 ウールやシルク主体の儀礼用軍服は、そもそも専用魔法の対象になっていないため、ここにはありません。


 階級章や勲章も付いていません。


「開けるよ」


 予定時刻になると、入口を開けました。


 最初の客は、大きな布袋を2つ持っていました。


「この袋も一緒に量るんですよね」


「はい。持ってきた物ごと入口で量ります。出口でもう1回量って、増えた重量が買った分です」


 チャトラが計量結果を記録します。


「袋が重くても関係ないんだ」


「最初から同じ袋を持って出れば、差だけなので」


「なるほど。じゃあ大きい方も持って入ります」


 一般品は、種類に関係なく1kgあたり1/100フローリンです。


 客は欲しい服やリネンを自分で選び、袋や鞄へ入れます。


 出口で増えた分だけ精算します。


 商用ギルドカードと冒険者ギルドカードはそのまま使えます。現金で買いたい人は、先に商用ギルドで汎用トークンを買ってきます。


 会場内で4人が現金を数える必要はありません。


 しばらくすると、衣類とは別の物を探している商人がオリビアへ声をかけました。


「服じゃなくて、ロープはないのか?」


「ありますよ。各種混ざってますけど」


「太さや長さは選べる?」


「未選別なら、そのまま出せます。1tで10フローリンです」


 商人は、オリビアではなく自分の荷車の方を見ました。


「1t単位なんですか?」


 商人は少し驚きましたが、オリビアは普通にうなずきました。


「はい。荷車を持ってきてもらえれば、最初に総重量を量ります。そこから1t増えるまで収納から直接出します。中身は未選別です」


「なるほど。選ばない代わりに、その値段ということか」


「1本ずつ選別して値段を付けるつもりはないので、その売り方なら出せます」


 商人はしばらく考えたあと、荷車を空にして戻ってくることにしました。


 その商人は本当にしばらくして戻ってきました。


 荷車ごと重量を量り、記録します。


 オリビアは収納から、太い物も細い物も混じった各種ロープを荷台へ出していきました。


「これでどのくらい?」


 商人が荷台を見ながら聞きます。


「まだ730kgくらいです」


「見た目より重いな」


「あと270kg出しますね」


 さらに束を重ね、最後に計量します。


「これでちょうど1t増えました。10フローリンです」


「本当に1t積むとは思わなかった」


「1tで売ってますから」


 商人は笑いながら商用ギルドカードで精算しました。


 別室では、別の商人が上等な軍服を見ています。


 しばらく縫い目や生地を確かめたあと、値札を指しました。


「これ、もう少し安くならないか?」


「売れ残ったら良いですよ」


 オリビアが答えると、商人は少し考えました。


「最終日まで残ってたら?」


「そのときなら考えます。いま値引きする理由はないので」


「分かった。じゃあまた見に来る」


 無理に引き止める必要もありません。


 一般品は大量に減らしたいので重量売りですが、高級品は急いで値崩れさせる品ではありません。


 昼前になると、タマが一般品の区画からオリビアを呼びに来ました。


「オリビア、ちょっと来て。冬用がかなり減ってる」


「もう5t近く出た?」


「全部じゃないけど、山が低くなって探しにくくなってる。酷寒用も同じ」


 売り場へ行くと、朝に5tずつ出した山が、かなり小さくなっています。


 厚手の服を何着も袋へ入れている家族もいました。


「同じくらいの高さまで戻す?」


「その方が選びやすいと思う」


「分かった」


 オリビアは収納から冬用衣類を追加しました。


 続けて、酷寒用も追加します。


 きれいに洗浄された衣類の山が、また朝と同じくらいの大きさへ戻りました。


 タマがそれを見ながら言いました。


「今年の冬、寒い思いする人が減りそうだね」


 オリビアも売り場を見ました。


 1kgで1/100フローリンです。


 自分の分だけでなく、家族の防寒着までまとめて買っていく人がいます。


「そうだね。収納に置いたままより、その方がいい」


 補充が終わって戻ろうとしたところで、今度は別の客から声をかけられました。


「女性用の服はありませんか?」


「ほとんどないんですけど、少しあります」


「軍船の物が多いからですか?」


「それもありますけど、女性用で多かったウールやシルクの服は、そもそもこっちへ来てないんです。麻と木綿の分だけならあります」


 収納の中を確認すると、私掠船として奪い取った分なども含め、麻と木綿の女性用衣類が約2tありました。


「2tくらいなら出せます」


 客が一瞬止まりました。


「それで少しなんですか?」


「ほかの区画が5tずつなので」


 空いている一角を使い、女性用衣類の区画を追加しました。


 ウールやシルクの衣類を対象外にしたまま、麻や木綿主体の服だけを回収するよう魔法式を変えているため、女性用は他の区画ほど量がありません。


 それでも、売り場として見れば2tは十分な量でした。


 13時になると、オリビアは時間を確認しました。


「そろそろお昼にしよう。全員一緒に休むと止まるから、交替ね」


 収納から4人分の弁当を出します。


「今日、何のお弁当?」


 チャトラが箱を受け取りながら聞きました。


「水牛筋切りステーキ弁当」


「先に休んでいい?」


「いいよ。2人ずつにしようか。入口と出口は残したいから」


 チャトラとミミが先に休み、戻ってきたあとでオリビアとタマが食べました。


 午前中だけでも、立ったり歩いたりをかなり繰り返しています。


「肉にして正解だった」


 タマが弁当を食べながら言いました。


「午後も補充ありそうだしね」


 休憩が終わると、また売り場へ戻りました。


 15時30分。


 入口へ大きな表示を出します。


『あと30分で入場を締め切ります』


 買い物そのものを30分で終わらせる、という意味ではありません。


 16時になると、新しく会場へ入る人だけを止めます。


 中にいる人はそのまま選び、出口で精算できます。


 16時を少し過ぎると、入口側は静かになり、出口側の方が忙しくなりました。


「まだ中に何人くらいいる?」


 オリビアが聞くと、チャトラが入場記録を見ました。


「そんなに多くない。16時30分までには出られると思う」


「じゃあそのままでいいね」


 16時30分。


 最後の客の精算を終えて、初日のレジを止めました。


「1日目、終わったね」


 ミミが椅子へ座りました。


「まだ2日あるよ」


「分かってるけど、今日は終わり」


 商品は翌日も使うので、売り場に残せる分はそのままにしました。不足した区画だけ、翌朝オリビアが収納から補充します。


 2日目も同じ時刻に開場しました。


 初日に買った人から話を聞いたらしく、袋だけでなく荷車を連れて来る人も増えています。


 ロープの未選別1tセットも何度か売れました。


 衣類の方は冬用と酷寒用の減りが早く、リネン類もまとまった量が動きました。


 3日目になると、高級品の部屋にも空いた場所が目立つようになりました。


 午後、初日に軍服の値引きを頼んだ商人が戻ってきました。


「初日に見た軍服、まだあるか?」


「どれですか?」


「入口から入って右側の、上から2段目に掛かってたやつ。縫製がかなり良かった」


 オリビアは場所を見ました。


 そこはもう空いています。


「売れました」


 商人も同じ場所を見ました。


「……売れたか」


 商人は空いた場所を見たまま、少し残念そうに言いました。


「最終日まで残ったら安くしてもらおうと思ってたんだが」


「値札どおりで買った人がいました。残念でしたね」


「本当に残念だよ」


 最初の日に値引きを待った結果なので、オリビアが困る話ではありません。


 商人は苦笑して、別の品を見に行きました。


 3日目の15時30分にも、同じ表示を出しました。


『あと30分で入場を締め切ります』


 16時で新規入場を止めます。


 16時30分、最後の精算が終わりました。


「これで全部終わりです」


 チャトラが記録を閉じました。


 3日間の販売量をまとめると、一般のkg売り品は86tでした。


 1kgあたり1/100フローリンなので、860フローリンです。


 ロープは別に12t売れました。


 1tあたり10フローリンなので、120フローリン。


 高級品の個別販売は、合計1,200フローリンでした。


「全部合わせると2,180フローリンだね」


 オリビアが計算すると、ミミが高級品の記録を見ました。


「高級品、重さは少ないのに売上は一番大きいんだ」


「だから別にして正解だったね」


 一般品とロープだけでも、3日間で98tが会場から外へ出ています。


 来場者が自分で持てる量を超えると、荷車や運搬人が必要です。


 会場の外では3日間、荷車が何度も行き来していました。


「服を売ったのに、運送屋さんの方が忙しくなってた気がする」


 タマが言いました。


「98tあるからね。買った人が家まで持って帰らないといけないし」


「こんなに安く売って、地元の服を作るところは困らないの?」


 ミミが聞きました。


「このあたり、もうほとんど作ってないよ」


 旧へたれ国には、以前は繊維や衣類を作る生産者がいました。


 ところが重税で、生産者はほとんど倒産しました。


 工場も職人も、簡単には国外へ移せません。生産設備を持って現地で作っている業者ほど逃げられなかったのです。


「生き残ったところも、作るのをやめて衣料系の商社みたいになって、本社をへたれ国外へ移せたところがほとんどなんだよね」


「じゃあ、今回の安い服と競争する地元工場自体がないんだ」


「そう。そこは悪影響を気にしなくていいと思う」


 旧へたれ国が残したものは、こういうところにもあります。


 安い衣料を大量に放出しても、地元の繊維工場を潰すことにはなりません。


 その代わり、荷車や運送の仕事はかなり増えました。


「じゃあ片付けようか」


 オリビアが言いました。


「これ、全部戻すの?」


「収納に入れるだけ」


 売れ残った衣類、高級品、ロープ、会場内で使った備品を順番に収納へ戻していきます。


 3日間で98t以上の商品を動かした催事なのに、撤収だけは数分で終わりました。


「早い」


 チャトラが、何もなくなった区画を見ました。


「出すのも片付けるのも、オリビアがいると反則だよね」


「便利だからいいでしょ」


「いいけど」


 4人はそのまま丘の上町の冒険者ギルドへ戻りました。


 今回の販売員の仕事は、オリビアが3人へ直接頼み、正式にはギルドの指名依頼として登録してあります。


 3日間で、1人あたり税込み6フローリンです。


 受付のお姉さんが3人のカードへ精算を入れました。


「税相当分が2フローリン。今回の受取は1人4フローリンずつです」


 チャトラがカードの記録を見ました。


「今回は2フローリン引かれるんだ」


 チャトラがカードを見ていると、受付のお姉さんが納税週間のときと同じ説明をしました。


「税相当分です。学生としての条件を来年も満たしていれば、そのときの還付対象になる可能性がありますよ」


「じゃあ、また戻ってくるかもしれないんだ。ちゃんと学校行こう」


「税金のためだけに通うわけではないでしょうけど、出席はしてくださいね」


「もちろん。勉強もします」


 3人とも、今年の還付でその仕組みはよく分かっています。


 受付のお姉さんが笑いました。


 食堂では、4人分の料理を用意してもらいました。


 ジャム入り紅茶。


 ピロシキ。


 ビーフストロガノフ。


「3日間、お疲れさま」


 オリビアが紅茶を持ち上げると、3人もそれぞれカップを持ちました。


「お疲れさま」


 4人で飲み物を合わせるようなことはせず、それぞれ席について料理を食べ始めました。


「それにしても、いっぱい売れたね。ロープだけで12tだよ」


 ミミが記録を思い出すと、チャトラも最初の客のことを覚えていました。


「『ロープある?』って聞かれただけだったのに、最後は1t単位で売ってたもんね」


「1tで聞かれたわけじゃないよ。私が1tで出したの」


 オリビアが訂正すると、3人はそのときの荷車を思い出して笑いました。


 午前中の混雑、冬物の補充、高級軍服を値切って買い損ねた商人のことまで、食事をしながら何度も話題に戻りました。


 今年、チャトラ、タマ、ミミは、冒険者になって初めてギルドの扶助を受けなくても暮らしていけそうなところまで来ています。


 今回の3日間の仕事は、魔物と戦う依頼ではありません。


 それでも3人は、自分たちで働いた報酬として、それぞれ4フローリンを受け取りました。


「またやる?」


 ピロシキを食べながら、ミミが聞きました。


 オリビアは少し考えました。


 収納には、まだ鹵獲品が残っています。


「しばらくはいいかな」


 3人が笑いました。


 3日間続いた『鹵獲品の大量在庫バザー』は、そこで本当に終わりました。


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