第54章 オリビアは20隻も浜に並べます。規模を拡大した第2波侵攻です。
第54章 オリビアは20隻も浜に並べます
最初の10隻が砂浜に並んでから、2か月ほどたちました。
東の大国では、戦列艦の中を調べる作業が続いていました。
けれども、船を海へ戻して自由に動かせるようにはなっていません。
もともとこの国には、外洋航海をする商船すらありませんでした。河川で船を扱う人たちはいても、遠洋航海術を持つ船員の集団がありません。海軍と呼べる組織もなく、水上警察や河川管理を担当する部署が、カッターの扱いから覚えているところでした。
「まだ1隻も動かせないんですね」
オリビアが聞くと、ギルド長さんは頷きました。
「港もここ1つだけだ。10隻を係留する場所もない」
「そうですね」
「船を調べるだけでも、しばらくかかりそうです」
受付のお姉さんが横から言いました。
「そういうこと言うと、本当に増えそう」
その日の午後、ギルドへ急ぎの知らせが入りました。
「……増えた」
お姉さんが紙を持ったまま言いました。
「何がですか?」
「船。今度は20隻」
「倍ですね」
「それだけじゃないよ。使者も来たって」
海の向こうの帝国は、最初の10隻と捕虜の返還を求めていました。
そして要求はそれだけではありません。
旧ヘタレ国は、海の向こうの帝国へ定期的に貢ぎ物を差し出していました。海岸を攻撃されないためです。
東の大国が旧ヘタレ国を取り込み、海岸線を持ったあと、その貢ぎ物は止まっていました。
「使者は何て?」
オリビアが聞きました。
「前の国と同じように貢ぎ物を差し出して属国になるか、滅びるか選べって」
「ずいぶん分かりやすいですね」
ギルド長さんは苦い顔をしました。
「20隻は、その返事を聞くための船でもあるらしい」
「じゃあ、見に行きます?」
「行こう」
3人が海の見える場所まで出ると、沖には本当に20隻の大きな戦列艦が並んでいました。
さらに遠い沖には、前と同じように観察役らしい船が1隻います。
オリビアはしばらく見てから、ギルド長さんに聞きました。
「今度の20隻はどうしますか?」
「できるなら、壊さず鹵獲してくれ」
返事は早いものでした。
「前は少し迷ってましたよね」
「10隻を2か月調べて、価値が分かってきた。動かせなくても教材にはなる」
「分かりました」
受付のお姉さんが沖を見ました。
「また洗うの?」
「はい。今回も船が来る3日前を基準にします。シュロ、麻、木綿を汚れとして取り去ります」
「また裸になるんだ」
「たぶん」
「今回は砲撃される前だけど、大砲は?」
「それから、今回は単体の硫黄も汚れとして指定します」
ギルド長さんが振り返りました。
「硫黄?」
「黒色火薬に入っています。船がいる水域全体へ洗浄魔法をかけて、その中にある単体の硫黄を汚れとして取り去ります」
「それで火薬が使えなくなるのか」
「はい」
20隻はまだ発砲していません。
オリビアは魔法の範囲と時刻条件を確認しました。
「水が入るので、今回は最初から重力の有効値を半分くらいにします。方向も少し浜辺寄りにします」
「前より手際がいいね」
「1回やりましたから」
「戦列艦を浜へ並べるのに慣れないでほしいなあ」
洗浄魔法が発動しました。
20隻の帆と索具が一斉に消えます。
火薬に含まれていた単体硫黄も対象になりました。
艦隊は砲撃を始めることもできず、風とオリビアが調整した重力の向きに押されるようにして、少しずつ浜へ寄ってきました。
東の大国の陸軍はすでに準備していました。
海兵が上陸しようとすると、前回の経験がある部隊が小集団ごとに包囲します。
「武器を置け!」
「抵抗するな!」
艦砲射撃が来ないと分かっているので、陸軍側の動きは早いものでした。
ほとんどの海兵が短時間で武装解除されました。
「前より早いですね」
「こっちも慣れたんだろう」
「慣れるものなんですね」
「相手が同じことをしてくればな」
20隻が浅瀬へ乗り上げると、オリビアは1隻ずつ重力を調整し、前の10隻の横へ運びました。
波の届かない砂浜に、巨大な船が30隻並びます。
洗浄で回収した帆や索具、衣類なども、前回と同じく船ごとに分けて置きました。
「30隻になりました」
「なったな」
「港には入りませんね」
「最初から入らん」
◇ ◇ ◇
沖の観察艦では、高級将官がまた望遠鏡を握っていました。
「……20隻とも発砲していない」
「はい」
「また帆を失い、同じ浜へ寄った」
「はい」
「敵が砲撃した形跡は?」
「確認できません」
高級将官は長く黙りました。
「前の10隻と同じだ」
「将軍」
「海軍の中にいる。敵へ船を渡している者が」
「20隻すべてにですか」
「発砲すらしていない。撃つなという命令が出た可能性もある」
「では、本国へ?」
「戻る。これは事故ではない」
◇ ◇ ◇
海の向こうの帝国では、皇帝の前に海軍大臣、海軍幹部、大陸方面を担当する司令官が集められました。
「今度は20隻だそうだな」
皇帝の声は低いものでした。
「はっ」
「最初の10隻と合わせて30隻。すべて敵の浜にある」
「そのとおりです」
「どう説明する」
海軍大臣が答えました。
「陛下。海軍内部に大規模な工作組織があると考えます」
「30隻分の乗員が裏切ったと?」
「少なくとも、指揮系統に反逆者がいる可能性が高いと見ています。2回とも艦隊はまともに発砲せず、船をほぼそのまま敵へ渡しました」
大陸方面司令官が口を挟みました。
「敵が未知の兵器を持つ可能性は?」
海軍大臣は首を横に振りました。
「観察艦は砲撃も爆発も確認していません。帆を自ら処理したように見えています」
「ならば裏切りか」
皇帝が机を指で叩きました。
「次はどうする」
「3隻を送ります」
「少ないな」
「海軍内で、忠誠と信頼を最高水準で確認できる乗員だけを集めます。3隻分なら確保できます」
「4隻目は?」
「そこから1段、信頼度が落ちます」
「なら3隻だ」
「各艦に政治将校を同乗させます。目的は浜の30隻の確認と、現地の状況調査です」
「敵が抵抗した場合は?」
「当然、反撃します」
皇帝は頷きました。
「行かせろ。今度こそ、誰が裏切っているのか確かめろ」
その命令で、帝国海軍の中でも特に信用された乗員たちが3隻へ集められることになりました。




