第64章 オリビアはコンコルドで切り通しを直します。 ギルドで土木系依頼をうけました。
第64章 オリビアはコンコルドで切り通しを直します
冒険者ギルドへ行くと、受付のお姉さんから、南の国の港町にある租界を管理している海の向こうの帝国の治安部隊から届いた連絡を渡されました。内容は、この前の爆弾事件のあとに起きたことについてです。
食堂の外で重傷を負った女性を治したあと、帰ろうとしたオリビアへ剣を向けた治安兵が2人いました。1人目は剣を向けた直後に庇へ飛び、2人目はそれを見たあとでもう一度剣を向けています。その場では、オリビアが女王だということまで誰も知りませんでした。
ところが食堂の中で名前と身分を答えたあと、治安部隊側で正式な確認が行われました。周辺国へ送られていた即位の書簡と外交記録を照合すれば、マリア・サロメア・スクウォドフスカがエルフ国の女王であることが確認できます。そこまで確認すれば、ピュアエルフの女王本人であることも分かります。
連絡には、剣を向けた2人だけでなく、その2人を管理していた上司たちについても調査していることが書かれていました。どこまで処分するべきか、女王本人の意向を確認したいようです。
オリビアはしばらく考えました。本人は怪我をしておらず、2人とも庇へ突っ込んだあと地上へ戻しています。上司まで含めて誰をどう処分するかは、治安部隊の内部で決めてもらえばよいと思っていましたが、女王として何も言わずに任せれば、相手が必要以上に重い処分を選ぶ可能性があります。
オリビアは返事を書きました。
「この件については、100年ほど考えてから返答します。それまでは必要な教育をしたうえで、現在の仕事を続けていただいて構いません。処分や配置などの現状変更は、100年後に必要があれば改めてお知らせします」
書き終えた返事を封筒に入れて封をし、受付のお姉さんへ渡しました。
「100年くらい考えてから返事をすることにしました。それまでは教育して、今の仕事を続けてもらいます。現状変更は100年後です」
「100年後ですか?」
「はい」
受付のお姉さんは少し驚いた顔をしました。
「それで問題は片付きました。南の国の租界にあるお店で、治安維持の兵士さん2人に剣を突きつけられたので、庇にがっちゃんと突っ込ませた件です」
受付のお姉さんはしばらくオリビアを見ていました。
オリビアはそのまま依頼掲示板の方へ行き、今日残っている依頼を順番に見ます。
北の国との街道にある切り通しの補修工事が出ていました。崩落で馬車が通れなくなり、現在は徒歩か馬で通れるだけです。報酬は固定額ではなく、実際に復旧した土工量に応じる歩合制でした。
「これにしよう」
オリビアは依頼書を外して受付へ持っていき、内容を確認して署名しました。受付で受注処理が終わると、依頼書を受け取ってギルドを出ました。
*
切り通しへ向かう途中から、オリビアは飛行魔法を使いました。今回は、以前から気になっていた交通手段の召喚を使うつもりです。その前に、作業する場所に人がいないことを確認しておきます。
北の国との間にある山脈は、幅が約3kmあります。両側の平地は海抜数mほどで、山脈の一番高いところは約800m、街道が越えている鞍部は約300mです。
南の国で見た緑の多い土地とは違い、この山脈は南北の斜面とも不毛でした。もともと花崗岩質の山脈で、風化した表層には石英質の砂が多く残っています。その土壌条件に合う植物がこの地域にはなく、山腹は畑や集落のない不毛地帯になっています。
旧街道は旧ヘタレ国側の山腹をトラバースしながら標高を稼いで鞍部へ向かい、切り通しを抜けた北の国側では反対側の斜面へ取りついて下っていました。峠部分を除いても、両側を合わせて約12kmあります。鞍部では尾根をさらに削った切り通しを通り、本来の道幅は4m、両側の崖は高いところで約50mありました。その切り通しが崩れ、馬車が通れなくなっています。
オリビアは上空から峠の両側を何度も確認しました。崩落した切り通しの中にも、旧道にも、作業している人はいません。徒歩の旅行者、馬、荷車も見当たりませんでした。
「誰もいないね」
周囲は土地利用のない不毛地帯なので、普通に掘削する工事でも土砂の置き場所には困りません。オリビアは安全を確認してから旧ヘタレ国側へ降り、神様から最初にもらった交通手段の召喚を開きました。
一覧には、まだ呼び出したことのない交通手段があります。その中から、以前から気になっていたコンコルドを選びました。
「これ、やってみよう」
最初は旧ヘタレ国側から北の国側へ向け、機首を真北に合わせてコンコルドを滑走路と一緒に召喚しました。
白い機体とともに、舗装された07/25の滑走路が現れます。パリの博物館がある空港の07/25と同じ規模で、長さは約3km、幅は45mです。
滑走路は周囲の地形より優先され、山脈の形が滑走路を実用できる状態へ変わっていきました。道路面は水平なまま真北へ延び、その両側は崩れない角度の斜面へ削られます。崩れていた旧切り通しも、その周囲の山体も、新しい滑走路の形に合わせて変わり、削られた土砂はその場から消えていきました。
約3km先で舗装路は北の国側へ抜けています。オリビアがコンコルドを収納すると機体だけが消え、滑走路はそのまま残りました。
「残るんだ」
オリビアは新しくできた舗装路を見ました。
「町の近くで試さなくてよかった……」
飛行機の召喚を町の近くで試すのは危なそうだと思って避けていました。滑走路まで地形へ優先して出現することが分かり、その判断で正解でした。
山脈を真北へ抜ける約3kmの道はできました。旧道の両端にある町を外してしまうと不便なので、次は両側の元の登り口の町へ水平な道をつなぎます。
旧ヘタレ国側では、元の登り口の町から西へ向けて07/25を1本召喚し、コンコルドを収納してから、その先へ同じ向きでもう1本続けました。約3kmの滑走路が2本つながり、南斜面の直下に約6kmの水平な舗装路ができ、その西端が先ほど真北へ通した3kmの切り通しにつながりました。
北の国側へ回ると、切り通しの北端から東へ向けて07/25を2回使いました。こちらも1本ごとにコンコルドを収納し、滑走路だけを残します。北側にも約6kmの水平な舗装路が伸び、元の北の国側の登り口の町までつながりました。
使った滑走路は5本とも07/25です。幅45mの舗装された直線路が、旧ヘタレ国側では東から西へ約6km、そこから真北へ約3km、北の国側へ出たところから東へ約6km続く形になりました。
作業の途中では、持ってきたお弁当も食べました。食べ終わってからもう一度上空へ上がり、できた道路を最初から最後まで確認します。
今までの旧道は、標高約300mの峠へ向かって斜面を登る道でした。地図を北を上にして見ると、旧ヘタレ国側の登り口から旧切り通しへ向かう部分は右上がりの斜め線になります。新しい水平路を造るために山腹が削られた結果、斜めに登っていた旧道の下部は山側斜面と一緒に消え、旧切り通しに近い高所側の斜め区間だけが斜面の上に残っていました。
両側の元の登り口の町は新しい水平路へ直接つながっています。周囲の道からも、それぞれ約6kmある水平路のいちばん近いところへ道をつなげられます。
オリビアは全体を確認しました。
道路の確認を終えるころには、もう夕食の時間です。
オリビアは飛行魔法で丘の上町へ戻り、冒険者ギルドへ戻りました。
*
「終わりました」
オリビアは依頼書を受付へ出して、切り通しの作業が終わったことを報告しました。
受付のお姉さんが、これからの確認について説明しました。
歩合制の土工依頼では、土工量を計算できる専門家が毎日早朝に現地を確認し、写真と測量記録を残しています。作業が終わったあとは、その専門家がもう一度現地へ行き、朝の記録と作業後の状態を比べて、その日の出来高を算定します。
複数の受注者が同時に作業している場合は、担当範囲を分け、運び出した土砂などにも目印を付け、写真の記録と合わせて、それぞれの出来高を分けて計算します。
今日は、この工事を受けていたのはオリビア1人だけです。今朝の確認記録から変化した分は、すべてオリビアの出来高になります。
土工量を計算できる専門家が現地へ行き、新しくできた水平路と切り通し全体の延長、幅、断面、切土斜面などを確認して、今朝からどれだけ地形が変わったかを計算します。
専門家の確認と計算はまだ終わっていないので、報酬は今日は受け取りません。
報告を終えると、オリビアはギルドを出て、しらかば亭へ帰りました。
「ただいま」




