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第56章 オリビアは戦列艦の計算書を受け取ります。

第56章 オリビアは戦列艦の計算書を受け取ります


 海の向こうの帝国では、東の大国へ送った艦隊の後始末と、海軍全体の編成見直しが始まっていました。


 皇帝の前には、海軍大臣、海軍幹部、大陸方面司令官、それに陸軍側の上級者が集められています。


「先の東の大国への攻撃作戦について説明しろ」


 皇帝が言いました。


 大陸方面司令官は、机に広げられた地図を見ました。


「旧ヘタレ国に対して行っていた懲罰遠征を基礎に、港町への艦砲射撃と上陸によって貢納の再開を迫る計画でございました」


「東の大国の陸軍力を承知したうえでか」


「はい。海軍力のみで東の大国そのものを屈服させる見込みはないと認識しておりました」


「それでも実行したのか」


「はい。旧ヘタレ国の延長として処理できるとの判断が、当時の作戦立案側にございました」


 旧ヘタレ国は、東の大国へ統合されています。


 東の大国は、旧ヘタレ国を統合するまで海岸線を持っていませんでした。そのため、外洋海軍もありませんでした。陸軍力は以前から非常に大きく、海岸の港町を占領したところで、その国を屈服させる見込みはありませんでした。


「艦隊で港町を砲撃した。その後はどうする予定だった」


 皇帝が尋ねました。


「上陸軍によって港周辺へ圧力をかけ、貢納の再開を求める計画でございました」


「東の大国の陸軍を相手にか」


 返事はありませんでした。


「旧ヘタレ国の港を攻めるように、東の大国の港を攻めた。その違いすら考えなかった者を、軍に置いておく理由はない」


 作戦を立案し、承認した軍人たちは粛正されました。


 皇帝は海軍大臣へ目を向けました。


「海軍の編成は組み直せ。南と北まで貢ぎ物を止めた。ほかまで続けば厄介だ」


「各方面の艦隊を再編し、南北にも常時動かせる戦力を置く方針で進めます」


 海軍大臣が答えました。


「東の大国につきましては、今後どのように扱われますか」


 大陸方面司令官が尋ねました。


「戦わない。あの国とは交渉する」


 皇帝が答えました。




◇ ◇ ◇




 南の国と北の国は、東の大国ほどの陸軍を持っていませんでした。


 再編された方面艦隊が南北それぞれの国の沿岸へ進み、港を押さえ、首都の離宮や施設に火を掛けたりして圧力をかけました。


 両国は首都で史実の列強が清国と結んだ北京条約のような条約を結びました。


 南の国も北の国も、それぞれ港町を1000年間、海の向こうの帝国へ租借します。


 帝国は、南の国と北の国から1つずつ租借した2つの港町に、それぞれ海軍基地を建設しました。


 基地の駐留経費については、南の国と北の国がそれぞれ同額を海の向こうの帝国へ払う形で負担します。


 その名目は、


「同盟強靱化予算」


 という名のみかじめ料でした。


 両国が負担する額は、それぞれの基地の駐留経費のおよそ75%に相当します。




◇ ◇ ◇




 海の向こうの帝国では、皇帝が海軍大臣へ命じました。


「同盟強靱化予算は、現行額の5倍を要求しろ」


「南北とも同額でよろしいでしょうか」


 海軍大臣が確認しました。


「同額だ」


 皇帝が答えました。


「承知しました」


 帝国の財務官は、その収入と南北2国から得る戦費賠償を並べて計算しました。


 東の大国へ支払う謝罪賠償、戦列艦の買戻し、捕虜の買戻しに必要な金の大半は、南の国と北の国から入る金で賄えます。


 東の大国と戦うより、東の大国とは大国同士として交渉する。


 帝国の方針は、そこではっきり変わりました。




◇ ◇ ◇




 しばらくして、丘の下町に隣接する港町へ、海の向こうの帝国の使節が到着しました。


 今回は、外交使節を乗せた船としての来港です。


 港の行政官と東の大国の役人が、使節を迎えました。


「皇帝陛下の名において、先の攻撃について正式に謝罪いたします」


 使節は頭を下げました。


「港町、丘の下町、その周辺に生じた損害についても、帝国が賠償いたします」


 東の大国の行政官が書類を確認しました。


「謝罪と賠償については受け取ります。艦船と捕虜については別件ですね」


「はい。帝国として、戦列艦20隻を買い戻したく存じます」


「30隻すべてではなく、20隻ですか」


 行政官が確認しました。


「はい。そちらで10隻を研究用に残されることも承知しております」


 使節が答えました。


「捕虜はどうされますか」


「所属国として、全員の買戻しを希望します」


 行政官は頷きました。


「捕虜の買戻しができるのは、その軍人の所属国だけです」


「承知しております」


「艦船の売却とは会計も別です」


「異存ありません」


 捕虜については、決められた買戻し金を帝国が支払います。


 捕虜の買戻しは、所属国が自国の軍人を引き取るための返還手続きとして扱われています。


 東の大国では、盗賊を捕らえた場合も賞金首に指定されていれば別途賞金が支払われるだけです。


 次は戦列艦です。


「買戻し価格はこちらです」


 行政官が計算書を出しました。


「建造時価格に、1から経過年数を20年で割った値を引いた係数を掛けます」


 使節が紙を見ます。


「建造時価格×(1-経過年数÷20年)、ですね」


 使節が式を読み上げました。


「はい。20年以上を経過した艦は0フローリンです」


 行政官が答えました。


「無料で返還される艦もあるのですか」


「計算すると0になりますので」


 行政官は、それ以上何も付け加えませんでした。


 艦を失った相手だからといって価格をつり上げることもなく、行政官個人への手数料もありません。


 帝国側には各艦の建造記録が残っています。


 艦名、建造時価格、建造年を照合すると、東の大国が出した計算はすべて一致しました。


「この条件でお願いします」


「承知しました」


 買い戻される艦には、オリビアが船ごとに分けて保管していた帆布、索具、ブリーチングロープ、タックル、オーカムなども、それぞれ元の艦の分として付けられました。


 海の向こうの帝国は、自国の船員と技術者を送り、20隻を順番に復旧させることになりました。




◇ ◇ ◇




 捕虜が海の向こうの帝国へ戻ると、すぐに事情聴取が始まりました。


 海軍上層部には、30隻の乗員を反逆者として扱い、帰国後に軍法会議へかけるつもりだった者もいました。


「反逆が事実であれば、軍法上、処刑を含む処分を検討せざるを得ません」


 そう主張していた幹部もいました。


 ところが、艦長、士官、下士官、水兵、海兵を分けて聴取すると、証言は一致しました。


「帆が消えました」


 最初の10隻に乗っていた艦長の1人が証言しました。


「索具もです。大砲を止めていたブリーチングロープまで消えました」


 同じ艦の砲術下士官が続けました。


「船板の継ぎ目から水が入りました。服まで消えました」


 水兵の証言も一致していました。


 2回目の20隻に乗っていた者たちは、さらに別のことを証言しました。


「発砲命令は出ていました。しかし、火薬が正常に使えませんでした」


 2回目の20隻に乗っていた砲術士官が証言しました。


「帆と索具も消え、そのまま操艦不能になりました」


 別の艦の航海士も同じ経過を話しました。


 そして、忠誠度の高い乗員だけで編成した3隻のうち、沈んだ2隻から救助された者たちも戻ってきました。


 砲台から撃たれたのは炸薬の入っていない実体弾でした。艦そのものは多数の命中で壊れましたが、海へ投げ出された乗員のかなりの人数が生き残り、東の大国の陸軍兵がカッターで救助していました。


 彼らは捕虜収容中に、先の30隻の乗員とも話しています。


「反逆の命令など聞いていません」


 救助された政治将校の1人が言いました。


「こちらの艦では普通に帆も火薬も使えました。先の艦隊で起きたこととは違います」


 同じく救助された艦長も証言しました。


「捕虜になってから先の艦隊の者とも話しましたが、敵へ艦を渡そうとした者がいたという話は聞いていません」


 買い戻した戦列艦の状態も調べられました。


 人為的に帆装を外した痕跡とは合いません。


 証言と現物を合わせると、30隻の乗員が裏切ったという説明は成り立たなくなりました。


 事情聴取と艦の調査結果を確認した海軍大臣が、方針を示しました。


「反逆として扱う根拠は失われました。懲罰も、不名誉除隊も行わないことにしましょう」


「復帰を希望する者については、いかがいたしましょうか」


 海軍幹部の1人が尋ねました。


「希望する者には復帰を認めましょう。退役を希望する者については、通常の手続きで扱ってください」


 海軍大臣が答えました。


 大量に失ったと思っていた熟練乗員のかなりの人数が、帝国海軍へ戻ることになりました。




◇ ◇ ◇




 それから数日後。


 オリビアが冒険者ギルドへ入ると、受付のお姉さんが分厚い書類を持っていました。


「オリビアちゃん。国から来てるよ」


「私にですか?」


「うん。戦列艦の売却について」


「船は国のものになったんじゃないんですか?」


「そこが、この書類の話みたい」


 オリビアは受付の前で書類を開きました。


 最初に、東の大国の法律の条文が付いています。


『戦時またはそれに準ずる戦闘行為によって鹵獲品が生じ、これを売却した場合、売却による素利益の20%は、当該鹵獲を行った兵士、国民または住民に帰属する。複数人数の協力による場合は、別途定める計算方法によって配分する』


「こんな法律があるんですね」


「あるみたい。捕虜の買戻し金は対象外だって」


「捕虜は鹵獲品じゃないですからね」


「うん。船だけ」


 今回売却する20隻について、艦船そのものの鹵獲者はオリビアと認定されていました。


 その後ろには、帝国側の建造記録と照合した計算書が続いています。


 海の向こうの帝国は、取り込んだ地域の海軍と艦名を引き継いできたため、艦名だけを並べると別々の国の艦隊のように見えました。


『戦列艦買戻し計算書』


 アカシ     建造時価格 1,750,000フローリン 経過5年  船価 1,312,500フローリン オリビア分 262,500フローリン


 タイゲイ   建造時価格 1,750,000フローリン 経過6年  船価 1,225,000フローリン オリビア分 245,000フローリン


 シャルンホルスト    建造時価格 1,750,000フローリン 経過7年  船価 1,137,500フローリン オリビア分 227,500フローリン


 プリンツ・オイゲン    建造時価格 1,750,000フローリン 経過8年  船価 1,050,000フローリン オリビア分 210,000フローリン


 ウォースパイト   建造時価格 1,750,000フローリン 経過9年  船価 962,500フローリン オリビア分 192,500フローリン


 レナウン    建造時価格 1,750,000フローリン 経過10年 船価 875,000フローリン オリビア分 175,000フローリン


 レパルス    建造時価格 1,750,000フローリン 経過11年 船価 787,500フローリン オリビア分 157,500フローリン


 ヴァンガード  建造時価格 1,750,000フローリン 経過12年 船価 700,000フローリン オリビア分 140,000フローリン


 ドレッドノート    建造時価格 1,750,000フローリン 経過13年 船価 612,500フローリン オリビア分 122,500フローリン


 ロイヤル・オーク    建造時価格 1,750,000フローリン 経過14年 船価 525,000フローリン オリビア分 105,000フローリン


 ヴァリアント    建造時価格 1,750,000フローリン 経過15年 船価 437,500フローリン オリビア分 87,500フローリン


 リヴェンジ   建造時価格 1,750,000フローリン 経過16年 船価 350,000フローリン オリビア分 70,000フローリン


 ダンケルク    建造時価格 1,750,000フローリン 経過20年 船価 0フローリン オリビア分 0フローリン


 ストラスブール    建造時価格 1,750,000フローリン 経過21年 船価 0フローリン オリビア分 0フローリン


 リシュリュー   建造時価格 1,750,000フローリン 経過22年 船価 0フローリン オリビア分 0フローリン


 ジャン・バール    建造時価格 1,750,000フローリン 経過23年 船価 0フローリン オリビア分 0フローリン


 ヴィットリオ・ヴェネト    建造時価格 1,750,000フローリン 経過24年 船価 0フローリン オリビア分 0フローリン


 リットリオ    建造時価格 1,750,000フローリン 経過25年 船価 0フローリン オリビア分 0フローリン


 コンテ・ディ・カヴール    建造時価格 1,750,000フローリン 経過26年 船価 0フローリン オリビア分 0フローリン


 ジュリオ・チェザーレ    建造時価格 1,750,000フローリン 経過27年 船価 0フローリン オリビア分 0フローリン



 船価合計は9,975,000フローリン。


 その20%で、オリビアの取り分は1,995,000フローリンでした。


「……だいたい2,000,000フローリンですね」


 オリビアが言いました。


 1フローリンを約9,000円として日本円に換算すると、およそ180億円です。


 現代なら、大型フェリーを1隻新造できるくらいの金額でした。


 受付のお姉さんは、もう一度計算書を見ました。


「これ、オリビアちゃんの口座に入るって」


「そうなんですか」


「反応、それだけ?」


 オリビアは少し考えました。


「これなら、当面の宿代には困りませんね」


 受付のお姉さんはオリビアの顔を見て、それから書類を見ました。


「まあ、エルフだもんね」





すこし趣をかえた少女主人公の新作を始めました。オリビアちゃんの更新待ちにでも読んでみてください。

主人公はカタリナ13歳の第3王女から始まります。1日3回更新のオリビアちゃんとちがい、朝7時台に1日1回更新なのでのんびりしか進みませんから、時々訪れてくださるとうれしいです。

タイトルは、 


魔国と魔王の誕生 13歳の第3王女は魔王になることを選びました。


です。


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